風の種②
翌日、いつものように食堂で朝食をとっているといつものように4人集まって来る。俺と雷恥と火輪と氷華だ。俺の隣に氷華が座って向かい合うように火輪が座ってその隣に雷恥が座るという配置はいつも通りだ。
「そうか。火輪は王宮剣術を学んでいるのか」
「はい。なんか見た目がかっこいいから私は好きです」
「そうっすか?俺には全然分かんないっす」
「雷恥君はあんな乱暴な二刀流はなんなの?」
「自分なりに見出した型っすよ。その名も二刀乱流」
名前から察するに適当に二本の剣を振りまわしているだけのようだ。それだと逆に相手に隙を与えるだけだと師匠から教わっている。実際の稽古中もその隙を何度も指摘された。さすがにここ半年間でその隙も改善されている。
「おふたりは二天一流亜種って言う剣術を学んでいるんっすよね?」
「そうね」
「そうだな」
師匠から教えを乞うようになってからふたりに俺たちがどんな剣術を学んでいるのかをこういう場で教えている。
「なんか他の班の一部の人にはふたつ銃の魔武を使った攻撃方法とかを学んでいるって噂で聞きました。こうやってこの場で話す以外に他の班がどんな武器でどんなことを学んでいるのか全然分からないのはなんででしょうね?」
火輪の指摘した疑問。確かに妙は班単位の演習になってから外での実践演習は班同士で別れているせいでどんなことをしているのか全く分からない。
すると火輪の疑問に氷華が口をはさんだ。
「たぶん、班同士の手の内を明かさせないためじゃない?」
「ど、どういうことっすか?」
「例えば、前に風也くんが言っていた。戦闘目的を想定した集団訓練」
「班単位で俺たちを戦わせるつもりか」
「え!」
「ま、マジっすか?」
驚く火輪と雷恥。想像もしていなかっただろう。いつもこうやって和やかに話している俺や氷華はふたりと班が違うということは事実上敵ということになるのだ。機関の言うことは絶対だ。逆らえない。もしも、そんな状況に陥れば俺たちは仲間だろうが親しく話した仲だろうか容赦なく殺し合いをする。そういう環境に2年半近くいたせいか生きるための最適な手段として脳裏に染みついているのだ。
「でも、これはあくまで予想よ。本当に班単位で私たちを戦わせるなんて分からないのよ」
氷華の言うとおりだ。ここで話しているのはすべてが憶測でひどい妄想だと思われてもおかしくないような内容ばかりだ。だが、憶測だけでも機関の行おうとしようとしていることが凄まじく恐ろしいことではないかと気が引き締る。それに関していい影響かもしれない。
―――敵は機関だ。
突然、師匠である風氷のサーベルタイガーの言葉が浮かぶ。風夏にも話した師匠の言葉。
「・・・・その予想は今回ばかりは予想通りになるかもしれない」
「え?」
一番先に驚いたのは氷華だった。
「何か根拠はあるの?」
「師匠の言葉だ。敵は機関だっていうものだ。それはつまり言い換えると敵は雷恥や火輪たちじゃないっていうことだ。あの言葉はまるで近いうちに俺たちが敵同士になってしまう状況が来ることを遠回りながら俺たちに伝えているんじゃないか?」
正直に言えばこれも憶測に過ぎない。決定的証拠も根拠も存在しない。それでも完全に違うと否定することはできない。それが今俺たちの置かれた現状なのだ。機関のカリキュラムに言われるがままに従うだけの駒となっている俺たちの現状。
俺たちが敵同士になる可能性が高くなるせいで食事の場で口数が減ってしまい周辺で話す各々の会話だけが俺たち4人の中に流れる。
「もしもっすよ」
そんな沈黙の中雷恥が初めに口を開けた。
「もしも、風也先輩や氷華さんが敵になったら俺たちはどうすればいいんっすか?正直、俺みたいなバカが生き残って来たのは風也先輩のアドバイスと火輪のサポートのおかげっす。俺は風也先輩とも戦いたくないし火輪を危険な目にあわせたくもないっす」
「雷恥君・・・・」
雷恥の俺や火輪に対する思いに少し胸がうたれる。いつもひょうひょうとしていて考えることが一番苦手な雷恥が本気で俺と火輪に感謝をしている。雷恥はどっちも守りたいのだ。自分の命だけじゃない。人も生かせたいと考えている。
「私も同じです、風也さん」
「火輪」
「私は雷恥君と風也さんに会うまでずっとひとりでした。ふたりに会わなかったら私はここに来て早々に死の恐怖で首を吊って死んでいたと思います。私も風也さんと戦いたくないし雷恥君を危険な目にあわせたくないです」
火輪も全く同じだ。
初めは雷恥が俺に話しかけてくれた。その日の午後に合ったテストのことを朝食の時間にどうすればいいのかと泣きそうな顔で俺にせがんできた。俺のアドバイスのおかげかどうかは知らないがこうして雷恥は今日まで生き残って来た。火輪は雷恥が俺のもとに連れてきた。いつもひとりで寂しそうだったからという安易な理由だった。だが、その安易な理由のおかげで火輪は死の恐怖と孤独という寂しさから抜け出すことが出来た。俺たちは互いに支え合ってきたんだ。
そんな俺たちは敵になりたくない。
「も、もちろん、氷華さんとも戦いたくないですよ」
「もちろんっす」
ひとりだけ除外されているのに気の利く火輪がいち早く気付いてフォローしてそれに雷恥も便乗する。いつもの光景だ。
「気にしなくていいのに」
そこを気にするのが火輪だ。気にしないのが雷恥だ。
「なら、もしもだ。俺たちが戦うことになったら同盟を結ぼう。俺、風也と氷華。雷恥と火輪は敵同士になっても戦わない。それを機関が許さず処分の対象となった時は俺たち4人で全力で抵抗しよう。反乱を起こすんだよ」
「で、でも、そんなことできますか?」
「俺たちが敵同士になっているその状況はきっと武器を持っている」
「そうね。敵として対峙する時はきっと集団訓練の時よ」
氷華もそのことにすぐに気付いた。
「魔武や魔術があるんだったら俺たちだってあ、あいつらに勝てるっすよね?」
途中で雷恥の言葉が詰まったのは本当に勝てる保証はどこにもないからだ。ここに来た当初は魔術を使うことは人並み程度で戦闘に長けていた機関の奴らに敵う気がしなかった。だが、今は違う。魔武という武器も与えられて毎日のように訓練を重ねている俺たちに奴らとの戦闘力の差が天と地の差があるとは考えにくい。
「約束しましょ。私たちはどんな時も味方だって」
「その通りだ」
「ですね」
「そうっすよ」
俺たちは互いの手を合わせる。
「絶対に生き残って外に出るぞ」
「ええ」
「はい」
「はいっす」
食堂で大きく騒ぐと怪しまれる手を合わせただけでそのまま席に座る。
これが俺の本当の奥の手となる。




