師官学校①
戦争が起こったのは私が魔術師官学校に入学してすぐのことだった。教太さんたちの世界で言うと中学生に当たる年齢の子供たちがそこで魔術の基礎などの教育を受けることを義務づけられている。義務だけどそれぞれ学力や魔術の能力によって配属される学校が変わってくる。私の場合、学力は・・・・・いいとして魔術の能力は高い水準をとっていたおかげかそれなりにいい師官学校に配属されて入学した。その学校は全寮制で12歳で私は親元を離れて学校での暮らしに講じることになった。
最初は全然なれなかったけど、それなりに楽しく学校生活を送っている。
そんな楽しい学校生活とは裏腹に戦争は混戦状況となっていた。私も当初は新聞やニュースとかでしか戦争の状況を確認していなかった。
そもそも、この世界的な戦争の原因となったのはヨーロッパに絶大な勢力を持ち規模で言ったら世界一の魔術組織、イギリス魔術結社と4大教術師のひとりミレイユ・ミレー、通称MM率いる逃亡軍との攻防戦だった。
MMはイギリス魔術結社の管轄内のイタリアローマ教皇の一人娘。教術の原産地と言われているその地では強力な教術師が多く存在し、また世界の情勢を崩しかねない力が眠っていると言われている。MMもそのひとり。そんなMMが自分の国を捨てて国外逃亡をしたのだ。理由とは知らないけど、それを良しとしないイギリス魔術結社が阻止するべくMMを捕らえようとしているんだけど、MMの他に同じ4大教術師のひとりであるフレイナと世界中をふらふらしているこれも同じく4大教術師のシン・エルズーランも加わり逃亡軍の勢力は追いかけるイギリス魔術結社と同等かそれ以上になってしまったために戦争は逃げる逃亡軍の移動と共に世界規模となってしまっているのだ。
ただ、私の住んでいる日本は島国で大陸内で行われている戦争とはほぼ無縁の状態だ。日本に住んでいる人たちもどうせ外の世界で起こっていることだ、気にする必要はないと気にも留めていなかった。
「戦場はついに朝鮮半島に。我が国への影響はいかにだってよ」
黒に赤色のラインの入ったブレザーにズボン。白のカッターシャツに黒と赤のネクタイが私たちの師官学校の制服だ。そんなネクタイを緩く留めてブレザーのボタンは全開にした少し制服を着崩した男の子が新聞の一部の記事を読む。
「ついに戦争が俺たちのすぐそこまで来たじゃねーか」
制服を着崩してモヒカンみたいに髪にメッシュを入れたこの男の子は翔平さん。強面の顔だけど、魔術よりも記述の魔術試験の方が得意の男の子だ。
「新聞は大げさなんだよ。僕が推測するに―――」
翔平さんとは対照的にブレザーのボタンをしっかりと留めてネクタイをしっかりとしめて黒縁メガネをした男の子が脩也さん。成績は学校トップクラスの優等生です。
「誰も聞いてないよ~。そんな推測なんて誰も聞きたいないわよね~。アキ」
女の子の場合はネクタイの代わりにリボン、スカートは黒と赤のチャック。そのスカートを極限までに短くしているこの女の子は恵美さんである。
「いえ、そんなことないですよ。私は脩也さんの推測は聞いてますよ・・・・・たまに」
そして、この翔平さん、脩也さん、恵美さんに囲まれるように輪の中にいるのが私こと美嶋秋奈です。こっちの世界ではアキという愛称で呼ばれているんですよ。
今はお昼休みでいつものこの4人が食堂に集まって食事をとりながらこういろんなことを話す。
「戦争が起きてよ、そろそろ1年だぜ。いい加減終わってくれねーかな。お前らはそうは思わないのか?ただ、魔術を使って人を殺し合っていることが俺からすれば見苦しくて仕方ねーんだよ」
「確かに翔平さんの意見には同感です」
「お、アキもそう思うか」
「あたしもそう思うわ」
後から恵美さんも賛同してくれた。
「あたしらが学んでる魔術は人を豊かにするものだってこの間野宮が言ってたじゃない」
野宮というのは私たちの担任の先生の名前です。
「確かに野宮先生の言うことは一理あると僕は思う。だが、ここまで魔術が日常生活に普及したのは戦争で魔術の技術革新があっておかげであることを忘れてはならない」
「だからって脩也は戦争していいと思ってるのか?」
「そんなわけない。ただ、起こってしまったものは仕方ない。起きてしまったのならせめてその戦争の仮定で新たに魔術革新があってほしいと僕は思う。散って行った者の命を無駄にしないためにもだ」
起きてしまったのだから仕方ない。現状を否定しないで受け入れて次につなげる。こういう論弁の場面での脩也さんの言うことは本当に、
「確かにそうですよね~」
と必ずと言っていいほど言ってしまう。
それは私に限られたことじゃない。
「俺もそう思うな。でも、なんかここ最近変じゃないか?」
「どう変なのよ?」
「戦争の火が中国に入った時から俺たちのカリキュラムに変更があって魔術防衛実習が増えたのに何の疑問も感じなかったのか?」
翔平さんの言う通りで中国に戦火の火が灯ったのはつい一か月前のこと。そのころから魔術の戦闘実習の回数が増えた。元々あるカリキュラムなのは確かだけどその増え方に疑問を感じざるをえない。
「おそらく、国はもう想定しているのだと思う。MM率いる逃亡軍がこの国に逃げ込んで来ることを」
島国であるこの国は長い年月鎖国をしてもなお長らえていた強い国だ。鎖国が終わった後は積極的に他国の技術を取り込んでアジア圏で絶対的の存在感を示す国へとなった。でも、日本は世界2大魔術結社のイギリス魔術結社にもアメリカを拠点として世界情勢の安定を模索する黒の騎士団にも加盟しておらず中立を常に保っている。世界中には強力な魔術師、教術師が混在する中で中立を保てるのは国を統括する政府の長の力が大きく影響している。
その影響力が今でも健在あり簡単に逃亡軍をこの国に入れて戦火をこの国にまで広めるようなことはしないと私は思っている。
「そういうのって国や政府が全力で阻止するんじゃないの?」
「でも、相手は世界でも名高い教術師が3人もいるんですよ」
「いくら影響力が強いからと言ってもごり押されたらどうしようもなさそうだな」
「そうなれば、いつものように取り込むしかない。それが結果的に戦火がこの国に広まることになっても絶対的な力が加わればこの国は安泰だ」
脩也さんの意見には本当に頭が上がらない。確かに今までにもこういうことがたくさんあった。その都度、良好なものは取り込んでこの国はここまで強くなった。今回も大丈夫だよね。
「ただ・・・・・・」
その後に告げた脩也さんの言葉に私たち4人は息をのむこととなる。
「それを見越してこの国に入って来たとしたら、良いように利用されるという考えも捨てがたいな」
結果的に優位にことを運んだのは国、政府側か逃亡軍か。それは戦争が終息して行っても誰にも分からないままだった。