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今より数年前、ローザがシルクと名乗り、アイリーンとともに活動をしていたころ。

二人組の処刑人『VENGEANCE』として、犯罪者や奴隷商を相手に二人は数々の事件を解決してきた。

当初はシルクの足を引っ張っていたアイリーンも、いつの間にか体術や変装、それに持ち前の薬学知識などを生かし、シルク顔負けの『VENGEANCE』へと変貌を遂げていた。


「シルク!」


男たちと格闘戦を繰り広げながら、アイリーンは男たちが持っていた不正の証拠をシルクに投げ渡す。それを取り返そうと躍起になる男たちは、それを掴もうとしたが、あまりに早く、掴むことができなかった。

それを受け取ったシルクは、意味ありげに笑みを浮かべると、ナイフで隣にいた男の喉笛を掻き裂いた。


「さぁ、裁きの時間よ」


「覚悟はいいかしら?」


美しき死神たちは死の宣告を告げると、鮮やかに舞う。チンピラたちはなすすべもなく、鮮血を吹き出しながら地面に倒れた。


シルク、アイリーンによって明るみに出たとある町役人の不正の証拠により、それまで街の利権を独占してきた役人はしかるべき裁きを受けた。彼の手ごまとなっていたチンピラの多くは死か、街の者たちによる報復により酷い目に遭った。

復讐の女神たちは、鼻歌を歌いながら自分たちのすむ街に帰るための馬車に乗っていた。


「まったくとんでもない男だったわね」


「そうね」


男嫌いのアイリーンはそう言う。どこか男は汚らしい、という思い込みが強いアイリーン。過去に男関係で何か酷い目に遭ったらしい、というのはシルクは大体言動の節々から感じていたが、アイリーンが言いたくない様子なので、無理に聞いたことはない。

少しばかり、彼女の自分に向ける過剰な愛に辟易はするが、まあ、それも構わないか、と最近では感じ始めていた。

甘えるアイリーンのオレンジ色の髪を撫でてやると、琥珀色の瞳がトロン、となる。気の強い大人の女性、と言う印象のアイリーンだが、こういうときばかりは可愛らしい少女のように見える。そのような顔を男にでも見せれば、何人でも群がってくるだろうに、とシルクは内心で溜息をつく。

その時、御者台にいた老人が中にいた二人に声をかける。


「ああ、お客さん」


「どうかしました?」


老人にシルクが人当たりよく答える。すると、老人は頭を掻いて、申し訳なさそうにシルクたちを見る。


「すまねえが、この先の道がどうやら先日の雨で少しばかり、あー、問題があるそうで・・・・・・」


そう言い、道の先を見ると、復旧のための作業をする工夫こうふの姿があった。

あら、とシルクはアイリーンを見る。アイリーンも肩を竦めた。


「そう言うわけでして、予定が・・・・・・・・・・・」


「仕方ないですわ」


「そうですね、私たちも特別急いでいるわけではございませんし」


そう言った二人に、老人はしきりに頭を下げる。

仕方がない、と二人は肩を竦めた。


そう言う事情である程度引き返した街で宿をとった二人は、未知の復旧まではしばらくその町で滞在することとなった。シルクもアイリーンも、最近は休みなく活動していたために、いい気休めになると思い、身体を伸ばしていた。


「いいお湯ね」


「麓の山から湧き出る温泉、らしいからねえ。温泉なんて、この辺じゃあまりないものね」


そう言い、湯舟につかる美女二人。朱い髪とオレンジ色の髪を結いあげ、湯の中に入らないようにしている。豊満な肉体を恥ずかしげもなく見せつける二人に、周囲の女性たちからは技棒のため息が漏れ出ていた。

二人には羞恥心がないために、特に隠すこともなかった。アイリーンの場合、ここに男でもいたら必死で隠すだろうが、周囲にいるのは女性だけであり、気にする必要はなかった。シルクはもう誰に見られようと気にするような神経ではない。ふう、とただ湯を満喫していた。



若干のぼせたアイリーンを着替えさせ、部屋に戻ったシルクは彼女を寝かしつけた。

酔っぱらったような状態のアイリーンはシルクに対して同じ寝台で寝よう、などと言っていたが、シルクが拒否すると、ふて寝してしまった。しばらくすると寝息を立てて寝てしまったので、シルクはその髪を撫でると、一人、部屋の外へと出ていった。

自然とうまく調和した街であり、空気は澄んでいた。気持ちのいい風が髪を揺らし、鼻孔を花の匂いがくすぐる。夕闇の中に浮かぶ山の姿に、空の星々は普段見ることのできない光景であり、シルクの心を満たしてくれた。

ふと、その時、背後で人の気配を感じ、シルクが振り返った。シルクは知らず知らずのうちに、太腿に隠していたナイフに手をかけていた。

振り向いたシルクは、そこに一人の女性を見つけた。女性、とは言うが、まだ少女と言っていい年齢であろう。


「こんばんわ」


「こんばんわ」


少女は笑顔でシルクに行った。シルクも笑みを浮かべて返す。杞憂か、とシルクはナイフから手を離し、少女に気づかれないように元の位置に戻す。東方の血が混じっているのであろう少女は、可憐であった。


「今夜は月がきれいですね」


少女はそう言い、突きを見る。なるほど、綺麗な満月である。いつの間にか、見入ってしまい時間が過ぎていたのだな、とシルクは感じさせられた。


「この街の人、かしら?」


「いいえ、旅の途中なの」


シルクの問いに少女は答える。長い髪が夜のひんやりとした風に揺られている。


「そう、私もなのよ。友達と、ね」


「へえ、楽しそうですね。私は一人旅ですから」


そう言った少女を私はじっと見た。一人旅とは、この少女には似合わない、と感じていた。

いや、違和感はあった。どこか少女には普通とは違う気配がある、と。どこかで似たような雰囲気を感じたことが、とシルクは感じていた。


「ちなみに、どこを目指して?」


「ううん、当てのない旅ですからねえ。特には」


少女はそう言い、シルクを見る。


「うらやましいなあ、私もお友達と一緒に旅とかしてみたいなあ」


そう言った少女は、あ、と言い、駆けだす。


「ごめんなさい、そろそろ宿に帰る時間なの!」


「ああ、そうなのか」


「今日はお話に付き合ってくれてありがとう!しばらくはこの街にいるの?」


「ええ」


シルクの言葉に、少女は嬉しそうに笑った。


「なら、また街にいる間に逢いましょう!私の名前はマツリ。あなたは?」


「私は、シルク。シルク・ウェストファリア」


その名前を聞いて、少女は繰り返し私の名前を呟く。そして、私を見ていった。


「うん、いい名前ね。でも・・・・・・・・・・・・・・」


そう言って振り返った少女の目は、どこか不思議な目の色をしていた。形容し難いその目の色を、一瞬見間違えたか、とシルクが疑ったほどであった。


「あなたにはもっとふさわしい名前があると思うな。例えば、薔薇の名前、とか」


「・・・・・・・・・・・・・!」


その言葉に、驚き声も出ない私を見て、「またね」と言い、少女は消えた。


「・・・・・・・・・・・・・・」


沈黙した私は、静かに宿の方へと歩き出していった。



宿に自分を置いていきっぱなしでどこかに出かけていたシルクを責めるアイリーンのおかげで、やっと元の調子に戻ったシルクは、アイリーンの機嫌を直すために、結局同じ寝台で寝る羽目に陥るのであった。

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