準備完了
ピピピピッ! 2人の多機能性レベリング測定器のアラーム音が同時に鳴り出した。
「うぅ…」
閉じていた瞼をゆっくり上げてタクトは、自分の多機能性レベリング測定器の画面をタッチした。
1人分のアラーム音は止まった。だが、一方で桜に起きる気配はない。
タクトはボーッとしている頭を無理やり起こして隣のベッドを見た。
隣のベッドには人はいなかった。
代わりに右足だけがのっていて、人はその下にいた。
桜はベッドから落ちてまさに”大”の字になっていた。
そんな桜にタクトは「おぉーい、朝だぞー」と声をかけた。
「んっ、うぅーん…」
何だかよく分からない唸り声での返事。
タクトはため息を1つ吐いて、桜まで歩み寄り、肩を揺らして、「朝だぞー!!」と呼びかけた。
「ん? 朝?」
桜はやっと目が覚めた。
「あぁ、朝だ。 てことで、アラーム止めてくれ。 うるさいんだ」
タクトはそう言った。
--うるさいんだったらタクトが止めれば?と思うかもしれないが、アラームを止められるのは多機能性レベリング測定器の持ち主とその結婚相手のみなのだ--
「あぁ、ごめんね」
バツが悪そうな表情をしながら桜はアラームを止めた。
それから2人は昨日の残りのカレーを食べ始めた。
朝からカレーっていうのは抵抗があったがそれしかなかったので仕方なく食べだしたのだ。
「今まで聞く機会なかったんだけどよ、桜って何レベなんだ?」
タクトは唐突に訊いた。
「15レベよ」
澄ました顔で応えた。
「す、すげー!! 強いはずだ!」
1人で納得してタクトはカレーを食べ進めた。
ごほっ。 タクトは口に入れすぎたのかカレーを喉に詰めた。
「あはは、大丈夫?」
陽気に笑いながら訊いた。
「大丈夫だ。 けど、ちょっと思ったことがあってさ」
「思ったこと?」
「あぁ。 桜、昨日友だちいないって言ってただろ? でも、ルールベットと仲良さそうだったなって思ったんだ。 友だちじゃないの? 名前で呼びあってたし」
タクトは訊いた。
すると桜は、表情を曇らせた。
それから黙々とカレーを食べ続けて「ごちそうさま」と言って席を立った。
「お、おい!ちょっと待てよ!」
タクトは慌てて言った。
「ごめん、これだけは言えないの…」
寂しそうな顔を浮かべて応えると、タクトも立ち上がり先に立ち上がった桜の前に立ち
「悪かったな、応えにくいこと訊いてよ。 でも、いつか話せるときが来たら話してくれよ。何かできることあったら手伝うしよ! おれら友だちだろ?」
と言った。
桜は大粒の涙を目から零して「うん、ありがと…」と小声で言ってからその少し震えた声のまま服着替えてくるね、と言って脱衣場に入っていった。
タクトは流し込むようにカレーを食べてから、2人分の皿を洗いイエローソードを腰に差した。
桜は膝の丈くらいある白のスカートを穿いて、可愛らしいピンクのTシャツを着てつばの大きな帽子を被り右手には大きな魔法の杖を持っていた。
初めて出会うった時と全く同じ服装だった。
タクトが思わず見とれていると、
「これが、私の戦闘服なの」
桜は説明した。
「そ、そうか」
納得しているのかしていないのかよく分からない返事をしてから
「んじゃ、レベル上げに行きますか!」
と声を出した。
桜はそれに対して笑顔で応えた。
そして2人はネロシティ郊外に向けて出発した。