闘いの前夜
部屋に入った2人の間に沈黙が続いていた。
そして先に沈黙を破ったのはタクトだった。
「あのさ、なんでずっと一緒なんだ? 桜、目的あったんじゃなかったのか?」
桜は応えにくいのかオドオドし始めた。
「あー、ごめん。 答えにくかったら答えなくていいぞ」
焦ったタクトはそう付け加えた。
しかし、桜は首を横に振り小声で話し始めた。
「理由っていうほどじゃないんだけどね、私この世界でずっと独りだったの。
ちゃんと話すことのできる友だちなんて絶対できないって思ってたから…」
「絶対なんてこと無いだろ!」
タクトは反論した。
「うんん、私にとっては絶対だったの。 こんな互いを傷付けあう世界でゆっくり話したり、ましてや友だちなんて作ったらダメだと思ってたの。 でも、昨日タクトと出会って変わったの。 タクトは私の思ってることなんか全然気にしないで普通に話してくるし、約束したりするし、それで私嬉しくなっちゃって…。
離れた瞬間から寂しくなって、もう会えないんじゃって思ったの。 だから、だから一緒にいたいの…」
目に涙を浮かべながら桜は言った。
「なんだ、そんなことかよ。 おれさ、今まであっちの世界で本音をぶつけられる友だちいなくてさこーゆう時どうすればいいか分かんないけどな、桜がおれといたいならいれば良いんじゃねぇーのか。
こんな意味分かんねぇ世界で信じられるのっていったら自分と友だちくらいだろーしよ!」
タクトは笑顔を浮かべながら言った。
「へへ、タクトらしいね。そういうところ!」
浮かべた涙を拭いながら桜は言った。
「んじゃ、飯作り始めるか!」
時間は午後5時30分を過ぎた頃だった。
タクトはそう言うや否やキッチンへ向かい宿屋に設置してある冷蔵庫の中からチェックインする前に買っていた食材を取り出した。
「今日はカレーでいいか?」
タクトは訊ねた。
「うん!私も手伝う!」
桜は笑顔で応えた。
「じゃ、これの皮むいてくれ」
互いに手伝いあい1時間後くらいにようやく完成した。
《いただきます!》2人は声を揃えて言った。
タクトはカレーを頬張りながら
「てかさー、カラーソードってなんなんだ?」
桜は食べていたカレーをのどに詰まらせた。
「ホントに何にも知らないのね」
視線を泳がせながら悪かったな、と呟いた。
しょうがないわね、と言ってから桜はカレーを一口食べた後に説明を始めた。
「カラーソードっていうのは、純色でできた剣のこと。 タクトが買ったのは黄色1色の剣だったでしょ?」
タクトは頷いた。
「多分それは斬撃+電気のダメージを与えられるはずよ。 それでもう1本の赤の剣は斬撃+炎のダメージを与えられるはずよ。
まぁ、そういう感じに斬撃+その剣の色にあうダメージを与えられる剣の総称をカラーソードって言うの。
なんで、高価なのかと言うと手に入れる方法が難易度Maxのミッションの報酬か、エリア35にいる最強のモンスターを倒すと低確率でドロップだからなの。
そういう訳で、カラーソードは剣の中で最強と言われてるの」
説明を終えた桜はコップに入っていた水を飲み干した。
「そう言うことなのか。 ってことは、ダメージ増幅ってことか! で、何種類くらいあるんだ?」
「それはまだ判明してないの」
へぇー、と声を漏らしてタクトはカレーをすくい口へ運んだ。
そこからは互いに他愛もない話をしてカレーを食べた。
《ごちそうさまでした!》2人はまた声を揃えて言った。
2人で片付けをしてから順番に風呂に入った。
現在午後9時25分。
2人は布団に入っていた。 今日は別々のベッドに入っていた。
「今日はこっち来なくていいからな」
タクトは笑いながら言った。
「行かないわよ! 今日は!」
桜は声を張って言った。
「今日は! ってなー、明日は来るのかよ」
ボソッと言った。
「明日の気分よ」
口をへの字にして応えた。
それからしばらく、2人は黙っていた。
「明日、レベル上げに行きたいんだけど」
タクトは沈黙を破って言った。
「いいよ。 でも、私とパーティー組んで一緒に行ってくれない?」
「パーティー? そんなんあるのか?」
「知らないんだ、また」
「”また”ってなんだよ、”また”って!」
「だって、”また”じゃん」
2人は笑いながら言い合った。
「この世界では1人の人とだけパーティーを組むことができるの。 でも、それは1人だけで解散したからって他の人と組むことはできない。
まぁ、一生の選択だね。
唯一変えることのできるのはこの世界で”結婚”した時だけかな?」
「そーなんだ。 でも、おれにまだ結婚は関係ないな」
笑いながら言って続けた。
「おれでよかったらパーティー組んでくれ、桜」
タクトは真剣な声音で頼んだ。
「うん! ありがとう!」
ガバッとタクトにのしかかった。
「うぅー、く、苦しい…」
「あっ、ごめん…」
「だ、大丈夫。こっちこそありがとう」
2人はそう言うと布団に潜り込んだ。
そして、《おやすみ》と小声で言って夢の中へ旅立った。