剣士
ドサッ!
「痛てぇー!!」
タクトは、地面に打ちつけたお尻を擦った。
「こ、ここは……」
辺りは見渡す限り広がる草原があり、そしてもしわけ程度の大きさの台風や地震が起こるとすぐに壊れそうな家が1軒あった。
タクトはこんなとこ入って大丈夫かよ、と思いながらもその家のドアを開けた。
カラン、カラン。
ベルの鳴る音と同時に部屋の奥から「らっしゃい!」と、低いながらもよく通る声が聞こえた。
タクト、ゆっくりとその声の主のもとへ歩みよる。
こ、怖い。
タクトのその声の主への第一印象はそれだった。
鋭い目つきに服の上からでもわかる鍛え上げられた筋肉、そのうえ長身ときた。それでもってピンクのエプロンをつけた違和感だらけの人に
「ここは、どこですか?」
と、消え入りそうな声で訊いた。
「ここは天使様の説明のあと強制的に連れてこられる店だ。そしてオレは、ここの店主だ」
「み、店? 何を売ってるんですか?」
「何も売ってない。まぁ、簡単に言えばミカエル様の説明の続き、わかりやすく言うならチュートリアルの続きみたいなものだ」
タクトはあまり理解出来ない状態まま尋ねた。
「続きとは……?」
「敵やモンスター倒すのに武器がいるだろ?
その提供さ」
「何があるんですか?」
タクトは店主に恐る恐る尋ねた。
「お前は、剣士、武士、魔法使い(メイジ)、斧使い、ヤリ使い、弓使い、銃使い(スナイパー)の中のどの職で闘いたい?」
タクトは悩んだ。
そして、2分ほどその場で考え込む姿勢を見せ
「お、おれは剣で闘いたいです!」
と、真剣な顔つきで応えた。
店主は黙って頷くと手が光に包まれて、銅剣が現れた。
「ほらよ、坊主」
そう言いながら、光の中から出てきた銅剣をタクトに投げつけた。
「それはただの銅剣だ。敵を倒したり困っている人助けたりして金を稼げ。そうするといい武器が買えるからよ」
そう言うと、エプロンの胸ポケットにしまってあったタバコらしきものを取り出し吸い始めた。
「タバコあるんだ」
タクトは驚きながら言った。
「あっちの世界にあるものは基本あるぞ」
店主は軽く微笑むように応えた。
タクトは軽く頭を下げ店を出ようとした時、ふと頭によぎったものを口に出した。
「最後に質問いいですか?」
「なんだ?」
店主は素っ気ない返事をした。
「店主はこの世界から出ようと思わないんですか?」
「最後になんて言うからどんな質問かと思いきや、そんな質問か」
店主は、鼻で笑いながら言った。
「おれにとっては重要なことなんです!」
タクトは少し強く言った。
「わーたよ。オレはなこの世界からは出れないんだ。住人だからな」
「住人? どういう意味ですか?」
「オレは世界が創り出された時に同時に作られた、いわゆるNPCだ。だからレベルもない」
タクトは驚きのあまり言葉を失っていた。
「まぁ、商人は基本NPCだと思っとけ」
店主は笑いながら言った。
「分かりました……」
俯きながらタクトは言った。
そして少し間を置いてから「色々ありがとうございました」と、深く頭を下げて銅剣を腰に差して店を出て行った。