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第五章 天が治むる時

(17)時の流れは勢いを増して

「信長が、菊池殿を狙っていると」

「そうだ。この日本連合を牛耳るためだ」

「政宗殿、そこが分からぬ。景勝様を狙うなら分かるが、菊池殿は、直江殿の使い走りでございましょう」

「元親殿は、全体が見えておらぬ」

「しかし、北陸の片田舎の只の武将が、それ程の力を持って居るようには思えぬが」

「では、仮に暗殺が成功していたらどうなる」

「景勝殿が怒って連合は消える。そうすれば、織田の思うつぼ。信長が、大名を順に潰して、天下を取ると」

「それは直江殿が許すまい。まあ、織田は連合から除名して、皆で攻めることになるがな」

「そこは秘密の内に」

「お主はこの件に疎かろう。それでも、信長と分かる」

「それは元々が、織田包囲網から来ていて、戦をなくすためと、織田の横暴を防ぐために作られたもの。一番嫌がっているのが信長ゆえ」

「信長は知られようと知られまいと、どっちでも良いと思っておろうな」

「しかしこのままというには」

「動いているのは光秀だ。奴は頭がいい。簡単にしっぽは掴ませまい。だが、皆が、光秀の動きを利用しようとしている。光秀は信長の下でありながら、幕府のために働いておる。そこが味噌だ」

「信長のためではないと」

「将軍義昭のためでもない、室町幕府のためだ。」

「幕府と、将軍とどう違うのでしょう」

「幕府の為にならねば、将軍も切り捨てる。義昭が幕府の為にならねば容赦なく切り捨てよう」

「では光秀は、誰の為に働いていると」

「誰でもない、自分の理想のため、かな。だが新体制に幕府はいらない。足利体制は邪魔だからな」

「どうなるのでしょう」

「この先力を持ってくるのは誰だ」

「伊達様」

「あははは。見えておらぬなあ。一向宗よ」

「一向宗と言えば、顕如さま、いや今は、教如様」

「いや、関東一向宗だ」

「でも、まとめ役のいないし、この先どうなることやら」

「今は領主だ、殿様だと威張っているが、自分でやっていける、守っていけると知ったらどうなる」

「どうなるので」

「武士はいらないと思うだろう」

「治める者がいなければ、国は成り立たない」

「昔は貴族がそう思っていた。今は武士がそう思っている。そして未来は民、百姓が自分でやっていくだろう。それが、加賀であり、越前であり、長嶋だ。そして関東だ。こうやって増えていくのだろう」

