SS
短い掌編です。
気軽にどうぞ。
SS、シークレットサービス、言わずと知れた要人警護の専門家だ。
俺はこれまで、幾多の戦場を渡り歩いてきた。
かつては、「老兵は死なず」などとと言ったものだがこの時勢、戦の場からは消え去った身であっても、糊口は凌がねばならない。
世知辛いことだ。
名も多少は知れていたのだろう、要人警護を生業とする組織から声がかかる。スカウトって奴だ。
血と硝煙に塗れただけの経歴でも、有用を認める者は居る。
経歴だけでなく、政治信条や行動原理、ありとあらゆる過去の行状を調査したと聴いている。
お眼鏡に適った、ってヤツだ。
この組織では、特に屋内での警護を主とする。近接戦闘特化、いわゆる閉所のスペシャリストというヤツだ。
対象と物理的にも近しい位置での任務となるため、護衛契約には対象との相性にも焦点を当てる。
護衛対象との接見。相性、この場合は性格や気質、既往病などの影響などの対象本人に関わることをはじめ、家族構成、住まいの構造など、次の行動を予測して事故を未然に防ぐ、という意味である。
印象として悪くなければ、まずは数日から数週間、細部の擦り合わせや点検、チェックを兼ねて、試験的な警護を行う期限付契約を結ぶ。
期限付契約の満了--途中でもよいが--を以て、護衛する者とされる者、両者の同意に基づき、本契約を締結する。
故にこの商売、護衛には技術の練度よりも、安心と信頼を望む者が多い。
そうして先々、加齢や病などにより護衛する者が十全な護衛を果たせなくなっても、退職するその日まで契約を続けていくケースが殆どである。
縁は異なもの。
そうして今、俺はこの屋敷を護っている。
俺の名は「フゥ」、当然コードネームである。本名は組織しか知らず、俺の方から明かすことは無い。
古典落語の「寿限無」ではないが、切迫した事態を想定するなら呼称は短い方が良かろう。
SSの仕事、映画なんかでよく見るなどと言う者も多いが、芸能には演出過多が丁度いい。あれでは何も護れないけれど。
では、守秘義務に抵触しない範囲で教えてやろうか。本当の閉所スペシャリストってヤツを。
夜間、屋敷のカーテンはずべて閉じる、1か所を除いて。いわゆる誘蛾灯ってやつだ。素人相手にはこれでいい。プロ相手には当然、プロ向けの仕掛けがある。
夜中の見回りも時刻は決めない。
気配も消すだけでなく、時には開きっ放しにしたりもする。
要は、不要なパターン化を避けるのである。ちなみに「必要なパターン化」というのは、「誘いかける」場合に行うのだ。
朝はカーテンを開ける。窓辺でまず気にするのは狙撃。部屋と窓の大きさから射角が割り出せる。その射角を取れる構造物をチェックする。最近では2か所程、基礎工事中の家屋があるので、近々組織に「適切な処置」を依頼するつもりだ。
窓を開ける素振りで、ロープなどの痕跡もチェック。
警護にはツーマンセル--この屋敷の場合--であたる。
相方の名は「ダイ」。先任者で同じ組織から来た男だ。ボクシングで言えばウエルター級だろうか。白と黒の都市型迷彩服を纏っている。
ちなみにこちらの迷彩服は、茶ベースのタイガーパターンである。
屋敷内での護衛が主であるため、護衛対象--以降は「主」と呼ぼう--の外出時は屋敷での待機となることが多い。
そんな時、件の相方は絡んでくる。
日常に刺激は多くない。今日は胸を貸してやってもいい。
以前より強くなってはいるが…。こちらはスーパーミドル級ほどなので3階級の差がある。耐久力と打撃力の差、それを埋めるにはスピードと精確さ、タイミングそして”汚さ”だ。
我々はボクサーではないのだから。
一蹴。
相方は踵を返し速足で去っていく。
逃げるのではない、見回りの時間になったのだとでも言う様に。
主が戻ればまた傍に侍る。窓際を護る。
主が動けば付き従う。先回りして安全を確保する。
主が望めば、話しもする。僭越ながら意見もしよう。
環境の変化に戸惑いはあるが、戦場しか知らなかった俺にとって、それらは嬉しさに分類されるものだろう。
主の供する膝に乗る、その温かさも。
読んでくださり、ありがとうございました。




