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誰も知らない神の前章  作者: 駿河留守
魔女の産声
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覚醒①

 空気が変わった。

 私、クロス・ハイドンが経験してきた空気によく似ている。それは以前にひとつの村を全滅させたときのことだ。家族を友人を恋人を殺されたひとりの魔術師の青年が私の行ったことに激情して攻撃してきたときはかなり手こずった。魔術の常識では魔術と教術で大きく違うのは陣と十字架を必要としないと言ったことの他に感情によってその力が左右されるかされないかの違いだ。教術は己の中で魔術を発動するための陣と十字架を宿して魔術を発動しているにあたって感情や心境によって強くなったり弱くなったりする。だが、魔術の場合はそれがない。感情に強くなったり弱くなったりはしない。

 でも、あの時私が感じたのは明らかに高まる感情によって青年は私の想像を超えた力を発揮して攻撃してきた。これを考察するにランクが大きく関係している。どこかでセーブしていた魔力の扉が激情することで解放されて有り余る魔力が宿り結果、使う魔術も強くなった。

 それと同じ感覚が目の前の彼女にも感じる。

 アキという少女。実力はあるのは分かっている。でも、何かが仲間の死によって解放されて産声を上げた。

「そうそう。私が求めてたのはそういうのじゃん」

 強い奴と戦って勝つこと以上に快感はない。

「かかってきなよ。アキちゃん」

「アキじゃない。美嶋秋奈よ」

 そういう名前なんだ。覚えておくよ。

「今だけね!」

 音を鳴らして攻撃してみる。たぶん、ここで使ってくるのは反鏡魔術。

 杖の先端に鏡が出てきて音を跳ね返してくる。

「忘れてると思うけど、私は音なら何でも武器にできる」

 返ってきた音に触れると再びその音は甲高い音を響かせながら私の手に停滞する。物を破壊するにはなるべく高い音でないと意味がない。逆に低い音で攻撃する時は精神攻撃となる。要は落ち着こうとする感情を目に見えない低周波の音で刺激することでそれを壊す。

 今の美嶋秋奈にはそれは通用するとは思わないけど。

 魔術を何か発動して私に向かって撃ちこんでくる。それを跳ね返って来た攻撃を使って防ぐ。防いだ瞬間、黒い煙が爆発的に広がる。煙幕か何かかな?

「目くらまししても無駄だってさっき学んだばかりじゃん」

 耳を澄ませる音を聞き分ける。私には目は合ってないようなもの。どこにどの距離にいるのか正確に分かる。耳を澄ませば・・・・・足音が目の前に迫っていた。

「正面から!」

 カスタネットを鳴らして煙幕を突っ切ってくる美嶋秋奈に攻撃するもそれはかすれて消える。

「幻影!」

 すると背後に轟音を立てながらものすごい勢いで何かが迫って来た。

「火属性の攻撃!」

 それは防がずに交わす。それは攻撃は爆発して再び視界が煙で悪くなる。

「目に頼ったらダメか」

 耳に頼る。そこで聞こえたのは思いもよらない物だった。

「え?」

 足音が聞こえる。私の周りをぐるぐるとまわる足音。でも、ひとつじゃない。3つ?いや、4つだ。でも、ひとつは美嶋秋奈としてのこり3つは誰の足音だ?周りに人がいるような気配はなかったし、接近するには音で分かる。音を立てずにここに来る方法があるとすれば、時空間魔術。

「いくら数が増えて吹き飛ばせば意味がないじゃん!」

 両手でカスタネットを鳴らしてドーム状に甲高い音の攻撃を繰り出す。地面を削りだして煙幕を吹き飛ばしながら4つの足の音に近づく。これで終わりかな。晴れた煙幕の中に映ったのは4人の美嶋秋奈だった。そして、全員が反鏡魔術を準備していた。

 そうだよ。幻影魔術で足音を増やしていたんだ。さっき、使ったばかりだったじゃん。どうして、こんな簡単なことに気付かなかったんだ。

 音の一部は鏡に跳ね返り返って来る。四方から来る攻撃を交わすことも防ぐこともできず、音同士がぶつかり合って甲高い音共に森に砂埃が高く上がる。私のそんな中立っていた。

「どうしてよ?」

 4人とも幻影だったらしく後方の木陰から出てきた。

「音って言うのは打ち消し合うの。同じ高さで強さの音じゃないと意味ないけど」

 大きさは発信源が同じだから後は高さを合わせればいい。

「なかなか面白いじゃん。それだけの力があって今までなんで隠してたの?」

「分からない」

 魔術を発動させて火の弾を撃ちこんでくる。あまりレベルの高くない。音を鳴らして防ぐ。火の弾と追走するように突っ込んでくる。杖を振りかざして攻撃してくる。

 今度はなんの魔術を使って来るのか全く分からない。幻影に反鏡と言った高度でレベルの高い無属性魔術を使ってきている今さらレベルの高い魔術をしてきたところで驚きはしない。でも、何を使って来るか分からない。