「そんな事を言ったら武士はいらないことになる」

「つまり、未来はそうなるだろう」

「それなら、我々はどうやって生きていくのです」

「手に職を付けて職人にでもなるか、商売人になる」

「本気ですか」

「そんな世の中になったらという話だ。その時は海外に出て商品取引でもするか」




(18)魑魅魍魎の野郎たち


「今回の閣議でございますが」元親が口火を切った。

「その前に、委員の構成でござるが」

「これは織田殿、構成員に異議があると」

「将軍は元より、足利殿ではないか」

「将軍と言っても、足利幕府の将軍ではない。よって、義昭殿である必要はないと思うが」

「それなら、伊達殿である必要は無いはず」

「ではここで決を採りましょう」

「決議はどうしましょう」

「まず、推薦で名を上げてもらいましょう」

「伊達殿」

「義昭殿」

「上杉殿」

「ほかにはいませんか、自薦他薦を問いませんよ」

「織田殿はどうなされます」

「いや、私は良い」

「それなら私も辞退させていただきたい」景勝が言う。

「では、伊達殿、義昭殿で、採決します。先ず伊達殿が良いといわれる方」

「七名という事は、伊達殿で決定で宜しいですか」

「異議なし」大多数から声がした。

信長は、いやいや賛成した。家康もそれに従った。

「帝は公家委員で指名して頂いて、全参議委員で決定します。参議委員は公家は公家委員の推薦、武家は武家委員の推薦の上、帝の認可を頂き,着任することとします。」

「御所及び、周辺施設の警備に参議守備隊が、宮中内は公家参議院から宮中警備隊を組んでもらいます。人数は千名程度、その経費は我々の提出した財務費から支出します」

「各武家参議からの財務費で経営していきますが、半年の滞納で、参議権はく奪とします。悪意ある場合は強制領主交代もあります。」

「では次に、関東一向宗について、代表権を認めるかについて、評議します」

「一向宗は農民であって、卑しい身分の者が参議委員を認められるわけがない」

「関東百万の代表なら、認めない方が可笑しいのではないか」

「元々は北条だから、北条の血縁者を代表とするのはどうであろう」

「誰を代表とするかは一向宗の中で決めればよい事、我々がそこに口を出すのは良くないのではないか」

「では、誰を代表とするのか、委員を務める気はあるかを問う事としましょう」

「では本日決議決定した事柄については目録にして、各参議員に配布いたします。」

「本日の評議はこれまでといたします」


「織田殿は渋い顔をしていましたなあ」伊達政宗が言った。

「まあ、お仲間は徳川殿だけ、今の現状では会を牛耳ることは無理でございましょう」長宗我部元親が答えた。

「あのお人の性格では、手を拱いておられぬであろうな。次はどんな手を使うのか、楽しみですよ」大友宗麟が笑いながら言った。

「それは見えているが」

「ほう、それは」

「武家では味方を得られないとすると」

「公家ですか」

「そこを操ろうとするでしょうな」

「公家は身分をいうやつらですよ。毛利殿ならいざ知らず、織田殿では無理でしょう」

「そうでもないですよ。公家は見栄の生き物。金を積めば言う事を聞く者たち。そこから混ぜ繰って横で笑ってる。それを実行するのは明智。柴田は固すぎるし、羽柴は品が無い。明智しかいない。あの冷たい目の裏で、何を考えているのか」

