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VENGEANCE  -THE CRIMSON HOOD-  作者: 七鏡
SCARLET AVENGERS
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暴動の原因は今でもよくわかっていない。けれども、大きな暴動が起きた。民衆に交じって、動きの洗練された暗殺者や傭兵が紛れ込んでいた。彼らに先導された市民が、街の庁舎を攻めた。

その街は今のラウシルンと似た感じで、当時は奴隷たちも多くいた。奴隷や下層民を率いた連中によって、街は混乱に陥った。

アイリーンは当時、別の事件を追っていて、街に不在であった。私は再び『VENGEANCE』の仮面をかぶり、闘った。サラディンもそんな私を送り出した。自分は大丈夫と笑って。

私は戦った。ヒュドラーの戦士たちと。


燃え盛る街を背に、私は立っていた。足元には多くの市民の死体と、私が倒した敵が転がっていた。

私は深い傷を負っていた。ヒュドラーの撒いた毒により、街は死が蔓延っていた。

私は足を引きずりながら、サラディンの下へと急いだ。彼が生きていると信じて。

私たちの家は荒らされて、彼の姿はなかった。燃え盛り、誰も生者のいない街を私は必死で駆け巡り、彼の名を叫んだ。

そんな私は、街の中心の広場で彼の姿を見つけた。彼の首筋には、刀が突きつけられていて、傍らに一人の男が立っていた。

「サラディン・・・・・・・・!」

「シルク」

サラディンの双眸が開かれる。私は彼の下に向かおうとし、男に止められる。

「来たらこの男を斬るぞ、復讐者」

「・・・・・・・・・っ」

私は足を止める。そして、そんな私に、背後から忍び寄ってきた黒装束が武器を奪う。

手やスカートの中の武器、すべてを。

「ふん、依頼で来ただけだったが、とんだ獲物がいたものだ」

私を見て、男は言う。筋肉は隆起し、鋼のようであった。禿げた頭には竜のタトゥーが刻まれている。

「我らの邪魔をし続ける虫けらを仕留めたとなれば、俺の名も挙がるってもんよ」

そう言い、男は笑う。下品な笑い声に、私は不快感を隠さずに言った。

「あなたの目的は私のはず。彼を離しなさい」

私の言葉を受けて、男は「そうだな」という。

「だとよ、あんたはもう用はない」

そう言い、サラディンの首から刀を退けると、彼を蹴り飛ばす。彼はよろよろと立ち上がり、私を見る。

「君を置いてはいけない、シルク」

「サラディン、行って。私なら、大丈夫だから」

私はそう言った。そして、彼は私を信じて背を向けて走り出す。

「いいねえ、愛情てのは」

男はそう言い、にやにやと私を見る。そして、男は言い放った。

「殺せ!」

その言葉を受けた黒装束が、いつの間にか弓矢を構えていた。合図とともに、一斉に矢が放たれた。


彼の身体は、矢に貫かれた。頭部、心臓、四肢を貫かれて。

私は叫んだ、哀しみを隠すこともできずに。

「はっは、この街の住人は、皆殺しって言われてたんだ。悪く思うな?」

私を見て、男は言う。

「まあ、お前もすぐに死ぬんだ、かんけえないよなぁ?」

私を抑える黒装束に合図をして、男は背を向けた。

赦すものか。私の中の声が戻ってくる。そして、私に言った。

『贖いを、復讐を』

その声に身を委ねる。ああ、結局、これが私の道なのだ。

私は黒装束たちを押しのけると、指で彼らの目を突いて、彼らの腰の刀を抜き、その首を永遠に切り離すした。そして、弓矢を構えた黒装束に向かって刀を横に投げつける。風を切る音がして、彼らの首を一閃した。転がり落ちた首に目もくれず、私は禿げ頭の下へと走っていく。

「女の分際で・・・・・・・・・・・!」

男は刀を構えて、振り下ろす。私はそれを右手の刀で受けると、左手の刀で男の身体を斬りつけた。

だが、筋肉とその上の鎖帷子で刃は阻まれた。男は私の刀を折ると、私の髪の先を斬り飛ばす。

私は後退し、砂を手に含むと、それを男の目に放つ。男はその一瞬に目を閉じた。私はその瞬間、口の中に隠し持っていた毒針を取り出すと、男の右目に突き刺した。

「があああああああああああっ!?」

男は叫ぶ。ふと見えた男の目は変色し、血が充満しだしていた。激痛が男を襲っただろう。

私は男の右腕を切り飛ばし、男の刀を掴むとそれで左足を斬り飛ばす。続いて左足、左手、そして止めに首を跳ね飛ばした。

男が倒れ、敵はすべて死んだ。そして、私の守りたかったものもまた。

サラディンの、見開かれた眼が、私を責めているように感じた。お前のせいだ、と。

私は復讐を胸に、街を去った。




アイリーンは街が滅びたことを知り、失意のまま、故郷に戻った。私は彼女の故郷で彼女と最後の話をした。

「アイリーン、これ以上、私にもヒュドラーにもかかわるな」

「どうして、シルク?私は邪魔?あなたのために、私は・・・・・・・・・」

「これ以上、私は私の親しい人を巻き込みたくはないんだ」

そう言うと、彼女は顔を伏せる。涙が零れ出ていた。

「ヴェルベット、私はあなたのためなら、死んだっていい。それで、あなたの心に永遠に残るなら・・・・・・」

「それが危ういんだ、君は、死ぬことを恐れていない。だからさ」

私の言葉を理解できない、とアイリーンは見た。

「どうして、なんで?!私は、こんなにも、こんなにもあなたを愛しているのにっ!!」

彼女は叫ぶ。

「あなたの幸せのために、私は何時だって、いつだって・・・・・・・・・・」

「君は、私にかかわるべきではなかった」

私は彼女に言い放って、背を向けた。

「ヴェルベット!!」

「もう、会うこともないだろう。君がもし、私に会いにきたら、私は君を殺す」

彼女はその場に座り込み、泣き喚いた。

私は痛みをこらえるように唇をかみしめた。これでいいのだ。これが、あるべき姿なのだ。本来の。

私は『VENGEANCE』に戻り、彼女はただの薬師になるのだ。

それが正しいはずなのだ。なのに、私の双眸から零れる涙はなんなのだろう。

私は独り、見果てぬ道を進みだした。




私はローザを見る。彼女は静かに笑った。自嘲するように。

「酷いものよね、利用して、揚句、勝手に別れを告げるなんて」

はあ、とローザは息をつく。

「いっそ、恨んでくれていた方が楽だった。私を見て、唾を吐き、罵ってくれた方が」

「ローザ・・・・・・・」

私は、なんとなく、アイリーンの気持ちもわかる。そして、ローザの思いも。

だから、何も言えなかった。ただ頷いていることしか、私にはできなかった。


話し終えると、ローザは静かにその場を立ち去り、私だけがそこに残された。

孤独。それは酷く寒い。

寄り添い合おうとすればするほど、人は傷つけ合う。でも、そうやって私たちは生きるしかないのだ。

きっと、いつか二人にも訪れる。自分を赦し、互いを赦せる日が。

その日まで、私は見守っていよう。

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