「このハラハラがたまらないじゃん!」

 音を鳴らして攻撃を防ぐ。ただ杖で殴って来ただけだった。

「期待外れ!」

「それはきっと今だけよ」

 見ると美嶋秋奈の足に何か黒い紐のようなものが巻きついている。

 何それ?でも、始めて見る物じゃない。

 嫌な予感がして杖を弾き飛ばして距離を置こうとするとその黒い紐が私に向かって飛び込んできた。急すぎて対応できずにその紐は私の腕に巻きついてくる。

「何!これ!」

 その巻きつく強さは尋常じゃなくて腕がへし折れてしまいそうで動かすことが出来ない。

「黒蛇束縛」

「は!?」

 確かそれは体の一部の動きを完全に封じる犯罪者を拘束するために使う上級魔術。

「あんたみたいな一般人が使うような魔術じゃない!」

 まったく雷を帯びる杖の攻撃を交わしながらこの巻きつかれた黒い蛇をどうにかしないといけない。凍傷のせいで一番気軽にできる指を鳴らした攻撃が出来ないのにさらに片腕を完全に封じる攻撃をするなんて姑息な。

 美嶋秋奈の攻撃が完全外れて地面を叩いた時に隙が出来てカスタネットを鳴らすタイミングが出来て音の勢いを使って一気に距離を置く。距離を置いて音を鳴らして黒蛇束縛を破壊する。鎖がはじけたように束縛が外れる。まだ、ジーンとした痛みが残る。

「はじめて逃げたわね」

「え?」

「あれだけ強さに過信していたくせに逃げるのね」

「逃げたわけじゃない!」

「そうなの?大きなお尻を振って発情期みたいに逃げたじゃない」

「余裕をかませるのもそこまで!」

 カスタネットを数回鳴らして音を全身に宿らせて突っ込んでいく。これなら手数に困ることはない。私の掌握できる音の源はほぼ無限だ。私が気を抜かない限り発生した音はこの手で触れることが出来れば私の支配下における。音の大きさも高さも自由自在だ。音速で動く攻撃を完全に防ぐことは不可能に近い。

「不可能じゃないわ」

「何?」

「音は防ぐことはできないけど、あなた自身を動けないようにすればいい」

 すると美嶋秋奈をカードを取り出して手を離す。空気の抵抗を受けながら落下していくのを杖で上から押さえつけるように打ちつける。嫌な予感がした。

 でも、ここで引き下がったらまた逃げられたと言われて小馬鹿にされる。屈辱だよ。

「屈辱を味わうくらいだったら当たって砕けてやるじゃんよ!」

 その瞬間、私の全身にまるで巨大な石がのしかかってきたように重くなってそのまま倒れる。体を起すにも体が重すぎて立ち上がれない。そのせいで掌握していた音たちが私の手から離れる。

「何よ!なんなの!」

 倒れているのに体が重すぎて苦しい。何?何が起こったの?

 ふと倒れた目の前に生えていた野草が見えない力で押しつぶされているかのようにつぶれたままの状態になっている。これは私だけじゃなくてその周りが何か見えない力で押しつぶされている。

「何をした!美嶋秋奈!」

 彼女は私の見下しながら告げる。極黒とした瞳で弱い生き物を踏み潰すかのように私の見下しながら告げる。

「重力魔術」

「な!」

 確か魔術師官学校の生徒って12~15歳の子供が学ぶ学校だったはずだ。そんな子供が六芒星の魔術を使えるのか?魔術の中でも最高レベルの魔術だぞ。私の組織ですら使える者は指で数えれるほどしかいないはずだ。

「お前何者だ!なんでそんな魔術を持っている!なんでそんな魔術を使える!」

「決まってるじゃない」

 杖に雷を宿す。無属性魔術と属性魔術は同時には使うことはできないという制約はない。

 十字架のついている側に雷を宿して、反対側には六芒星の陣が宿っている。それが重力魔術の陣だ。

「私が強いからじゃない」

 死ぬ。私が初めて経験した感覚。死の恐怖。重力魔術のせいで体が重くて動かせない。こういう場面が初めてというわけじゃない。でも、前とは違うのはまだ黒蛇束縛の痛みのせいで片腕の感覚が微妙にない。さらに凍傷で指を鳴らす細かい動きが出来ない。不利な条件がこんなにはさすがになかった。音をなんでもいいから音を。