「暗躍する忍者集団ですか」

「信長は忍者は嫌いですよ。好きなのは家康の方だろう。甲賀を抱えているし」

「怖い怖い。宗麟殿にはキリシタンが付いているから安心でござろうが」

「なんの、島津の団結には恐れ入るでござるですよ」

「案外、新し物好きの信長とは気が合うのでは」

「信長という人は神になりたいのですよ。今は新しい物が欲しいから良いですが、その内神を敵対視始めます。そういうお人ですよ」


「光秀、何かいい知恵はあるか」

「お市様の事ですが、上杉との縁談は立ち消えとなりましたので、九条 尚経様はどうでしょうか」

「またお市か」

「こちらに良い手ごまが有りませぬゆえ」

「それでうまくいくと」

「公家も一枚岩ではありませぬ。近衛の後は自分だと思っていることでしょう。それも出来るだけ近々に」

「公家を牛耳れるほどの者には見えなかったが」

「力で言えば姉小路、才能なら中御門」

「それでなぜ九条なのだ」

「力も才能も無いのに気位だけは高い」

「余りいいとは思えぬが」

「その負けず嫌いは、勝つためなら何でもするお人ですから」

「利用するだけ利用して捨てるにはちょうどいいか」

「近習の甘露寺親長と接近しております。親長も金の亡者でございます」

「上も上なら下も下か」

「公家から掌握して、武家も抑え込むという訳でございます」

「あい分かった。この件はお前に任せる」


「お市様、光秀にございます」

「入れ」

「大事な話が有りますゆえ、お子様たちは」

「子供たちをあちらの部屋に」

「はい分かりました。さあ姫様、あちらに行きましょうね」

「それで話とは」

「婚儀をお願いに参りました」

「茶々はまだ早かろう」

「姫ではありません。お市様でございます」

「年増のこの私の輿入れ先など無かろう。相手は誰じゃあ」

「九条 尚経様でございます」

「先方は何と」

「これからでございますれば」

「光秀にも苦労を掛けるのお」

「いえ、仕事でございますれば」

「浅井では年寄りにいじめられたが、公家はもっと悲惨であろうな」

「そんなことはさせませぬゆえ、ご安心を」

「ほう、光秀が、仲裁に公家の屋敷に来れると」

「それはできませんが、九条様には念を入れておきますゆえ」

「尚経様が親に逆らっても、私を守ってくれると、それを約束すると」

「こちらは協力をお願いする身なれば」

「こちらが下手故、何を言われても、殴られても蹴られても何をされても我慢せ世よ」

「そんな事は申しておりません」

「いっそ、光秀の姫を輿入れさせては」

「そんな事はできません。身分という物があります」

「そんな事は無かろう。そちの娘を養女にして送り出せば、若い娘の分、先方も喜ぶであろう」

「そんな事が出来るはずがありません。我儘を言われては困ります」

「さあさ、本音が出てきたな。まあいいさ。今回は、尚経様が気に入らなければ、本人を、その親が気に入らなければその親を殺してしまえばよいだけじゃ。私とて武家の娘、公家の者に後れは取らん」

「そんな無茶な」

「私が行って殺してくるか、お前の娘を行かせるかじゃ。どちらにしても、面白いことになるであろう。わしもいつまでも無垢ではない。あははは」


光秀は焦っていた。光秀とて公家の作法を多少知っている程度で、公家の伝手がある訳ではない。幕府ならまだしも、公家など使い捨ての役人に過ぎないと、軽く見ていたので、共同戦線を張れる公家などいない。とにかく金を積んで話をするしかない。

「近衛様は名家でござるよ。正親町天皇とも近いし、でも私とて遅れは取っておらん」

「そうでございましょう。金は私どもが用意しますので、お好きなように頑張って頂きたい」

「そう言えば、若い女を用意するそうだな。と言って、十や十二の子供はいらぬ。十七、八のピチピチノ娘が良いぞ」

「今いい娘を探しておりますゆえ、待っていてください」

「そう言えば、足軽頭の娘ではあるが、ねねという娘が可愛いそうな。それに競うは松というのもいると聞く。何なら二人共というのも面白いぞ」

「それは私も、半中外でござった」

「光秀殿はあまりやる気が無さそうでござるな。伊達殿は近衛殿に近づいておるが、長宗我部や毛利は一緒にやりたがっておる。まあ、色々と珍しい物を送られて困っておるくらいだ」


「力もないくせに、あれこれ欲しがって、十七、八のピチピチノ娘が、欲しい。俺が欲しいわ」どいつもこいつも、言いたい放題、わがまま放題。この国を良くしていこうと、誰も思っていない。しかしこのままでは、織田はジリ貧だ。徳川も、何時までも言いなりにはなるまい。


