バラバラの3人 〜桜とルールベッドの過去〜
ーー桜&ルールベッドーー
久しぶりに会ったルールベッドとの会話は、やはりあの頃のものとなった。
タクトと出会う前。私がまだ別の人と行動を共にしていた頃。 そして私はその後、頑なに尖った性格になったこと。
「随分丸くなったのね〜」
可愛らしい笑顔でそう告げるルールベッド。
「そうね、私でもわかるわ」
ぶっきらぼうに答える私。
「ねぇ、覚えてる?」
真剣な声音のルールベッド。私は「もちろん」と答える。
忘れるはずもない。初めてこの世界に来た時に会い、数日間だったけど共に行動したあの男のことを。
「名前なんて言ったっけ」
そう訊くルールベッドの声は静かなものであった。
「前田 颯大よ」
怒気の篭った声を出した自分に少し驚く。
「颯大だったわね」
ルールベッドも遠くを見るようにそう呟くが、どこか怒りが篭ったようにもとれる。
「まあ、忘れられるはずないよね」
ルールベッドの囁くような呟きに私は黙って頷く。
当たり前、忘れる訳がない。天使からの説明を終え、街に放り出された私に優しい笑顔で近づいてきた、そこそこ顔立ちの整ったあの前田颯大。
私にいろいろレクチャーしてくれた。いい人だ、なんて思った。でもそれは、大きな間違いだった。
「そこからだったけ、桜ちゃんが人間不信ってほどじゃないけど独りを好むようになったの」
「そうよ」
レベルの高い彼は、一緒に戦って私のレベル上げを手伝ってくれた。
あの瞬間まで。
私をエリア35へ無理矢理連れていき、何の前触れもなく私を斬った。
あの時の私は、何がなんだか分からなかった。
「ちぇー、こいつ1発で死なないし」
颯大は血走った目で私を見ながら叫ぶ。すると周りの木の影から次々と見知らぬ男たちが現れた。
「おいおい可愛い子捕まえたな」
男たちは次々と言う。
「なあ、こいつもう反抗できないよな?」
私の斬られた状態を見ながらまた別の男が言った。颯大は歪みきった笑顔で何かを言ってた。
「脱がすか」
その言葉ははっきりと、今でも耳の奥にこびりついている。
「それにしてもあんな大きな場所で大勢の男がたった1人の女の子にあんなことするなんてね」
ルールベッドの言葉を聞いて、私は涙が溢れ出てきた。
抑えてた感情が露わになる。
男たちは私のほとんど初期装備のままだった服に手を伸ばし引きちぎった。
颯大含め、男たちは鼻を下を伸ばし気持ち悪い声を漏らしている。
「こいつ、いい体してやがる」
「おい颯大。よく今まで我慢できたな!
俺ならとっくに手出してるよ」
大きな笑い声があがる。そして、聞きたくない言葉があちらこちらから飛び交う。
「紳士だからな」
笑いをこらえてるのが丸わかりの颯大。
上半身を下着姿にした男たちは、それに堪能すると、次はスカートを捲り上げた。
これで完全に下着姿だ。
「舐めていいか?」
今でも覚えてる。この言葉を言ったやつの顔を。モジャ毛で、大きな黒縁眼鏡をかけた気持ち悪いやつだ。
「勝手にすれば」
颯大の冷たい声が耳に刺さる。
「や、やめてっ!」
ようやく出せた私の悲痛の叫び。男はさらに気持ち悪い顔になる。
「やめてあげないよー」
下着の上から胸を愛でる。
「この手のひらに収まるぐらいの胸が何とも言えん」
男の息が体に吹きかかる。
「おい、お前だけずるいぞ!」
他の男たちも私の腕や、脚などに触れ出す。
そんな時だった。
「ちょっと何やってんのよ!」
ソプラノボイスの可愛らしい女の子の声が聞こえた。
「おいおい、またカモが来たぞ」
男の1人が言う。
「誰が連れてきたんだ?
今日はこいつだけの予定だろ?」
颯大が面倒くさそうに言う。
「誰にも連れてきてもらってないわよ!
たまたま通りかかっただけ!」
女の子は強気にそう言う。私の体を愛でていた男たちもその女の子に向かう。
「本当にあの時は助かったわ。後一歩で私は……」
そう言う私にルールベッドは謝った。
「どうして謝るの?」
「もっと早く助けて上げられていたら……」
自分を責めるルールベッドに私は言った。
「ありがとう、助けてくれて」
でも、というルールベッドに私はまた同じ「ありがとう」と声をかけた。
「でも、びっくりしたよ。急に現れた女の子がとっても強かったことに」
「えへへ」
ルールベッドはわかりやすく照れた。
「こいつにもお仕置きが必要なようだな!」
私に一番はじめに触れてきた男の声と共に男たちは女の子に襲いかかった。
男たちで見えなかったけど、女の子は一瞬で男の群れを消し去った。
それも武器すら持たずに。
颯大は何かを見たのか、顔が青ざめていた。
「あ、あんた。い、一体な、何者なんだ!?」
「私は武具店の看板娘。ルールベッドよ」
ルールベッドと名乗る女の子にたじろぐ颯大。
すると颯大はルールベッドに背を向け走り出した。
逃げるのか、と思った。
しかし、そうではなかった。颯大は私の元へ来て、私を起きあげた。
そして首元に私を斬った剣を突きつけた。
「動くなよ。動いたらこいつをぶっ殺す」
颯大はドスの効いた声でルールベッドに告げる。
しかし、動じない。
「どうしたらその子を返してくれる?」
ルールベッドはお手上げというように両手を上げ訊いた。
「オレを逃せば」
颯大が唾の飲んだのが聞こえた。
「へぇー。
創造 銃弾」
そう呟くや、銃弾が現れ、颯大向かって飛んだ。
颯大は何が起こったか分からず弾が当たり、消えた。
これが私とルールベッドのファーストコンタクト。
「今ごろどうしてるんだろ、あいつら」
ルールベッドはため息混じりに呟くやく。
「知りたくもないわ」
「そっか、そうだよね。
でも、桜ちゃん。タクトと出会えて本当に良かったね」
「うん。それは思う」
そんなことを話しているうちにとうとう、神殿は目の前まで迫っていた。
「遂にだね」
ルールベッドの一声に私は気を引き締め直す意味も込め、両手で顔を挟むように、ビシッと叩いた。