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第四章 団結と反撃

13)遠地同盟


「毛利殿の方はどうです。北九州に出られて、争っておられるようですが、」

「内としては門司に一つ城が有れば良いのです」

「中国を攻めたりさせないぞと」

「そうです、楔を打ち込めれば」

「毛利と大友。どちらが勝っても良い事は無いと思いますが」

「毛利が勝てば、織田が動きます」

「毛利は織田に勝てませんか」

「毛利は武田です」

「どういう意味でしょうか」

「はっきり言って、武田が強かったのは信玄様がいたから。」

「毛利が強かったのは元就様がいたから」

「そうです。貴方様は元就様に勝てません」

「元就様の遺言があります」

「どのような」

「強敵とは争うな。領地を半分やっても生き残れと」

「どうです。九州三国と手を取られては」

「薩摩、大友、龍造寺は手を組まぬと思いますが」

「九州三国、四国、中国が手を組めば織田とて怖くはありません。手を組むなら今しかありません。織田にどれか一つでも取られたら、全て取られます。織田の強さはそれ程なのです」

「織田とはそれ程の者なのか」

「毛利が生き残るためには、九州から手を引き、九州三国と手を組むよう動くことです。」

「家臣を説得させねばならぬが」

「今のままだと、九州は勢いから見て薩摩が取ると思われます。そうなれば、四国を明智、中国を羽柴、九州を柴田が攻めます。後攻めを徳川。中央を信長が抑える」

「天下は信長が取ると」

「そうさせないためには、天下を合議制にする」

「合議制とは」

「天皇を頭に、九州三国に、四国、中国、北陸、東北に、尾張と東海を加えた体制を天下とする」

「将軍はどうなさる」

「回り番、または推薦とするのはどうでしょう」

「上杉殿ではないのか」

「景勝殿は、そう言うのを嫌がるんですよ。全く嘆かわしい」

「ではあなたは誰を推挙なさるのか」

「性格的には長宗我部元親殿が宜しいかと」

「で、任期は」

「五年でどうでしょう」

「他の者は」

「参議というのは」

「つまり、参議から五年の任期で、将軍を推挙すると」

「大名でも、重役が多勢押した者が藩主となる、みたいなものですよ」

「分かりました。一存で即答は致しかねますが、必ずそのように、一族を説得します」

「では私はこれで」

「これからどうなさる」

「九州見物でも」

「なる程、分かり申した。気を付けて」


武勝は島津、龍造寺、大友に上杉景勝の名で便りを出していた。内容は日向の国に集合すること。

集まったのは島津家代表として義弘、大友代表の立花道雪、と本人の龍造寺隆信である。

「ここにおられる方は各々、各家全権代表と思って宜しいか」武勝は重々しく言った。

「依存はござらん」

「では、現在九州は三者によって血で血を洗う争いをされておる。勢いでは薩摩が、智略では立花殿のいる大友が、当主では隆信殿が。されど誰かが誰かを倒した時、残りの人方が二者を倒すだろうが、そこを狙っている者がいる。それの分からぬお三方ではなかろうと思うが、いかがかな。」

