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影(シャドー)を制する英雄  作者: リョウ
第2章~人神戦争~
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宮田の陰謀

 すぅすぅと寝息をたてる桜は、タクトの背中の上で揺れている。

 そのタクトと満緒は、ハゲ頭の40代の男と出会っていた。


「私は、宮田(みやた)と申す。私と共に次の街"コライン"に行って欲しいのだ」


 夜中なのに輝きを放っている真冬の太陽を宮田のハゲ頭が反射する。


「っ。なんでだ?」


 目を細くしてタクトは、訊く。




「私では、力不足なのです」


「でも、ここまで生き残ってこれたってことはそこそこ強いんでしょ?」


 満緒は、尋問気味だ。


「そこそこは、です。でも、ここから生きて神界に辿り着くには1人より2人、2人より3人だと思いまして」


「ふーん、まぁいいぞ」


 まだ不安要素はかなりあるが、時間もないのでタクトは了承した。

 宮田は、有難うございます、と言い再度頭を下げた。


 宮田を加えた一行は、歩むことを止めず進んだ。


「っはぁー……。っ……。

 満緒、じ、時間は?」


 桜を背負い続けているタクトは、額にびっしょりと汗をかいている。


「残り18分46秒よ」


「で、きょ、距離……は?」


 吐息混じりにタクトは訊く。


「1.8キロよ」


 タクトは、表情で厳しいことを物語る。


「私、数学教師でしてね。あと3メートル毎秒速く歩けば、ギリギリで間に合いますよ」


 表情を得意げにして宮田は言う。


「へ、へへ。おれ数学何て約立たねぇ、なんて思ってたけど意外と役に立つんだな」


 タクトは、苦笑気味に言った。

 それから一行は、歩く速さを少し速めてコラインを目指した。



「あっ、見えてきた!」


 満緒は、視界に微かに見える街並みを指さしながら言った。


「あっ……、そ、そうだ……な」


 タクトは、長距離を桜をおぶったままだったので苦しそうだ。


「ありがとうございます、おかげでここまでこれました」


 宮田は禿げた頭を下げる。

 そして、小さく告げる。


「スナイプ・ヴィジョン」


 タクト、満緒は同時に声を上げる。

 目が見えない、と叫び声を上げている。

 その様子を何事も無いかのように見る宮田。


「ふっ、フハハ! こうまで簡単だとはな!」


 宮田は、まるで人が変わったかのようにタクトたちを嘲笑った。


「お、おい! おれたちに何をした?」


 タクトは喚くように訊いた。


「視界を奪ったんだよ! これは私の魔法。それを使って、あなた方を神界へ行けないようにしたんだよ!」


 宮田は、憎たらしい声で悠々と語る。


「何で!? 何でこんなことするのよ!」


 満緒も叫ぶ。


「あなた方が、邪魔だからですよ」


 出会った時の声音に戻った宮田は、そう告げた。


「じゃ、邪魔? どういう意味だよ 」


「分からないですか。私は、ロキ軍に加勢している者だからですよ」


「な、何!?」


 タクトは声を裏返した。


「黄色のタスキしてないじゃない!」


 満緒も続けて言う。


「してますよ。でも、ちょっと小細工をしてね」


 宮田がそう述べた刹那。


「ふわぁ〜」


 タクトの背中で眠っていた桜が目を覚ましたのだ。


「桜! 頼む、この男を倒してくれ!」


 桜は目を丸くし、驚いている様子だ。


「えっ……、どういう状況?」


「簡単に言うと、あの男に襲われてるの!」


 戸惑う桜に満緒が声を上げる。

 その緊迫した声に、応え、桜は黄色のタスキをした宮田と対峙する。



「ちっ、悪運のイイ奴め」


「言ってる意味、全っ然分かんないんですけど!」


 桜は、攻撃のモーションに入る。



溶岩銃(マグマガン)


 数個の火の弾を飛ばす。


「ほうほう。この角度で……、こうですかね」


 宮田は、一人でブツブツと呟くと最小限の移動で全て避ける。


「えっ!?」


 驚きを隠せない桜は、声を漏らす。



「おい、満緒」


「何よ?」


「この目、どうしたら治ると思う?」


 タクトは、満緒に訊く。


「さぁ、でもアイテムがあれば治るんじゃない?」


 まるで他人事のように答える。


「いまあるアイテムは……、ヒールポーション1つと、転移のやつと、後は、えーっと、マジックポーションが1つだな」


「マジックポーション!」


「ど、どうした?」


 満緒が急に声を張る。


「マジックポーションがあれば、これ治るわ」


「っ!! そうか!」


 タクトは、手探りでマジックポーションを探す。

 だが、しかし。

「くっそ、分かんねぇ」


「でしょうね。マジックポーションとヒールポーション、容器一緒だもんね」


「いっそどっちも飲むか?」


 タクトの提案は、満緒の「勿体ない」という言葉で否定された。




「オーバー・ヴィジョン」


 宮田は、桜に向かってそう唱えた。


「あれ?」


 桜は、素っ頓狂な声を出す。


「どうしたんだ!」


 視界が奪われているタクトが、桜に声をかけた。


「さっきまであった黄色のタスキが無くなったの!」


 桜のその言葉は意味がわからなかった。


「どういう意味なの?」



 続けて満緒が訊く。


「消えた? そう言った方が正しいかも」


「もっと、詳しく頼む!」


 桜の答えに、タクトはそう述べた。


「詳しくって……。えっーと、今まで見えてた黄色のタスキが、あの男が何かを言った瞬間に私の目から消えたの……。

 って、さっきの説明とあんまり変わんないね。ごめん」


「目から消えた……、じゃなく、目に映らなくなった……」


 桜の言葉を聞いて、満緒は呟いた。

 すると、タクトは「あぁー!!」と声を上げた。


「さっき、言ってただろ? 自分の魔法だって。それがこういうことだったんだよ」


「私は、ちゃんと教えてあげたのに」


 そこまで言うと、宮田は地を素早く蹴り、桜の首筋を蹴飛ばした。


 痛みの悲鳴を上げながら、桜は吹き飛ばされる。


「桜っ!!」


 タクトは叫ぶ。

 そして、目も見えないのに剣を構える。


必殺奥義エクストラパワー 氷河時代アイスエイジ


 タクトは、視界が奪われたまま剣を振った。

 必殺奥義"氷河時代"は、温度あるものを氷漬けにした。

 近くにいた、満緒が短い悲鳴を上げかけ、その声が消える。


「おい、満緒!」


 返事はない。そして、もちろん宮田の声もしなくなった。

 

「タクトっ!!」


 唯一聞こえた声は、宮田により遠くに飛ばされていた桜のものだけだった。


「桜。頼む、状況を、状況を教えてくれ!!」


 叫ぶように、タクトはそう頼んだ。

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