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誰も知らない神の前章  作者: 駿河留守
風と氷の玉鋼
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風の原石③

 30分後。

 牢獄の扉が再び開いてスーツの男がやって来た。俺たちを牢獄から連れ出すと再び大広間を通って2階に上がると大きな講堂があった。そこには馬車でやって来た俺たち以外の人間もいるようで次々と広い講堂に俺と同じ年くらいの子供たちが入って来て並ばされる。その人数は軽く100人くらいはいそうだった。

 俺たちを囲むように武装したスーツの男たち。そして、正面でまるで教祖のような純白の修道服を着たひとりの女性が壇上に上がって来た。修道服で顔以外はほとんど覆われているが細目でにっこりと笑みを浮かべている。

 俺たちを見渡すと優しげのある声で語りかける。

「皆さんようこそ。この施設にはまだ名前はありませんが、あえて言うのならば『機関』とでも名付けましょう。この機関では君たちの中に眠る潜在能力を導き出して強い魔術師になることを促進させるための場所です」

 ここがどこでどういう所なのかを俺は知らなかったが目の前の女性が教えてくれた。どうやら機関という施設らしい。魔術師としての能力の引き出しを目的としているらしい。ここまで話を聞くと俺はここで魔術を学ぶということになる。だが、それでは逆に金のかかる学校に通うということになる。それなのに家族に金が支払われたというのはどういうことだろう。それに魔術を学ぶだけならば道中であの少女はどうして逃げ出したのだろう。そして、この場にいるほとんどの者が絶望の淵にいるような表情をして今に倒れそうだ。ここに来ることを望んでいないような感じがした。

 考えれば考えるだけ謎が増えていく。

「申し遅れた。私はこの機関の所長である、ユーリヤだ。皆を直接指導するということはないがカリキュラムの計画はほぼ私が担うことになっている。皆が強い魔術師となるように効率の良いカリキュラムを計画している」

 その細目が一瞬開いて見せた赤い瞳に一瞬寒気を感じた。声とは裏腹に冷たいその視線は子供である俺にも分かった。あの人は何か隠している。周りの状況と違う空気で話しかけるその声に違和感は最初からあった。それが確信へと変わった。

「諸君らにすでにつけられている名にはそれぞれが使う属性魔術が名前の中に入っているであろう。火の者は火を水の者は水を名の中に入れられているであろう。それがこの機関である何よりの証拠である。その名を何よりも誇りとして精進してほしい。この後、食事の後にすぐそれぞれの属性に分かれて魔術について詳しく学んでもらう。何度かカリキュラムをこなし、優秀なものを人選してゆき少数精鋭にしてゆこうと考えている」

 ここで本当に学ぶのは魔術なのか?

 俺の疑問は募り一方だがここでの発言は許されていない気がする。周りを囲む武装したスーツの男たちが威圧感で分かる。ここは普通じゃない。

「最後に諸君らがカリキュラムに率先して取り組んでもらうためにひとつ忠告しておこう」

 忠告?

「先ほど述べたように優秀なものを人選してゆくと言ったが選ばれなかったものはこの機関での生活を終えることとなるであろうが、待つのは地獄よりもつらい人生であろう」

「はぁ?」

 俺以外にも同じような声を発するものがいた。スーツの男たちが動こうとするのをユーリヤが止めて続ける。

「ここでは強い魔術師を育成することを目的とする。その目的にそぐわないものはすぐにこの機関から出て行ってもらう。出たものがどうなるのかは諸君らの目で確かめることだ」

 強くなければ生き残れない。そんなところに突然連れてこられて困惑しかない。人選されなかったものはどうなのか?まさかと思うがここに来る道中で射殺されて焼かれたあの少女と同じような目にあうのではないかと誰もが脳裏によぎった。俯いて顔入りを真っ青にして俯く者もいた。

「そうそう」

 ユーリヤは去り際に告げた。

「逃げようと思うのではないぞ。どうなるかはすぐに諸君らが経験するだろう」

 そう言ってユーリヤは壇上から降りて行った。

 俺がここで経験することはきっと誰も経験しない。牢獄という名の学び舎で学んだことは後々考えれば大いに役に立っているかもしれない。でも、それは常に何か危険が隣り合わせになっているからだったから学んだことが忘れることなく残っているのだ。そういう考えがあっての教育方法であるならもっと別の方法もあったはずだ。だが、俺たちを育成する目的が彼らにはあったのだ。

 その目的を俺は知らない。

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