「しかし、我らには長年の恨みがあり、今更手を結ぶなど、でき申さん」

「と、織田は思っている。だからこそ値打ちがある。そう思われませぬか」

「死んでいった家臣に顔向けが出来ぬ」

「その家臣の魂の帰る場所が無くなるのですぞ」

「ではどうすると」

「三者で連合を組むのです」

「そのようなこと」

「三者が手を組めば織田とて容易に手は出せません。毛利とて同じです」

「しかしこいつらの下に附くなど」

「下に附くことはありません。対等で、この地の代表となるのです」

「では、誰の下にも着かぬのか」

「天皇を頭に、各地の代表が皆の推挙を得て、将軍になり、国を治めます」

「わしらが将軍になるのか」

「九州三国に、四国、中国、北陸、東北に、尾張と東海を加えた九か国とし、五年ごとに将軍は交代します」

「政務の合議には貴族も参加させます」

「あいつらを参加させると、混ぜ繰り返されて。あいつらは自分の事しか考えていない、身勝手な奴らですよ」

「我々も民から見ると、相当身勝手な奴らですよ。稲刈り時に戦をしたり、兵が足りないと若い奴らを徴兵したり」

「それは、国を守るためで」

「村の民からしたら、当主が誰になろうと、年貢を徴収するだけの者。誰に代わっても同じですよ」

「そんな事は無い。我々は民を守って戦っている」

「一向宗の村を見たことがありますか」

「いやないです。この辺にはいないですから」

「彼らは自分で村を守ります。死んでも死んでも来ます。自分が死ぬことが、家族の安全につながりますから」

「その村人は強いですか」

「弱いですよ。だって、鍬しか持ったことが無いですから」

「弱いのに戦うのですか」

「だから信長でさえ負ける」

「信長が負けたのですか」

「もう十回くらい負けてますよ」

「そんなに強いのですか」

「だから弱いですよ。でも奴らを相手にするなら、皆殺しにして、村を焼き払うしかない」

「そんな無慈悲な」

「だから信長も何回も負けた」

「私にはそんな惨いことは出来ません」

「普通ならできないでしょうな。そんな世を終わらせるための新しい世界を作ろうというのです。貴方も参加しませんか」

「部下と相談して、あなたたちと共に進めるよう、説得します」

「共に頑張りましょう」




(14)新しい世界に向かって


「兼続様、九州より帰ってきました」

「え、九州に行ってたの。毛利に行ってたのじゃないの」

「ええ、四国、中国、九州と回ってきました。」

「で、どうだった」

「感触は良かったですよ。織田を恐れずに済みますから」

「伊達も話に乗ってきましたよ」

「後は、天皇と公家ですね。私じゃあ、公家も天皇もあってくれないでしょうからね」

「毛利殿に頼めばよかったのに」

「それそれ、足利義昭様がいらっしゃいましたよ」

「義昭って、将軍の」

「はい、相変わらず手紙をあちこちに書いていらっしゃるそうですよ」

「織田包囲網でしょう。内にも来てますよ」

「新体制になったらそれも無駄なのに」

「前が見えないお人だから。信長に将軍にしてもらって恩も感じないお人」

「で、捨てられる。可哀そうなお人」

「性格は死んでも治らないから」

「で、新体制の方は」

「基本的にはみんな賛成だが」

「先ず公家方は」

「自分が、摂政か、関白になれる話だと思っている」

「関白ですか」

「天皇を頭に置いてはいるが、実権は自分がという野望に燃えている」

「大名連中と同じですか」

「今後、暗殺も辞さないと」

「位は公家の方が高いですから、この際何する者かと」

「武力は武士が上なのに」

「上手くいけば、藤原の栄華の再来かと」

「力のない栄華なぞ、すぐに壊れる」

「大名など幾らでも操れると思っている」

「まあ、会って、具体的なことを話さねば前に進みません」

「武勝殿の選任の者に連絡を取って話し合う事としましょう」


「近衛様、この人選で如何であろう」

「まあ、適任で良かろうぞ。」

「給金でござるが、参議院には百貫文、衆議長には百五十貫文、太政大臣に

二百貫文、陛下には三百貫文を用意します」

「百貫文」

「百貫文は安いかもしれませんが、大名に負担させます。役職に就ける名誉は安くはないでしょう」

「まあ、銭金の問題ではないからな」

「皆様お役、お引き受けくださいますか」

「今は何もないから喜んで引き受けてくれるだろう。一部の者を除けばだが」

