アーサー王子の相談
「今聞くわ。ジョセフ人払いを」
2人きりになる。もちろん護衛はいるけど、大きい声じゃないと聞こえない距離にいてくれる。
「アーサー様、これで話してくださいますか?」
「うん。実は……」
話を聞いていて、次第に私の表情が険しくなるのが自分でもわかった。
内容はこうだった。
今のマリー王妃様は実の母親では無く、後妻らしい。
今までも時々あったのだが、気づくとベッドに添い寝をしていたとか。
その時は、「可愛い息子ができて幸せなの。時々一緒に寝させて?」
と言われ、そんなものかと気にもしなかったらしい。
それでも、最近では血は繋がっていないからと断っていたのだが、
婚約者候補選びにこうやって遠出をすることになると、王様を言いくるめ、自分だけがついて来れるようにした。
そして、何かにつけて2人きりになろうとする。
今朝も支度をしている最中に、着替えを手伝おうとしたので慌てて部屋から追い出し、1人で着替えて出てきたから約束の時間より早くホールにいたと言った。
そうか……、これが違和感の正体だったのね。
「もし、それが邪な気持ちからの行動なら……虐待だわ」
「触るだけだからね……。ただ、それがすごく気持ち悪いんだ。僕の気のせいと言われたらそれまでだし」
「一度、ちゃんと言ってみた? 血は繋がって無いから、こういうことはやめてほしいって」
「うん、言ったよ? でも、母親が触るのは当たり前でしょ?って聞いてくれない」
「ん〜相手が嫌がるのに構わず触ってくるって時点でアウトだけど。王妃様だし、どうしましょうね」
「僕の部屋に平気に出入りしてくるから、どうしたらいいのか。……昨日初めてあった君にこんなこと相談して、ごめんね」
「ううん。話してくれてよかったわ。それに、この旅行に来てから酷くなったのでしょ? 誰にも相談できない状況だもの。勇気を出して言ってくれてよかったわ。……触るって、ベタベタ触る感じ?」
「うん、もう、気持ち悪いぐらいに。……そ、それに股間まで……」
はい、アウトです。有罪です。驚き過ぎて声が漏れてしまったわ。
「……そうだわ! 今日からお兄様の部屋に泊まるといいかも!」
「あ、そうなると君の兄上にも話さないといけないけど……恥晒しな事と思われるかな?」
「いいえ。恥なのは子供を虐待している大人よ。あなたは胸を張っていていいのよ」
私はまっすぐにアーサー様の目を見て言った。すると、アーサー様のきれいな澄んだ目から涙がポロリとこぼれた。
「うん、本当はどうしようか困っていて……でも、誰にも話せなくて……君ならちゃんと聞いてくれる気がしたんだ。ありがとう」
かわいそうに、心細かったに違いないわ。まだ8歳で見知らぬ土地ですもの。大丈夫よ、聞いたからには力になるわ! だてに日本にいた頃の知識があるわけじゃぁ無いって所を見せてあげようじゃないの!
「あと、提案なんだけど……証拠がほしいわ。」
「証拠?どうやったらいいの?」
「本当は映像がほしいわね。触られている決定的なところ」
「うぅ……。2人きりになるって事?できるけど、どうやって映像なんて記録できるの?」
「ふふふ、あるのよ。兄が魔法で作ってくれたの。魔石に映像を記録できるの」
「わかった。僕やるよ。き、気持ち悪いけど……」
「映像が撮れさえすれば、兄の部屋に泊まって大丈夫だから」
「うん……やってみる」
⭐︎
それから私たちはすぐに部屋に戻ると、映像記録ができる魔石をアーサー様に渡した。真っ黒のキューブ状をしていて真ん中に赤い魔石がはめ込んである。
「いい?この赤い石を撮影対象に向けてね。記録スタートは石に向かって『記録開始』というだけよ。終わりは『記録終了』って言うの」
「わかった。あの、映像がうまく撮れて、それを見ても……僕のことを嫌いにならないでいてくれる?」
「まさか! 絶対に無いわ! 約束よ!」
私は驚いた。そんなこと考えていたのね。嫌うわけないわ。
「わかった。撮り終えたらまっすぐここに来ていい?」
「もちろんよ。待っているわね」