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私の意識が覚醒したのは真夜中であった。暗闇の中、私は私の手を握る存在を感じていた。

寝台の横で眠る少女。私が守りたかった少女。彼女の姿が異邦の少女と重なる。

だが、彼女は確かに生きている。その手のぬくもりが確かにある。

私は彼女を守れたのだ、そのことに私は安堵した。

そして、私は自身の傷を確認する。上着を脱いで、包帯に包まれた胸を見下ろす。

血が滲んだ傷。それはわずかに心臓をずれていた。もう少しで死んでいたのだろう。

ふと、胸元のペンダントを見る。よく見ると、銀細工の竜が少し欠けていた。

このペンダントが、カミーラのナイフから私を守ってくれたのだろう。

全身が引きつるような痛みがあるが、これはあまり問題ではない。数日で治るであろうから。

サレナも寝息を立てて寝台の近くにいた。その黒い毛を撫でると、私は寝台から抜け出す。

その際に、無防備に眠る彼女の身体に毛布を掛けた私は、屋敷の主の姿を探すのだった。



彼女はすぐに見つけることができた。

いつもの庭先で、静かに佇んでおる。

「起きたのね」

「ええ」

私は答える。彼女が私を振り返る。

「ヴェンティ、偉そうに言いながら、私はカミーラを完全に疑うことができなかった」

そう言い、彼女は私を見る。その目は静かに揺れている。

「結果として、あなたは生死をさまよった。私は駄目だな」

自嘲するように言った彼女に、私は頭を振る。

彼女の生ではない。人を殺した吸血鬼はカミーラだったのだから。真に責めるべきは彼女であろう。

もっとも、そのカミーラは私自身の手で葬ったのだが。

「ローザ」

私は慰めるというわけではないが、何か声をかけようと口を開く。

そんな私をローザは抱きしめる。私の頭を撫でる。

「すまない、すまない」

そう言う彼女に、私は言った。

「気にしないで、ローザ。これは私が選んだ道なんだから」

ローザに感謝している。どれだけひどい扱いをされ、裏切られたとしてもそれは変わらない。

私に光をくれたのは、ローザだったから。





カミーラの死は、カミーラの親族たちの手で秘匿されたらしい。

ローザが彼女の死後、見つけた証拠を示すと、カミーラの親族たちは青い顔をしたという。

ローザの脅しに怯えた彼らはカミーラを「行方不明」として処理した。その死体も、名も知れぬ奴隷の死体として処理された。

こうして、吸血鬼事件は幕を下ろすこととなった。事件の終息により、いつの間にか吸血鬼の存在は忘れられてしまった。

そこにあった犠牲も、血も、誰もが忘れてしまった。

いや、全員が、と言うわけではなかった。

サクヤは寝台に横になる私のために、四六時中そこにいた。

あの事件は彼女に私への負い目を作ってしまった。それまで以上の「借り」を。

彼女は自分を責めている。

私の言った言葉は彼女を心配しての言葉だったのに、自分はなんてひどいことを言ったのだ、と。

サクヤは目に見えて落ち込んでいた。


事件から一週間以上が経った。私は未だに落ち込むサクヤに言った。

「サクヤ。私はいいから、少しは休んで」

「ヴェンティ?」

彼女が不審そうに首をかしげる。

「私、何か悪い事でもした?」

サクヤは私がそんなことを言うのは、何かしたからなのだ、と感じたらしい。涙目で私を見る。

「鏡で自分を見てごらんよ。目のクマがすごいし、ろくに寝ていないでしょう。私は大丈夫だから」

「でも、私は・・・・・・・・・」

彼女は彼女を許せないのだ。たとえ、私が赦したとしても。

私は彼女を見る。

「サクヤ、私はサクヤが好きだよ」

「ヴェンティ」

顔をわずかに染めたサクヤ。美しい黒髪。

引け目など感じずに、いつものように、これまで通りの関係。それを私は望んでいる。まるで、私に依存し、引け目を感じる彼女は、見ていられない。

「サクヤ。私はあなたと同じ立場でいたい。今みたいな、隷属みたいな関係は嫌だ」

「でも、私は」

「今、あなたが自分を許せないのはわかる。けれど、私はもう気にしていない。だって、私もサクヤも生きているから」

だから、と私は言った。

「休んでもいいよ。時間はあるんだから。遅すぎるなんてことはないんだよ」

そう言ってもまだ渋る彼女。私は笑ってみせる。

「サクヤを嫌いになんてなったりしない。これまでも、これからも」

「・・・・・・・・・・・証明できる?」

私を潤む目で見て彼女は言う。

私は頷いて、彼女をこちらに来るように手招く。近づいてきた彼女。私はわずかに身を乗り出し、彼女の顎を少し上に向けさせると、その美しく瑞々しい唇にキスをする。

両手を彼女の頬に当てて、長いキスをする。厚い吐息がかかり、彼女の顔は驚きと羞恥に染まっていた。

だが、彼女は目を閉じ、私の背に手をまわし抱きしめる。

互いの温度を感じながら、私たちはキスし続ける。

唇を押し進み、互いの下が絡み合う。

抑えられない感情。私たちは抱きしめあう。長い時間そうしていた。

一度唇を離す。目と目が混じりあう。言葉はいらない。

もう一度、互いの気持ちを確認するように唇を貪りあう。

抑えられない感情に突き動かされ、彼女を寝台に押し倒す。体の傷はまだ完治していないが、気持ちを我慢できるわけがない。

彼女の服に指を駆ける。彼女の思いを確認するように彼女の目を見る。羞恥に染まりながらも、彼女は嫌とは言わなかった。

私は軽いキスをして、彼女に覆いかぶさった。





「好きだよ、サクヤ」

「私もだよ、ヴェンティ」

互いの熱を感じながら、私は囁いた。くすぐったそうに身をよじり、彼女もまた、そう言った。




次の日から、彼女はいつもの彼女に戻った。私が好きな彼女に。

美しく笑う少女。気が強くて、頑固で、優しい少女。

そんな彼女が、私は好きだ。

彼女を守ることができた。私はそれだけで満足だ。




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