「信長様、お市様の件は断られました。もう少し若い娘が良いと」

「そうか、仕方あるまい。それでどうする。」

「ねねとまつを信長様の養女とし、手駒を増やします」

「ねねを九条と結婚させるか」

「どうしても公家に楔を打つ必要がございます」

「尚経を選んだ理由は」

「あのように我の強い物は一度捕まえれば、後は操りやすう御座いますれば」

「少し頭が弱く、我儘だしな。公家衆を程よく混ぜ繰ってもらうか」

「自分が優れていると思っているものは、操りやすう御座るゆえ」

「家康もじれておる。何か知恵はないか」

「直接動いても良くありませんが、」

「どうする」

「北陸を揺さぶりまする」

「ほう、して策は」

「お市様にここで動いて頂きます」

「またお市か」

「菊池武勝に、輿入れして頂きます」

「菊池とは」

「上杉を裏から操っているものでございます」

「景勝を操っているのは直江兼続であろう」

「いいえ、もともとこの連合も作ったのは武勝でございます。四国、中国、九州をまとめたのもあやつなれば」

「今の体制を考え、作ったのはあやつだというのか」

「景勝を神輿にして、これを実行したのでございます」

「しかし、景勝が一介の武将をそれ程信用するとは考えられぬが」

「柴田様が、北陸東征を失敗されました」

「考えてみれば、あれが躓きの始まりだ」

「その時、五百の農民を集めて、罠を作って、撃退したのが菊池武勝でございます」

「五百で三万をか」

「それが織田凋落の始まりでした」

「今川を倒し、美濃を倒略し、浅井朝倉に、武田に勝ったではないか」

「その後、一向宗に悩まされ、武田領を取れず、北条は一向宗に負け、織田はその後何もできませんでした」

「結局天下布武も一向宗に邪魔をされた」

「その後ろに、菊池がいました」

「菊池が、一向宗の後ろにか」

「家康殿が関東勢に負けた理由ですが、一向宗を馬鹿にしていたことと、その中に北陸兵が混ざっていたことです」

「そんな事があろうか」

「北条が負けたのも、外からではなく、内から戦になっています。あんなにも鮮やかに勝てたのは、城内に北陸の兵がいた証拠です。農民では無理です」

「そうであろうな、あれらには戦術も方策もない。只死にに行くだけだ」

「同じ手で織田も徳川もやられている」

「でどうするのだ」

「菊池武勝とお市様の婚儀、嫁に行かせて、手枷、足枷にします」

「分かった、この件はお前に任せておる。好きなように動いて構わぬ」




(19)戦々恐々、四面楚歌

「兼続様、お呼びでしょうか」

「信長から、鎖が届いたぞ」

「鎖ですか。別に要りませぬが」

「鎖を付けて、水に沈められるところなど、見ものだな」

「何を、景勝様。それで鎖とは誰でしょう」

「さすがだな。お市の方だ。」

「お市って、年増のこぶ付きの」

「何んという言いようだ。お市殿が可愛そうだぞ」

「では、景勝様か、兼続殿が貰ってください」

「いやわしは遠慮しておくが、兼続はどうだ」

「私に来た話ではないので」

「どうして私なのでしょう」

「最初に信長を躓かせたのはお主ではないか。その恨みであろう」

「この話は断れませんぞ。断れば、敵対宣言だ」

「良いではないか。お前嫁はいないし、許嫁の奈津姫は若い、大年増なら、嫉妬もすまい。案外仲良くやるかもしれぬ。あははは」

そうこうするうち、越中松倉城下菊池の役宅にお市と子供三人に女中が一人、やってきた。

武勝は上杉に行っていて、不在であったが、奈津と登米が来ていた。

「こちら菊池武勝様の役宅でしょうか」

「そうですが、どちら様でしょうか」

「織田の市と申します。菊池様に輿入れすることになりましたので、今後とも宜しくお願い申します」

「嫁って、私は聞いていないよ」

「上杉景勝様より、話が行っているはずですが」

「とにかく本人は留守だし、知らぬ者が住み着くのも困るから、、私も今日からここに住むからね」

「ところで貴方様はどなたでしょうか」

「私、私は武勝様の許嫁だよ。許嫁」

「それはそれは。仲良くやりましょうね」

「仲良くって、勝手に押しかけて来たくせに。で、その子らは」

「お気になさらず、連れ子でございますれば」

「いけしゃあしゃあと、子持かえ」

「でありますから、ご心配なく」