「難しい方は、他の者に変更されても結構です。それと、合議は合議館で行いますので、その間はその近辺に建てます議員宿舎に住んでいただきます」

「住む所が決まっているのか。好きな所に住めないのか。今の屋敷はどうなるんだ」

「合議以外の時はそちらに住まれたら宜しいかと」


「聞いての通りだ。賛成の者は残ってくれ。やりたくないのに無理にという話ではない。これからのこの国の在り方を陛下の元に、大名の代表と決めていくわけだ」

「私はやりたい。この国の政治に関われるのは素晴らしい」

「お前は今日の飯にも困っている貧乏人だからな」

「お前の家だって、雨漏りはする、障子、襖は破れている」

「夜逃げするところだと聞いたぞ」

「嫁が子を連れて逃げたそうだ」

「食べる物が無いと家人が逃げたそうだが」

「静かに静かに。では、自分の住む官舎を割り振るから、帰りに確認してくれ」

「住むとするといつからになるんだ」

「今日からでも良いそうですよ」

「それは有り難い。さっそく家族を連れてこよう」

「ちょっとお待ちを。」

「何だ、今良いと言ったぞ」

「そうではありません。各官舎には牛車が付いておりますので、横の御簾に自分の家紋を付けて乗ってください」

「牛車に御者まで付いているらしいぞ。早速行ってみよう」

「焦らないで、お待ちを。今から給金を配りますから、それを受け取った方は、お役を引き受けたことになりますので宜しくお願いいたします」


「おい、帰ったぞ」

「お車はどうされました。お客様ですか」

「そうではない、引っ越しだ」

「またですか、これ以上は無理でございます。実家に帰らせていただきます」

「何を馬鹿なことを言うておる。早く乗れ、新しい役宅に行くぞ」

「役宅とは何ですか」


「官舎だ。評定衆 参議員というお役に就いた」

「参議員とは、聞いたこともないですが」

「そりゃあそうだ。新しくできた役職だからな。ここだ、ここだ」

「なんとりっぱなお屋敷ではありませんか」

「そりゃあそうだ。国の未来を創る役だからな」

「そんなご立派なお役を」

「お給金ももらえることになった。大した事は無いが、年に、銭百貫文を貰えるから、食うに困る事は無いだろう」

「有難い事です。御上に感謝します」

「まあ、ここにいつまでもいる訳にもいくまい。中へ入ろう」

二人は中に入っていくと、侍女や女中が働いていた。

「お帰りなさいまし。お食事の用意が出来ております、旦那様」

「君たちは」

「この官舎付きの侍女たちでございます。これから、宜しくお願いいたします」

「おおそうか、ご苦労。先ずは飯にしよう。万事はその後だ」

「今月の給金を頂いてきた。これはお前に預けておく」

「旦那様、百貫文御座いますが」

「もしかするとわしの勘違いで、月に百貫文なのかもしれない。これでそなたの服も新しくできるぞ」

「やっと公家らしい生活が出来ます」

「おお、お前にもこれまで苦労を掛けたが、破れ障子とはお別れだ。やっと人並みの生活が出来る。お前にも贅沢をさせてやろうぞ」

「されど、なぜあなたにこのお役目が」

「有る者が新しい世を作るのに、私が必要だと、指名されたのだ」

「旦那様の才能が認められたのでございますね。有難い事です」

「明日は新しい参議院が全員集まって、顔見せを行うとのこと。仕事の詳しい事はそれからだな」



(15)平和な世は我らの手に

国事議事館に公家、武家参議が集合していた。

「今回、上杉景勝様よりご提案の新体制を発動いたします」兼続が皆の前に立って言った。

「体制としては陛下を上に頂き、ここで合議した事項を陛下に認可頂き、政を実行していくこととします。体制としては公家と武家の代表による参議による論議の上、賛否判定の上、実行します。公家参議は太政大臣を先頭に、評定衆議長の元に公家衆の意見を取りまとめて頂きます。武家の方も同じように、武家参議は軍政将軍を先頭に、評定衆議長の下に大名衆の意見を取りまとめて、最後に両者で衆議を行い、多数決により裁定決議します。それを陛下に認可頂くという形です。但し役職については公家参議は公家衆で、大名参議は大名で決めて頂き、陛下に任命頂くこととします。今回は時間もない事からこちらで指名させていただきました。重責ではございますが近衛様、伊達様、宜しくお願いいたします。では今回は顔合わせという事で、これまででございますが、次回の合議項目を提示できますよう、準備の上、参加して頂けますようお願いいたします。では今回はこれで散会といたします。お疲れ様でございました」

