冒険の始まり
ドン、とドアの閉まる音を背にタクトは、店から一歩ずつ遠ざかって行った。
それから10メートル程離れたところで突然、ウィーンと音がした。
タクトは、その音の正体がミカエルからもらった多機能性レベリング測定器だと気付くまでに少し時間がかかった。
「な、なんだ……?」
タクトは驚きのあまり声を漏らした。
音の正体に気が付いたタクトは、多機能性レベリング測定器に目を落とした。 それの画面上には、マップらしきものが表示されており”北約5キロ先 ネロシティ”という都市の方角と距離、名前まで表示されていた。
タクトは、その表示に従って北方向へ歩き出した。
しばらく歩くとタクトは店主の
『あっちの世界にあるものは基本あるぞ』という言葉を思い出し、
「てことは、自転車もあるのかなー」と、一人で呟いた。
しばらく無言で歩き続けていたタクトは、画面に目を向けた。
”北約2キロ先 ネロシティ”
はぁー、と溜め息を漏らした。
不意にタクトは少し先に50代半ばと思われる1人のおじさんが歩いているのを見つけた。
3キロの旅路を1人で歩いてきたタクトには嬉しくてたまらなくて、小走りでそのおじさんに駆け寄った。
「おじさーん、何してるんですかー?」
タクトは叫んだ。
するとおじさんは何も言わず、振り向きもせず歩き続けた。
タクトは少しムッとしたが、それよりも1人は嫌だと思い隣に並んだ。
おじさんはタクトを見て、突然
「お兄さんの強さを見込んで、ボーンティラノの骨を取ってきて頂けませんか?」
と、掠れるような声で頼んできた。
タクトには何が何だか分からなく、戸惑っているとまたウィーンと音がした。
すぐに多機能性レベリング測定器の画面に目をやった。
そこには、先ほどまで表示されていたマップは消え”ミッション おじさんの頼み事”と表示されていた。
スクロールマークがついていたので、画面をスクロールさせた。
”報酬 500金、ヒーリングアイス”と表示されていた。
タクトは、この世界のお金のことについて何も知らなかったが500金はお金のことだ、という自信がありそのお金で装備を揃える!と強く思いその場でおじさんに
「任せろ! おれが取ってきてやるよ!」
と、叫ぶように宣言した。
そして多機能性レベリング測定器の画面を覗くと”ミッション 承諾 目的地東約 500メートル”と、表示が変わっていた。
タクトはおじさんに
「ここにいてください、すぐ戻りますから」
と、落ち着いた声音で言うと東方向へ走っていった。