そこへ康胤が慌てて駆け込んできた。

「大変だ、大変だ」

「お兄様落ち着いて。何騒いでいるの」

「これが落ち着いていられるか。今書状が届いて、織田様から妹御が来られるから宜しく頼むと書いてあるとのことだ」

「そうですか」

「そうですかって、嫁入りに来るというんだぞ、これが落ち着いておられようか」

「で、どうするんですか」

「そりゃあ、出迎えの準備をしなくちゃあ」

「そうですか。それでは兄上どうぞ」

「おお、お前たちは奈津の用意した女中か。準備がいいの」

「違いますよ。お市様です」

「こんな子供が嫁なのか。で、どの子だ」

「違います。その子たちは連れ子で、本人はこの方」

「子の方って、どう見ても三十の婆だぞ。その上三人の子持ち。冗談にも過ぎるぞ」

「申し訳ありません。私がそのお市でございますれば、よろしくお願いいたします。」

「ええ、あなたが。でも、武勝は初婚だし、よりにもよって、奈津より年で、子持ちで」

「はい、その通りでございます」

「ちょっと来い」康胤は奈津の袖を引いて、角まで連れて行った。

「どうなっているんだ。何か聞いていないのか」

「私だって、初めて聞いたことだし」

「お前、許嫁だろう。何も言われてないのか」

「だから何も知らないって言ってるでしょう」

「あのう、もし」市が声を掛ける。

「家の中で話しませんか」

「それもそうだ、中へ入ろう」康胤が家に入っていった。後の者もついては行った。

「お茶を入れましょうか」

「だめだめ、あんたはまだこの家の者じゃないんだから。登米、お茶を入れてよ」

「かしこまりました」

「貴方たちはこっちの部屋にいて」

「はい分かりました。こちらに控えていますから」

「おい、帰ったぞ」武勝の声がした。

「お帰りなさい」奈津が迎えた。

「おお、奈津、来ていたか、康胤殿まで、」

「ちょうど良い所に帰ってこられた」

「いやそれどころではない。大変なことになった」と言って、奈津の飲みかけの茶を一息で飲んだ。

「織田より姫が来る。奈津も良く聞いてくれ」二人は武勝の前に座った。

「「織田から書状が届いて、市姫が輿入れに来るから良しなにと言ってきた。断れば連合にひびが入る。姫が城を出る前に止めなければ断れなくなる。取り急ぎ尾張に行って来る。」一息で言った。

「安心せよ、私の始まりはお前だ。お前に悪いようにはしない」

「失礼します。武勝さま、お邪魔しておりまする」隣の部屋から市が出てきた。

「お、これは客で会ったか。失礼いたした。奈津、どなただ」

「お初のお目に掛かります。織田の市でございます。宜しくお願い申します」

「お市殿か、奈津の伯母上であろうか」

「織田のお市様ですよ」

「そんな知り合いはおらんが」

「その書状のお市様」武勝は書状を見て、我に返った。

「お市さんて、織田信長のお市さん」

「そうだってさっきから言ってるでしょう」奈津が怒ったように言う。

「なぜあなたがここに。まだ返事を出していないが」

「返事が来れば断られるから、その前に行けと」

「信長様がそんなことを言われるようには思えぬが」

「今回の事は全て光秀の策でございます」

「康胤様、皆を早急に集めてください」

「どうするのだ」

「策には策です。いや策返しとでもいいますか」


(20)華やかな精鋭たち


「この目出度い日に合同で結婚式とはなんと目出度きこと」

「これで安心して隠居が出来る」

「わしらの若い頃は戦ばかりでござったが、最近は戦いが無くて、田畑も豊作ばかりじゃあ。有難い事じゃあ」

「おかげで兵糧の心配をしなくて済む」

「北陸連合のおかげじゃあ」

「何んと言っても統領に上杉がいる」

「攻め込もうなど思うやつはおらん」

「あの織田でさえ臆している。一度失敗して、それから来ておらん」

「若い者のやることは思いもつかん」

「これで連合の結びつきはさらに固くなる」

「もう年寄りの出番はないな」

「今日は有難うございました。代表してお礼申し上げます」と言って、八組の一同は深く礼をした。

「私たちは京の宮中の役人として参りますので、これからも父上たちには各領主として、御働きお願い申し上げます。次帰って来る時は近衛大将として従四位を拝命して帰ってまいりますので、宜しくお願い申し上げます」武勝は年寄りの皆の前で言った。

