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誰も知らない神の前章  作者: 駿河留守
魔女の産声
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師官学校③

「この海の向こう側にはいろんな国が地続きでつながっている大陸があるなんて昔の人は思わなかったんだろうな~」

「・・・・・恵美さん?急にどうしたんですか?」

 水平線の向こう側を眺めながらよく分からないことをつぶやく恵美さん。

 たまにこういう謎めいたことを言うのが恵美さんなのだ。

 午前中の実習を終えていつもの4人が集まって海岸沿いにお昼を広げている。教の海風は穏やかで心地いい。そのせいかお昼を早めに食べた人たちが砂浜に出て遊んでいる。

「恵美の言うことは相変わらずだが、この海の向こう側では今も戦争やってるんだろ」

「一体どんな状況なのかさっぱりですけどね」

「アキは知ってどうする気だい?」

「いや・・・・・半年後くらいにある海外研修がどうなるのかな~って思ったからですよ」

「ああ、確かイギリスに行くってやつでしょ。あたしも楽しみにしてるのよ」

 でも、今戦争状態にあるのはイギリスを拠点とする魔術結社だ。旅行に行けるような状況なのかどうか心配なのだ。

「学生の間に行けなくともいずれこの4人で行くのもいいんじゃね?」

「そ、そうですね」

 この戦争、どちらが優勢で劣勢なのか分からない。そもそも、戦争というのは首都を制圧して政府関係者を取り押さえて降伏させれば勝みたいな感じだと私は思う。イギリス魔術結社は本部がロンドンに存在しているのに対して逃亡軍はその名の通り制圧すべきところがなく逃げ続けることで戦火どんどん広がっている。

「それはそうと君らはここを卒業したらどうするんだい?」

 用意されたお弁当を食べ終えた脩也さんは問う。

「俺は建築関係の仕事を考えてる。土属性魔術ってさ発動させた術者の意思と関係なくもらった魔力が切れると崩れてなくなるのは知っていると思うが、それをどうにかしたらもっと大きな建造物が出来るんじゃねーかなって思うんだよ」

 そう語る翔平さんは土属性魔術を得意としている。

 翔平さんの言うように土属性や氷属性魔術は与えられた魔力によって硬化し続けるがその魔力が切れると崩れて消えてしまう。そうならないようにするには新たに魔力を送る必要がある。

「なかなかおもしろいこと考えるじゃない」

「だが、それはかなり非現実的だと僕は思う」

「それを可能にするようにしたいって言ってるだろ。そのために勉強してるんだよ」

 だから、実習よりも学科の方が得意なんだ。

「そういう、脩也は何になりたいんだよ!」

「僕は政治家だ。この国はもっとオープンに他の国や魔術組織と交流していくべきだと思う。その意見を反映できる職と言ったらこれくらいしかない」

「なんかあんたに演説に全員洗脳されそうで怖いんだけど」

「僕にはそんな能力はない」

「脩也さんは結界生成の教術師ですもんね」

 結界を作るだけの教術師というのかかなり珍しい。結界と言っても物理結界、人払いの結界など多く存在する。教術師は使える魔術が1種類と限られている。その結界を作る教術師の脩也さんはすべての結界を作ることが出来る。まだ、ランクと経験が足りないのですべての結界を使えるわけではないけど、同じ結界の類の反鏡魔術も使うことが出来る。その範囲は小さいけど。

「翔平のように持っている魔術を有効に使う職に就くのもいい。だが、僕のように持っている力を使わない選択肢も存在するということを伝えても行きたいと思う。例えば、非魔術師(アウター)

 魔術師官学校はその名の通り魔術師を育成する学校なので魔術を使えない非魔術師(アウター)は入学することが出来ない。その他にもいろいろと原因があって差別を受けている。こうして入りたい学校に入れないとか。

 それをどうにかしたいというのが脩也さんの考えなんだろう。

「恵美さんはどうなんですか?」

「あ、あたし?そうね・・・・・・特にこれがしたいって言うのはないけど、生き物とか好きだからやるんだったらそういう仕事かな?」

「恵美さんは水属性の魔術師だから水族館とかどうですか?」

 するとほんのり笑みを浮かべてそれもいいかもって呟いた。

「そういうアキはどうなのよ」

「わ、私ですか?」

「そうだよ。確かアキの両親って政府軍所属の魔術師だったはずだよね」

「ちょっと翔平!」

 恵美さんの鋭い指摘にハッとする翔平さん。

「あ!わ、悪い!」

「べ、別にいいですよ。大丈夫」

 ちょっと空気が悪くなったので笑顔で答える。

 私の両親はその名の通り政府の命令で国を防衛したりする戦うことを専門とした魔術師のことだ。数年前にふたりとも戦死したという通知が来たときは本当に目の前が真っ白になって後を追おうとも思ってしまった。でも、こうして私を引き留めてくれたのがこの人たちだ。私が魔術を発動するのに使っている杖は母の形見だ。戦闘時に魔術の発動をスムーズに行うために魔力の流れる素材でできていて、さらにそれなりの衝撃にも耐えうる頑丈性を兼ね備えている。さらに収納魔術なしでも3つに分解して持ち運ぶこともできる。現実を受け入れて力強く生き抜くために私は過去もすべて受け入れてこの杖を使っている。

 将来何をやるかと言っても何も決めていない。両親を殺した人たちに復讐するために政府軍の魔術師になろうとも考えたけど、今は。

「私はできるならば学校の先生とかになりたいですね~」

「ああ、なんか合うわね」

「か、確かに人に教えるのうまいしな」

 魔術の知識だったら負ける気はしません。・・・・・脩也さん以外なら。

 翔平さんの言うように魔術は人を殺す者ではなくて生活を豊かにするものだと思っていきたい。それをたくさんのひとつに伝えられる仕事って言ったら学校の先生くらいかなって思っている。でも、実際のところどうしようかちゃんと考えていない。

「アキはなりたいものはあるのだが特に強く願っているというわけではないのだな」

「そういう感じです」

 正直、この先のことなんて誰にも分からない。知っているのは神様くらい。

「まだ、13だ。これからまだまだ選択肢は存在するからゆっくり考えるのもいいと僕は思うぞ」

 そうですよね。まだまだ、こうやって友達同士で普通に話しててもいいですよね。将来は決めるのはもう少し後でもいいよね。


 この時の私たちは自分たちに迫っている危機。激動の運命。この国にもやってくる戦火にのまれることを私たちは知らない。そして、この危機が誰も知らない私の物語の始まりに過ぎないということをこの時の私が知るはずもない。

 それは本当に唐突で状況を受け入れるのに時間がかかった。自分たちの身に何が起きているのか?それが幸福なのか絶望なのか。魔術が絶望の負の力であるということを誰も知るはずもない人たちが集まっている。魔術の才能がある者たちがこの学校に集まっているせいか情勢の流れにも鈍い人たちが多かった。非魔術師(アウター)の絶望、戦争の起こった原因、それが全部魔術のせいだなんて誰も思っていなかった。

 魔術は誰もが幸福になる力だってこの時の私もまだ思っていた。この時までは・・・・・。

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