 カスタネットに手を伸ばそうとするとそれを見た美嶋秋奈が杖を地面にカンとつくと私の押さえつける力が強くなる。それは骨をも砕くのではないかという強さだ。押さえつける力と地面に挟まれて呼吸がうまくできない。苦しい。

 やだ。死にたくない。怖い。

「・・・・・止めて。・・・・・死にたくない」

 私は初めて襲われる敵に泣き言を言った。

 それを聞いた途端、美嶋秋奈の杖を突きだした手が止まった。そして、クスリと割ると私を押さえつける重力が弱くなった。

 理由は分からない。でも、到来したチャンスを逃すほど私は甘くない。すかさず、音を鳴らして地面に向かって甲高い音をぶつけてあたりのものを吹き飛ばす。その直後、重力魔術から完全に解放された。

 私の攻撃に尻餅をついていた美嶋秋奈がスカートの埃を払いながら立ち上がる。常に目線を下にして表情をこちらに見せないようにしながら。

「何だから知らないけど・・・・・・よくも私をここまで追い込んでくれたな!」

 泣き言を見せてしまったところ。死の恐怖を与えられたこと。そして、何よりも私よりも強いということが腹立たしかった。

「もう、やめだ!こっからは躊躇も手加減もしない!全力で貴様を殺してやるじゃん!」

 私にはまだ使っていない武器がある。これを使うのは本当に久々だ。マジですごいのは認めるけど、もうあんたは殺す。

「もう、無理しない方がいい」

「はぁ?それは自分自身に言い聞かせな!」

「だって、あなたはもう負けているわよ」

「周りをよく見てみたら」

「何を!」

 そう言われて周りを見渡すと複数の黒いマントを羽織った者たちに囲まれていた。そいつらはみんな美嶋秋奈と同じ杖を持っていた。どいつも刺々しいオーラを放っていてただ者ではなさそうだ。

「いつの間に!」

「時空間魔術」

「はぁ?」

「脩也さんの逃がした人たちが呼んでくれた。テレパシーが使える教術師の子が教えてくれた。でも、そんなすぐには来れないのは分かり切っていた。そこで一度この場を幻影魔術を使って幻影に任せて私は援軍はここに連れてきた」

 ま、まさか私の相手をしていたのはずっと美嶋秋奈の幻影。私はずっとあいつに騙されていた。

「げ、幻影魔術で作った幻影は魔術を使うことが出来なはず」

「そんなことはないわよ」

 え?そうなの?

「知識不足よ。でも、幻影に宿らせることが出来る魔術には限界がある。私はほとんどの魔力をその幻影に与えて強力な重力魔術と雷属性魔術を与えた」

「か、仮にそうだとして一体これだけの人をどこから持ってきたの!」

「だから、時空間魔術よ」

 情報では日本には有力な時空間魔術師はいないはずだ。こんな人数を一気に遅れるだけの時空間魔術師なんていないはず。

「あなたが殺した私の仲間の中に時空間魔術を使う子がいたの。その子からカードを借りて魔術を発動させた」

「はぁ?ちょっと、待って時空間魔術は無属性魔術の中でも使える者と使えない物がいるのよ。その謎は未だに解明されていない。どうして、あんたが!」

「簡単じゃない。カードを置いて魔力を流しながら十字架を打ちこめばそれで魔術は発動するわ」

「な!」

 ありえない。おかしい。どういうこと。

 すると私を囲う黒マントの集団が一斉に杖を私に向かって構える。

「クロス・ハイドン。この国への不能入国並びに大量虐殺の罪で拘束する。無駄な抵抗はするな」

 もう、考えるのが面倒になって来た。結論を言う。

「美嶋秋奈。覚えておく。あんたは強い。知識の豊富さと使う魔術のバリエーションの多さ、そして、何よりも何事にもどうしなくなったその精神力に敬意を賞するじゃん」

 私は取り出そうとしていた武器とは別の物を取り出す。それは拳銃だ。装填された銃弾は一発。それを見ると周りの魔術師たちが魔術を発動させる。それを見て銃を上空に撃ち放つと上空に眩い光が灯る。

 これはただの信号弾。撤退する時に私を回収する時空間魔術師に伝えるための信号。

「次に会った時はマジで容赦なしにぶっ殺してあげる」

 最後に私が毒々しく、泣き言を上げる私にとどめを刺さなかった屈辱を与えた性悪なこの女に向かって二つ名を与えた。

「じゃあね―――魔女」

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