「武勝君、どうだねこれから」といって、政宗は武勝を酒に誘った。

「伊達様のお誘いは大変うれしいですが、お仕事は宜しいのですか」

「良い良い、細かい事は景綱に任せておる。それより将軍義昭はどうするのじゃ」

「どうもしません。あの方はまだ天下に未練がおありの様で、新体制に入れることはできません」

「捨ておくという事か」

「関わって頂く訳にはいきませぬゆえ。こうなっては大したこともできませんゆえ、好きに生きて頂くという事で」

「しかし、黙って言う事を聞くかな」

「頼りの毛利殿も手を貸して、家を潰したりはしないと思いますから」

「まあ、様子を見るとしようか」

「わしも念願の将軍だし、大物ぶって見せようか」

「伊達様は将軍になりたかったのですか」

「武将はみんなそうであろう」

「上杉景勝様は嫌がりますよ」

「あの人は特別だ」

「実はここだけの話、初代は景勝様にお願いしたところ、、そんな面倒なことをするくらいなら隠居すると」

「そんな事になったら、困るであろう」

「まだ世が収まっていないのに、景勝様様がいなくなってら収まりませんよ。北陸連合の棟梁なんですよ。全く聞かん坊なんだから」

「それでどうしたのだ」

「その場に座っているだけ。細かい事、面倒なことは兼続様がすることになりました。」

「そうか。わしもそうすれば良かった」

「何をおっしゃっておられるのですか」

「謙信殿も面倒ごとには、隠居すると言われたと聞く。家臣を脅かすにはいい手だ」

「将軍の間は隠居はなしですから」

「お前、片倉よりうるさいのう」

「片倉景綱殿の苦労が分かります」

「阿奴は怖い顔して睨んでいるだけだぞ。阿奴は何もしておらん」

「そういう方は裏で準備や根回しで、忙しく動いているものです」

「お前は阿奴を知らぬであろう」

「知らないでもわかります。ホントに上に立つ人は、何もしないで、命令するだけなんですから。下の者の苦労を知って欲しいものです」

「何か分からんが、すまん。謝るから、機嫌を直せ」

「良いですよ、分かって頂けなくても。自分の事をしっかりやって頂ければ」

「分かった、分かった。ホント、景勝殿はこんな奴、どうやって使っているのだ」

「何ですかあ。文句があるならはっきり言ってください」

「なんでもない。お前も忙しいだろう。早く帰れ」

「言われなくても帰りますよ」よろよろしながら帰って行った。

「景綱、お前は良い奴だな。俺の部下がお前で良かった」

当の景綱は何のことか分からないで、首を傾げていた。



(16)裏の裏はやっぱり裏


「お主は菊池武勝だな。命は貰った」十人程の者が武勝を取り囲んだ。

「お主ら、誰の手先だ」

「死んでいくお前が知る必要はない」

「そうか、お主の恨みではないのだな。おい、正之助、取り囲んで、一人も逃がすなよ。」参議詰所守備隊の高木正之助だ。

「心得ました。それ。」物陰からぞろぞろと出てきた百名程の兵が暗殺者を二重に取り囲み、捕えて行った。

「誰の手の者か、吐かせよ。殺すなよ。生かして置けば切り札となろう」

「心得ました」

「さあ、誰の名前が出て来るか、楽しみだな」武勝はニヤリとして言った。

引っ立てられた暗殺者たちは、守備隊管理館に連行され、これから尋問される。数が多いと自白する者が必ず出て来る。それを糸口に広げていくのだ。暗殺を依頼する者は、自分の関係者にやらせれば、捕まった時、自分の事がばれるので、間をおいて、無関係の者に依頼する。暗殺者も自分たちが使い捨てにされないよう、依頼者の身分を調査する。優秀であるほど、暗殺の成功率は上がるが、こちらの身分を探し当てる確率も上がる。と言って、暗殺を依頼するのだ、誰でもいいという訳にはいかない。その辺の兼ね合いが難しい。

