深淵の洞窟編 XII
不思議そうな顔を向ける桜にタクトは答えた。
「これはクリアネットの技の本来の使い方だ。」
「ど、どういうこと…?」
桜は幽霊でも見たような表情でタクトに訊いた。
「おれさ、思ったんだ。
クリアネットの技は本当に干渉なのか、てな。
だってそうだろ?『千年歌』とか『天使声』だぜ。
ただの干渉にしては偏ってるだろ?」
ここまでタクトが言うと桜は話が読めないわ、と相槌をうった。
「よく考えてみろ。
歌、声、それに最近使えるようになった天使音波だから音波。」
「も、もしかして……、音?」
桜は恐る恐るといった感じに言葉を発した。
「いや、違う。」
タクトは即答し、言葉を繋いだ。
「音じゃない、波だ。」
「波?何が波なの?」
桜は目を点にして訊ねる。
「物理で習わなかったか?
音って縦波だ、ってな。」
「……っ!!」
桜は何かを思い出したように声を漏らした。
「習った!
なんで?って思ったけど図で表すと波だった!
そ、それじゃあ、波を応用した技だったら使えるってこと?」
桜は興奮気味でタクトに詰め寄る。
「あ、あぁ。
それと、ち、近い。」
タクトは顔を紅潮させながら言った。
「ご、ごめん。」
自分の行為がいかがなものかと理解したのか桜も紅潮させて謝罪を言葉にした。
そ、それでな、とタクトは続けた。
「さっきのは地震と津波。
地震も波が広がっていくだろ?
それと津波。これは言うまでもないな。」
桜はでもなんで?と訊く。
「なんで?って?どういう意味だ?」
タクトは桜に顔を向ける。
「なんで気づいたの?ってこと。」
「それは言っただろ?
共通点を見つけたからだよ。」
「それだけじゃないでしょ?」
桜は的確に何かを確証している様に強い眼差しを向けた。
はぁー。
タクトは深いため息をつく。
「桜には敵わねぇーか。
そうだよ、それだけじゃない。
干渉なんてそんな使い勝手の悪い技がこの世界にあるはずないんだよ。」
桜は首を傾げる。
タクトはそれを気にもとめずに語り続ける。
「最初は信じてた。
でも、よくよく考えると怪物とか相手だと効かなかっただろ。
それに双月祭りのときの工藤さんの懐生物とか使い勝手良すぎるだろ?
それに比べて干渉なんて……、って考えるとふと頭の中に過ぎった物があったんだ。
それが干渉が本来ではないってことだったんだ。」
そこまで言い切ると桜に向いた。
「そ、それだけで。」
小さな声でそう言った。
「まぁ、半信半疑だったんだけどな。」
タクトはニコッとして言った。
鮫人間はあらゆる方向からの波を受けて酔ったような感じになっていた。
「うっ、うぇー。」
異物を吐く。
「今よ、攻撃。」
クリアネットはやっと役に立てたというのがにじみ出た表情で言い放つ。
「おう!」
タクトは元気いっぱいの声で答えた。
「桜、あの技やってみようぜ!」
タクトは隣にいる桜を横目で見て提案する。
「あの技って……あれ?」
「おう、あれだ!」
タクトは嗤う。そして言った。
「わ、分かったわ。」
でも、成功するかは分からないわよ。と付け足した。
「今回は成功する、なんか分かるんだ。」
タクトは言い切った。
練習時の成功率は4割。
100%の半分もいってない、けどタクトには失敗する想像が出来なかった。
「じゃ、じゃあいくわよ。」
「おう。」
桜とタクトは緊張した様子で最終確認を行った。
そして同時に口を開いた。
『合体技 雷炎斬!!』
タクトの黄色の剣に桜の杖の先を向けて炎を与える。
タクトは黄色の剣の性能を発揮させ雷を発生させる。
それを合体させる。
「なっ、できただろ?」
不敵な笑みを浮かべながらタクトは言い切った。
タクトは地面を蹴り鮫人間に向かった。
そして桜との合体技発動中の剣で鮫人間を叩き斬った。
「ぐぅぉぉぉぉぉぉ!!」
鮫人間は悲鳴にもにたうめき声を上げる。
「き、効いた…。」
タクトは声を漏らす。
「タクトさん、離れてください!」
突如背後から声が聞こえた。
エルラルだ。
「体技 心臓破り(ハートブレイク)!」
そうか、エルラルの剣おれが借りっ放しだったんだ。
でも、今は桜のいるところの隣に刺してるんだ。
タクトは何かと罪悪感を覚えた。
エルラルは右手を強く握り鮫人間の心臓めがけて殴りかかった。
いや、実際には殴るのではなく心臓を破壊するのだ。 皮膚を貫通させて心臓ごと殴って。
どん!
エルラルが鮫人間の心臓めがけて殴った音が聞こえた。
どぉーん!!!
地面に鮫人間が叩きつけられた。
砂煙が巻上がる。
「やっぱり、強靭な身体を持つ鮫人間には無理があったか…。」
残念そうな表情で告げた。
「タクト、これ!」
その時タクトに桜が灰色の剣を持ってきた。
なんてナイスタイミングなんだ。
タクトはそう思いながら
「さんきゅー!」 と礼を告げてからエルラルに差し出した。
「助かった。」と添えて。
はい!とだけエルラルは言うと剣を構えて叫んだ。
「剣技 空間殺し(キルスペース)!」
空間殺し、とは大層な名前だが技も中々のものだった。
空間を破壊とかではなく空間を殺す。
空気を無くし、空間を殺す。存在価値を無くす。
鮫人間にはあまり意味がないと思われる攻撃だった。
しかし、空間を殺すだけでなく剣の周りに奪った空気を纏わせ斬る。
エルラルは鮫人間のアキレス腱あたりを斬った。
「うわぁァァァァァ!!!!」
今まで聞いた中で1番高く酷い声をあげた。
一瞬で白い光があたりを包んだ。
そしてそれは一瞬で元に戻る。
「殺ったってことか?」
タクトはぼそぼそと言葉を繋いだ。
「殺ったみたいよ。」
クリアネットはきっぱりと言い切った。
右手には蒼の宝玉を手にして。
それを目にした桜は瞬時に輝いた笑顔を見せ
「やったー!2体目撃破!!」
と叫んだ。
「エルラル、やったな!」
タクトはエルラルの背中を軽く叩いて言った。
「は、はい……。ありがとうございます!!」
エルラルはパッと夏の太陽が水面で反射した様なキラキラした笑顔を浮かべた。