「従四位とは、大大名の官位ではないか」

「おお、我が家も出世したものだ」

「何とご先祖様に報告したものか」

「男冥利じゃ」

「わしらも息子が思いもよらん出世を、長生きしてこの目で見るのじゃあ」

「そうしてご先祖様におうた時、良い報告をしようぞ」


京都、宮中側、宮中管理者役宅に家族ともども引っ越しに来ている。真ん中の街道は宮中正門に続いている。正門には左右に二人ずつ衛兵が立っている。中の詰め所には四名の役人がいて、半日の交代となっている。

「これから我々はここに住んで、宮中で仕事をします。宮中に自在に入るために、位を頂きました。どなたが相手でも気後れなく対峙するために、位を高くしてありますから、安心して威張り散らしてください。奥様達も、高い位の奥様になりますから、大抵の者は頭を下げますから、最初が肝心ですから、京流とか公家流とか言われましたら、これからはこの新流が主流になりますから、覚えてくださいねって、言ってやるつもりでいてください。そうでないと、この田舎者が、何も知らん者がと言われますので、気を付けてくださいね」

「では、あまり広くはありませんが、役宅はご自由にお使いください」


畠山義綱は三木の雪姫と結婚して、付き添い女中の伊佐を連れて役宅に入る。布団とか、机とか、食事に必要な用品は揃っているが、細かな物は買い求める必要がある。

翌日市場に出かけると顔なじみが揃っていた。

「皆さんお揃いで」

「貴方もでしょう」

「私買い物初めてなの」

「分からないことは女中に聞くと良いわ」

「この辺の人を雇えばいいのよ。そうすれば、お店とか、値段とか分かるでしょう」

「そうよね、そうしましょう」

「それで、何買うの」

「分かんない」

「分からないで来たの。見て回って欲しいものがあったら買おうかなって」

「お嬢様はホント困るわね」

「皆さんはどうしてるの」

「大抵は、女中任せよ」

「じゃあ、内もそうしよう」


「今日、買い物に行ったら皆さんに会ったわ」畠山雪姫が義綱に言った。

「ほう、何を買ったんだい」

「団子を食べて、焼き握りを食べて、鯵の干物を焼いて食べて、そうそう、苺をもらたわ」

「どれどれ」

「おいしそうだったから、伊佐と二人で食べたわ」

「食べてばっかりだな」

「そんなことないわ、口紅と、頬紅と、黛を買ったもの」

「何か家の物を買いに行ったのじゃないの」

「家に必要な物ってわからないもの」

「そりゃあそうだ。家の事は女中任せだから、買い物も女中に任せた方が良いか」

「みんなそう言ってた。女中任せの方が無駄がないって」

「まあ、管理が出来る女中を雇った方が良いだろうな」

「ごめん下さい」

「お館様、奈津姫様と綾姫様が来られました」

「おお、通せ。どうせ、どこの店で買ったらいいか分からんとか、化粧品は何を使っているかとか、聞きに来たんだろう」

「雪さん、どう、落ち着いた」

「まだまだ足りない物ばっかりよ」

「お兄様は良いわね、何もしなくてよくて」

「そんな事は無い。役所で、役人の人数とか、賃金の話とか、班長は誰が良いとか、新任の長官だから、忙しいのだ。何んと言っても従四位だからな」

「何よ威張っちゃって。ここで威張っても無駄ですからね」

「何だ、文句を言うために来たのか」

「そうじゃないの。私たちこの京では新人だから、公家さんたちに馬鹿にされると思うの。それで、奥方同士で団結して、一人の問題でも、皆で解決に動くの。数は力というでしょう」