「まあ、想像はつくだけど」

「相手が誰だかわかっているのですか」

「馬鹿で、小者だし、会ってみたら本当に馬鹿だったし」

「馬鹿、馬鹿って殺しの依頼者でしょう」

「そうなんだけど、本当に馬鹿なんだよ。信じられない馬の糞」

「隊長、奴等吐きました」

「裏は取ったか」

「全員同じです」

「全員って、みんな吐いたのか」

「はい、それで相手ですが」

「おお、誰だ」

「佐々木栄之進です。」

「知らんな。聞いたことが無い名前だ」

「聞いたことないか」武勝はニヤリとした。

「足利義昭の手先だ」

「という事は義昭が暗殺の犯人」

「そうだよ、こんなバカなことするのはあの人以外考えられない」

「馬鹿馬鹿って将軍様の事だったのですか」

「そうそう、馬鹿で競争したら断トツの一番だ。ただあの人だけでは出来ない。その裏にいる者がいる。」

「まだ裏にいる者って」

「こんな陰険な人はあの人しかいない」

「誰なんですか」

「殺し屋たちがそこまで掴んでいるとよいがな」と言って笑った。



「誰なんですか。放っておいて良いんですか」

「大丈夫だよ。本気じゃないんだから。義昭様は本気だろうけど。それよりその家臣の方が危ないかもしれない。何しろ将軍に狂信的だから」

「だから、放っておけないでしょう」

「まあ、繫がりは見えないようにしているでしょう。証拠も出ないでしょうし」


「義昭様、宜しいでしょうか」

「栄之進か、入れ」

「義昭様、計画が失敗しました」

「何んと失敗したと。だから念入りに計画を立てよと申したに。」

「もしかしたら計画が漏れていたのでは」

「漏れるも何も、誰にも言っておらぬぞ」

「この屋敷の使用人は信用できますか」

「屋敷の使用人なぞ、政治のことなど分からぬだろう」

「しかし」

「用事を言いつけても碌な返事も出来ぬ、馬鹿ばかりだ。それより、わしの事が露見したりはせぬだろうな」

「それは大丈夫でござります。私の事は何も知らない者たちですから。私が分からないのに、義昭様とのつながりがばれる事はありません。怪しまれぬよう、義昭様は普段通りでお願いいたします」

「それもそうだな。普段どおりといっても、普段も何もしていないが。それにしても公家たちもわしに世話になっておきながら、新体制とかで、役職をもらったら、ホイホイ付いていきおって」

「将軍職には伊達政宗殿に決まったそうですが」

「将軍職がわし以外に務まる者がおるか。伊達の小僧は失敗するに決まっておる」

「織田殿を押すものもいたと聞きましたが」

「あの田舎者に何が出来る」

「公家方は近衛種家様とのこと」

「種家も何もできぬ、陛下の腰ぎんちゃくではないか」

「失敗は目に見えておりますな」

「まあ、わしに相談していたら、もう少しは益しな陣容になったであろうが」

「失敗したら笑ってやりましょうぞ」


「何、失敗したのか」

「見抜かれていたようで、逆に罠にはめられ、全員捕まったようです」

「我々の事は見抜かれておらぬか」

「そこまでは分かっておらぬようです。義昭様を尋問すれば、すぐ吐きましょうが、相手もそこまではしないと思います」

「こうも早急に体制が決まってしまっては、我々もいかんともしがたく、止められませんでした」

「いや、一向宗に関わりすぎた、時間を取られすぎたのだ」

「石山本願寺はすごかったですからなあ」

「それに長島」

「伊勢長島は尾張に近いし、下手すると地元から崩れる」

「誰が行って、皆殺しにしても、また来る。どうにもならないですよ」

「最後には信長様が行ってる」

「何にしろ、上杉殿はすごい。謙信殿もすごいが、こんな体制を考えたやつはすごいとしか言いようがない」

「この世で一番頭の良いのは光秀様だと思っておりますが」

「いや、わしも夢にも思わなかった。だが織田家の一番の欠点は誰も信長様に意見が言えないことだ」

「信長様がこうしたいというと、秀吉はそれは良いという。柴田様は昔のすねの傷がある故、何も言わない。他の者も叱られるのを恐れて口を閉じる。専制君主なのだ」

「でもこうなると、光秀様も、織田に付くより、義昭様についていた方が良かったのでは」

「新体制を考えた者も義昭様を外したようだが、小さい子供の我儘を聞いているようで、、大事な判断はできないのに、違う意見は聞く耳を持っていない。潰してしまうだろう」

「それにしても菊池武勝という男、椎名康胤のの家来とのこと。阿奴の身分も過去も分かりません。どういう男なのでしょう」

「織田には羽柴秀吉という家来がいる。要領が良く、信長のうまく取り入って、大将にまでなった。元は百姓だ。似たような奴だろう」

「光秀様の嫌いな性格ですな」

「ああ、大嫌いだ。おべっかで取り入り、軒を貸すと家を取られそうなやつだ」

どうも、光秀様の前にはそういう男が立ちはだかる運命なのですかな」

「そんな小者に負けるはずはないがな」



「暗殺は失敗の上、一網打尽か。まあそう簡単には行かないだろう。相手も用心していようからな」

「裏にこちらがいるとばれる事は無いかと」

「いや、依頼者が義昭なら、裏にいるのは私だと分かるだろう。それ位でないと暗殺は成功している」

「では何か仕掛けて来るかと」

「いや、何もないだろう。薄々知っているぞと匂わせれば目的は果たせる」

「どういうことでしょう」

「次、何をするか見ておるぞと言われれば、下手なことはできない。つまり、これからの動きが制約される」

「流石は、上杉の手の者」

「そうではない。景勝など大した事は無い。切れ者は菊池武勝だ」

「昨年、勝家が北陸征伐に失敗した。」

「あれは運悪く、豪雨で道が崩れ、目的地まで行けなかったと聞いております」

「そうではない。椎名を攻めるため大軍を率いて向かったが、奴が百姓の次男、三男を率いて、奈津姫隊とやらで罠を作って撃退した。それをやったのが奴だ。それが真実だ」

「そんな話聞いておりませんぞ」

「まだ続きがある。柴田が引き上げた後、すぐさま、周りの大名を取り込み、潰れかけた武田の半分を手に入れ、それを土産に上杉の子分になりたいと申し出た。上杉は棚ぼたで引き受けた。そうすると徳川が東、北に出られぬように、一向宗と手を組み関八州を一向宗の国にした。その上,奥州、四国、中国、九州と手を組んだ後、我らに声を掛けてきた」

