プロローグ
ミーン、ミーン、ミーン。暑い…。
三上タクトは、2年C組の教室で机にぐったり倒れ込みながら呟いた。
「ほんと、暑いよな」
隣の席で窓の外を眺めている一人のクラスメイトが、汗を流しながら応えた。
タクトは、それを横目で見たままぐったりしていると、背中を叩かれた。
「うっ」
妙な声を漏らし、振り返ると後ろの席の女子が仁王立ちしていた。
「なんだよ、いてぇーじゃねーか!」
「知らないわよ。それよりも暑いんでしょ? アイス買いに行こうよ!」
突然の提案に驚き、窓の外を眺めているクラスメイトに同意を求めるように顔を向けた。
すると笑顔を浮かべながら首を縦に振った。
3人は、最寄りのコンビニへ向かった。
「くぅ〜、やっぱり夏のガリガリ君はうまいっ!」
タクトは、本当に嬉しそうな顔でガリガリ君を見つめながら叫んだ。
「ほんとっ、美味しいわね」
「うん、うまい」
それぞれは順に感想を口にし、かぶりついた。
タクトが突然立ち上がる。
「やっべぇー、学校戻んなきゃ!」
タクトは、そう言うや否やガリガリ君を勢いよく頬張り始めた。
「なんでー? 今日から午前授業でしょー?」
不思議そうな表情を浮かべタクトに訊く。
「らからー、ほぅうぅおぉう」
「何言ってるの? 口の中の物無くしてから喋ってよ」
汚いものを見るように目を細めタクトを見る。
「今日から午後は、欠点の人が追試でいい点取れるために補習って先生が言ってたよ」
空に浮かんだ飛行機雲をぼーっと見つめながらクラスメイトが言った。
「あっ、タクトくん補習?」
ニヤニヤしながらタクトに聞く。
「悪いか?」
開き直って応え、食べ終わり残ったアイス棒をゴミ箱に捨てて、
「んじゃ、戻ってくるわ! いってきます!」
と。苦笑まじりの笑顔で言い、勢いよく走り出した。
しかし、その日の補習に三上タクトの姿はなかった…。