メモ
トントン
何かが肩に触れた。いや、人なのだろうがどっちだろうと驚いたことに変わりはなかった。
なぜなら、ここに私を知っている人などいない。きっと、人違いだったのだろう。そう思って無視をした。
トントントン
願わくば、誰とも会話をしたくなかったのだが、どうやら今日はついていないらしい。
このまま無視したいが、相手に余計な印象をあたえる行為は控えねばならない。
上手く、接しないと。
笑顔をつくり、何気ない素振りで振り向いた。
「ねっ、1人?」
「えっ?」
私は、いいかけた言葉をうまく戻せず、ただ呆けてしまった。
「だ、か、らぁ~あんなのいないの?」
指の指す先には、さっき「おなちゅう~」とか言って集まっている女子だった。
再び目の前に視線を戻すと「どうなん?」といいたげそうな顔をした彼女がいた。
私より背の高いその人は、少し茶色っぽい髪で、大きくうねるウェーブが胸あたりまであった。手首には、ミサンガをしており可愛らしい顔をしていた。
絶対、皆からモテるだろうな……。でも、何で私に?
からかいにきたのか? 入学初日で目をつけられたのか?何かまずい行動したのか?
ああ終わった、もう穏やかな学校生活なんて無理だ……。
「んぁあ、物分かり悪いなぁ! ここの近くの中学出身かってことだよ」
またもや不意打ちを食らうような口調だった。初対面とは思えないようなフレンドリーさ。顔とのギャップが、凄まじかった。
「ねぇ、ねぇ!」
「あ、ごめんね。近くじゃないよ」
私の考える間なんててんでなかった。私は、こういう人が嫌いだ。この強引さ、恐喝そのものではないか。こういう人は、一番警戒すべき対象の1人である。
「やっぱりぃー、ラッキー。一緒じゃん。ね、友達になろうよ」
「友達……?」
「あん? 友達ぐらい知ってるでしょ? ダチだよ、ダ、チ」
私の顔は自然と引きつってしまった。私には苦い出来事を生み出す悪魔の囁きなのだ。
「友達になろう」だなんて、「仲良くしよう」だなんて。
みんなそうだ。みんな挨拶のように軽々しく口にする。
この言葉がどんなに救いの一言で、偽りの一言か。
私は、全身で理解している。
本当は、こんなに嬉しい気持ちのまま、素直に返事をしたい。そうできたら楽なのに。
それなのに、この人だってアレを見たらそんな言葉取り消すに決まってる。
気持ちだけ有り難う。
私が思いを固めると同時に、彼女は口を開いた。
「だめかぁ~、ごめんなぁ無理いって」
気づかぬ間に、私は彼女に対して拒絶の雰囲気を出していた。
何とかして穏便にことを終わらせたかった。だが、もう遅かった。
異様な空気が私の周りに密集し、肩にのしかかる。彼女と私には、それだけの温度差があるのだ。
目の前の人は、困惑する私の顔を見て暫く間をあけこう言った。
「こういう性格って無神経で苦手だよね……。あ、いいのいいの。慣れてるし……」
「そ、そうじゃなくてっ! 」
はっ!
周囲を見渡したが誰も浮かれ状態でこっちを見ていなかった。それと同時に、あたしは、自分の言葉に驚いた。こんな大きな声いつ以来だろうか。
驚いているのはもう1人、彼女だった。
「あ、ごめんなさい大きな声出して」
「あ……あぁ。じ、じゃあ、友達になってくれるん? 」
……
私は、再び沈黙とかしてしまった。しかし、黙っていては何も変わらない。
「ごめんなさい。でも、あなたのせいじゃないんです」
そういって、この場を逃げさろうとしたらガシッと腕を捕まれた。
「理由ありなんだね……」
私は、相手の目を見ながらゆっくり頷いた。
彼女は、それをみて深刻な顔をした。かと思えば、ちょっと考えるような仕草をしてこう言った。
「今日、入学式終わったら校門でまってるから。だからさ、ほら、チャンス頂戴よ」
そういって先に逃げさったのは彼女の方だった。
まだ名前も知らない人、それも危険視すべき相手になぜ自ら声をかけてしまったのか?
はぁ、やってしまった。これでは、約束を守ろうが断ろうがしこりが残るに違いない。そしてああいうタイプは、リーダー格やその付近になって周りに影響を与えるタイプになる。そしたら、目をつけられ……。
あぁ、だからああいうのとは付き合いたくないんだ。なんで、私の周りにはそんな人しかいないのだろうか?
本当は、私は彼女の強引さに少しだけ惹かれてたのかもしれない。あんなふうになれれば気持ちをおしとどめる必要もないだろう。
しかし、あんなことをすれば目立ってしまう。私は、目立ってはいけない。特殊なんだ。
特殊っていうのは、排除されやすいんだ。
特殊は、理解されずらい。いくら私が説明しようと、"特殊"と聞くだけで耳を塞いでしまうのだ。
頼むから、偽善や同情ならそっとしていてほしい。
私は、玄関のクラス名簿を確認すると体育館へと向かった。