「長官奥方の会とか、従四長妻連盟とか」

「従四長妻連盟が良いわ。何かあったらみんなで押し掛けるの」

「どうせなら、近衛紅袴隊とかまで作って、派手にやりましょう」

「みんなで集まって決めましょう。場所はここでいいわね。蕗、伊佐、登米、手分けして連絡してちょうだい」

「何、大事な話って」伊都姫がやってきた。

「まあ、早いわね」

「いや、暇してたから。それに隣だし」

「ごめん下さい」

「早速集まったわね。みんな揃っている」

「皆いるわよ。それでなあに、大事な要件って」

「従四長妻連盟を作って公家に対抗しようって言うの」

「それに、近衛紅袴隊を作って皆を守らせる」

「真っ赤な袴に、真っ赤な鎧に、薙刀を持たせるの。家紋の代わりに四長って書いて、目立つわよ。早速募集しよう。近くに寝泊まりできる場所を探さなきゃあね」

「一日、十五日には公家さんの歌会に習って、隊も一緒に宴を開くの。梅とか、桜とか、紅葉の季節は花見会とかもやりましょう」

「衣装を頼まなくちゃあ、間に合わないわ」

「私たちの制服はどうします」

「紅袴隊なんだから、真っ赤な羽織袴というのはどう」

「早速立て看板を立てて、随時面接ね」

「面接の場所はどうする。」

「ここでいいんじゃない。」

「じゃあ決まりね」


「はい、来られた順に並んでください」

「最初の方から、面接します。貴方のお名前と、志望理由と特技を言ってください」

「合格した方は隣りの部屋で、お握りを食べながら待っているように」

「本日の合格者の方は制服と前金をもらったら今日は終了です。明日は制服に着かえて出席してください。では解散」

「隊列とか、行進とか練習しないと無理かもよ」

「お宅のご主人、宮中警護府長官でしょう。教官を貸してくれないかしら」

「あなた、軍事教官を借りられないかしら」

「おお良いぞ、隊から寄越してやろう」

「有難うございます。頼れる旦那様で良かった」

「惚気るんじゃないの。こちらの方が照れるわ」

「いっその事、普段は笛とか、太鼓とかで、応援する隊はどうかな」

「街を安全確認の行進するとか」

「そんな恥ずかしい事」

「いや、いいかもしれない。やろう」


「整列。今日からあなた達に軍事教育を受けて頂きます。教官に、宮中警護府の教官を招いての教育となりますので、しっかりと受けてください」

「では整列から、二列横隊、気を付け」姿勢の直していく。

「なおれ」

「右向け右」「左向け左」

「前へ」「止まれ」

「構え」「なおれ」

この繰り返しである。

「これを行進訓練という。これが出来ないと他の訓練が出来ない。では他の訓練は何をするのか。先ずは薙刀の訓練、その次が体力作り。これを隊列を崩さないようにやる。これを軍事訓練と言います」若い娘ばっかりで、表面は厳しい教官だが、内面はニヤニヤしながら、たまにはお尻に触ったり、肩に手を置いたりしている。悪い奴だが、人間的には良い奴だ。教習が終われば、長官官舎を一周する。これを朝昼夕に行う。それ以外は個人的に訓練を行う。体力を養うため、食事は多めだ。野菜は自分たちで育てる。それでも、衣食住の心配がないだけ幸福だ。

「そろそろ、太鼓、金、笛の訓練をさせたい」綾姫が言い出した。これも教える者がいる。聞いて回ると、公家に教えられる者がいるという事だ。朝教練の後、雅楽教室を行う事になった。その者が言うには、

「教える者と教えられる者は一体にならなければならない。一番の早道は一緒に食事をすることらしい。という事で、

「起床、朝教練、食事、雅楽、食事、午後教練、自由時間、夕教練、風呂食事、自由時間、就寝」

結構忙しいが、楽器の好きな者も結構いて、楽しくやっている。若い娘が楽隊を組んで、、市中見回り行進をしている姿は周囲の評判も良い。途中の広場には見学者まで集まり始め、一目娘の雄姿を見たいと来ている身内もいて、賑やかだ。中にはうちの娘も隊に入れたいと申し込む親も結構いるので、随時面接をして、武芸に秀でたもの、雅楽に優れた者等、増えていき、全隊員数は四十名ほどに増えた。隊士館も一杯で、大きく建て替えることとなった。そこで、読み書き算盤を教え、ついには和歌の読み方、作り方の作法なども教えることとな地、通常の宴会は、和歌の読み会と雅楽の発表会となり、公家の歌会より派手になった。


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