テイヅキニシタワ
アナタが今日も目を覚ました。いつも通りの変わらぬ朝。
ワタシはアナタを待っている。いつも通りの変わらぬ朝。
アナタが寝惚けた顔をすると、ワタシも寝惚けた顔をする。
いつも一緒に歯を磨き、いつも一緒に顔を洗う。
アナタが笑顔を浮かべると、ワタシも釣られて笑顔になる。
そんな日々が楽しくて、ワタシの心は満たされていく。
だけど、アナタは今日も行ってしまう。ワタシも一緒に行くけれど、会える機会は極僅か。
アナタがワタシにちゃんと向き合ってくれるのは、この朝という時間だけ。
アナタが右を向けば、ワタシは左を向く。
じゃんけんをすれば必ず相子で、互いに勝ちを譲らない。
あぁ満たされる。アナタと一緒にいられる時間がこんなにも嬉しい。
アナタに触れたいと思った時、アナタが手を伸ばしてくれた。
あぁ嬉しい。私はいま必要とされている。アナタに、アナタだけに求められている。
ワタシは喜んで手を伸ばす。近づくアナタとワタシの距離。後もう少し伸ばせば触れられる、そんな距離。
しかし、その手はワタシの前を撫でるだけで、触れてはくれない。
いや、どんなにアナタが手を伸ばし、ワタシがそれに応えようとも、決して触れることは許されない。
触れたくても、触れられない。
絶対的な隔たりがワタシ達の中には存在した。
それでもアナタはワタシに向き合ってくれる。ワタシもアナタに向かい合う。それだけで嬉しくて、それだけでいいんだと思った。
触れたいなどとは贅沢な望み。
話しかけて欲しいなど無駄な望み。
アナタにとってワタシはどういう存在? ワタシにはアナタしかいない。アナタがいなければワタシは存在しえない。
それだけ大切な存在だということを、アナタは分かっている?
頭では分かってはいても、話しかけて欲しい。触れてほしい。
そう願うのは無駄だとしても、いつかは、いつかはこの垣根を越えてくれるかもしれない。
そんなありもしない夢を見て、ワタシは今日もアナタに笑顔を向ける。
ワタシは一生、囚われの身。