VS 親衛隊 Ⅻ
吹き上がる乾いた土が、雨の如く桜の頭上から降り注いだ。
口からは、白い息と共に吐息が漏れている。
やっと、やっと、勝てたんだ。
桜の心の中は、それでいっぱいだ。
ギリギリの闘いを強いられているタクトは、闘いの所々に歪んだ表情を見せる。
対する造蘭は、驚きを見せるもまだ表情に余裕が見て取れる。
傍から見れば、圧倒的に造蘭が有利のようだ。
右足と、左手が自由に動かないタクトは、立つことすらままならない。
「正直勝てないかもな」
冬だというのに汗を流す。
「タクト……」
心配そうに見つめるエドワード。
「そろそろ覚悟が決まったようですね」
冷酷にそう告げる造蘭は、オーラの銃を構える。
タクトは、負けを悟り目をつぶった。
さぁ、撃て! と、言うように…。
大気を揺るがす、大きな銃声が響いた。その音の大きさに、離れた所にいた鳥たちが鳴き声を上げ飛び出した。
そして、タクトの元へ向かっていた桜の足に枷をはめた。
タクトの足元には、赤い鮮血の水たまりができている。
タクトは、ゆっくり、ゆっくりと目を開けた。
うっすらと見える血だまり。恐怖で再度目をギュッと瞑る。
『あれ? でも、おれ何処撃たれたんだ? 痛みが無いぞ』
不思議に思ったタクト。その場の勢いに任せ目を見開く。
すると、眼下にはエドワードが血塗れで倒れていた。
「エドワードっ!!」
血相を変え叫ぶ。しかし、返事は無く、代わりに青ざめた顔にうっすらと笑顔を浮かべた。
「へっ……、俺はここまでのようだ……。本当は、もっと一緒に居たかったけど…、タクト。お前には帰る場所、家族がある。家族を無くした俺が言う。妹さんは絶対に待ってる。それに俺は帰ったところで待ってくれてる人も、喜んでくれる人もいない。だから……、お前は死ぬなよ」
「そんなことねぇーよ! エドワード、お前が帰るのを待ってるやつだって絶対にいる! おれは、向こうでのお前を知らない。でも、ここでお前と出会ってわかった。お前は、自分が思ってる以上に周りに大事にされてるって」
「へへ、ありが…」
バンっ、と雰囲気を壊す1発の銃声が響いた。
「もう終わりね。見ててつまらないから」
気だるそうに造蘭は告げ、死にかけだったエドワードにトドメの一撃を与えた。
エドワードは、うっすらと浮かべていた涙を残し、影世界から、この世から姿を消した。
「ふ、ふざけるな!!」
瞳から涙を流しながら、喚くように叫んだ。それは、エドワードの怒りを代弁するかのように。
少し離れた所から、大きな泣き声が聞こえる。桜だ。
地面に崩れ落ち、顔をくしゃくしゃにしている。
怒るわけでもなく、トドメをした造蘭に立ち向かうわけでもなく、その場から動くことができないようだった。
タクトは、不器用に立ち剣を構えた。
そして、造蘭に向かった。
造蘭は、残ったオーラの塊を取り出し、手をグーにして新たな物質を生成し始める。
「この武器が一番得意なんですよ」
そう言うや、造蘭はオーラを叩き出した。薄く伸ばしている。
みるみるうちに伸びていく。
タクトにそれを待つ義理はなく、造蘭を襲う。しかし、立つことさえ普通にできないタクトの攻撃は、いとも簡単にかわされる。
薄く伸ばしたオーラを次は丸める。
先を尖らし、もう片方は持ちやすく加工する。
タクトは、もう1度斬りかかる。
地面を強く蹴り、剣を左斜め下から斬りあげる。アッパースラッシュだ。
幾度となく使用してきた、この技も難なくかわす。
「はい、完成〜」
力の抜けた声で造蘭は、新たな武器を見せびらかした。
どうやら、槍のようだ。
長さは、そこそこで特別有利になりそうにない。
しかし、次の瞬間。
造蘭は、表情を変えタクトに襲いかかった。
エドワードを失った悲しみから溢れ出る涙を堪え、タクトは造蘭の攻撃を受けるべく構える。
造蘭の槍の間合いまでにはまだ余裕がある。しかし、造蘭は迷うことなく、槍を突いてきた。
届かない。距離的には、届いていない。しかし、槍は確実にタクトに向かってくる。
『向かってくる…?』
不思議に思った。
刹那、それに対する答えは分かった。
造蘭は、槍を投げていたのだ。速度を上げこちらに向かってくる槍の持ち手に、人の手はない。
タクトは、慌ててそれを弾こうと試みる。
しかし、気づいたのが一足遅く弾けない距離まで迫ってきている。
奥歯をギーっと噛み、エドワードに救われた命の重みを深く噛みしめた。