「裏でそんなことが」

「わしも話を聞いた時には信じられなかったが、堺の商人の情報に間違いはない」

「しかし、皆、腹に一物持ち。良く承諾されましたなあ」

「そこにわしが利用された」

「殿が関係するのですか」

「わしはこれまで、家臣共が推した弟を殺し、濃姫の実家を乗っ取り、市の嫁ぎ先の浅井を潰した。比叡山を焼き討ちにして、一向宗を焼き殺した」

「それは戦ゆえ」

「手をつないでも油断できないであろう。それに比べて、上杉は信用がある。何せ謙信かいた所だ。どうせ手を組むなら上杉の方が良かろう」

「まあ、そうでしょうなあ」



「これは宗久殿、良くいらっしゃった。まあ、こちらにどうぞ」

「利休殿もお元気そうで」

「しかし、静かになりましたなあ」

「新制度とかが始まってから、トンと戦が無くなって、鉄砲も刀も売れませんなあ」

「鍛冶屋はんも刀の代わりに鍬を打ってますからなあ」

「飯を食うためには仕方おへんなあ」

「しかしお宅はいらなくなった鉄砲、刀をマニラ、マカオ、マラッカと輸出していると聞きましたが」

「こちら製は性能がいいですから」

「何がどうなってもあなた様は儲けておられる」

「堺の商人はそうでなくては見捨てられます」

「しかし、戦が無くなったと言われるが、すぐ始まるという方と、もう戦は無いという方がおられますが」

「起こすとすれば、織田様でしょうね」

「天下を狙えると思ったら、新体制が始まって、動きが取れない」

「一国が他を攻めれば、回りから、一斉に攻められる」

「その為には連合を組んで動かなければ潰される」

「多数を取れれば、戦をしなくても、将軍でしょう」

「まあ、戦をしないと生きていけない方もいるでしょうから」

「迷惑な方ですねえ」

「一番手が織田様」

「やはり織田様ですか。そうなると余計動けないでしょうね」

「そんな見方をされると、警戒されますから、窮屈ではありますが、我慢できますかねえ」

「商人の我々はどちらに動いても儲かるように準備しますが」

「貴方が裏で動いているのでは」

「そんな事はしませんよ。あの人たちは単純ですから、前もって察しが付くだけですよ」

「まあ、平和が一番ですよ、平和が」二人は大笑いしていた。



「これ種家、物騒なことがあったと聞くが」

「はい、陛下」

「その割に皆、静かであるな」

「暗殺の犯人は、失敗の上、全員捕まったそうです」

「犯人は近まったの。面白くないのう」

「陛下、武勝殿が殺されていたら、この平和も崩れたやも知れません。」

「景勝ならともかく、下っ端の一人や二人、殺されても変化は無かろう」

「いや、その小者が、北陸連合を作り、上杉を担ぎ、武田、北条を成敗し、四国、中国、九州、奥州を丸めこんで連合を組んだそうですよ」

「世はあった事は無いが、つまり、そやつが今回の事を企んだというのか」

「そうでございます」

「では、世の恩人ではないか。一度顔を見てみたいが」

「陛下に会える身分ではないので、無理でございます」

「で、先程の話に戻るが、陰の依頼者は誰だと思う」

「信長でしょう」

「なぜそう言い切れるのだ」

「信長は将軍になりたかった」

「皆の支持を得てなれば良かろう」

「天下布武でございます」

「どういう意味だ」

「室町の将軍ではなく、天皇陛下を下に、または失くしてしまう天下人でございます」

「わしに死ねと」

「死ねというより、天皇制をなくして、自分が帝王または皇帝になるつもりでございます」

「地獄に落ちようぞ」

「神も仏も地獄も極楽も全部坊主の作りごとだと申しております」

「もう、狂人としか思えぬ」

「大戯けですから」


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