1日目
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翌日。王子殿下をご案内1日目。
めいいっぱいおめかしされた私が鏡に映る。
「……ナンナ? とても可愛らしいのだけど、今日は宮廷の図書室や庭を案内するだけなのよ? 可愛すぎない? これ」
「フローレンス様、王子殿下とお二人で過ごすのに、可愛すぎるとか、絶対に考えませんよ? いえ、もっと可愛くしてもいいぐらいです!」
「おおぅ……」
いつも大人しめのナンナの圧がすごい。変な返事をしちゃったじゃない。
「そうですよ。フローレンス様。王子殿下がいらっしゃる時ぐらいナンナの思い通りにされていてください?」
「まぁ、アンナまで。いつもナンナの選んだ服を着ているわよ? でも、今日はヒラヒラがすごいなぁって」
「フローレンス様? 本当は毎日着ていただきたいのです。ですが、いつも砂だらけになり、ヒラヒラの隙間に砂が入り込み、重くなってヒラヒラがヘロヘロになるのです。泣く泣くヒラヒラが少なめの服にしているのですよ?」
「そ、そうだったのね。ええと、ナンナいろいろごめんね?」
「いいえ。ですから、一週間は私の選んだ服でお過ごしくださいね?」
「あ、でも明日は海に行くのよ?」
「「砂浜でドレスを脱ぎ捨てませんよね!?」」
「……はい。まさか。ほほほ」
もう、アンナとナンナって双子だけあって声を揃える時があるのよね。
……そんなに脱ぎ捨てていたかしら?
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王子殿下とホールで待ち合わせをしているので少し急足で向かう。
「お待たせいたしました。」
「いえ、約束の時間より早くついたのはこちらです。……お気遣いさせてしまい申し訳ありません」
……なんだろう、違和感を感じたわ。それがなんなのかわからないけど……。
「いいえ、そんな。うふふ。お互い謝りっこになっちゃいますね。いきましょうか?」
「はい。ふふ。そうですね。あ、そうだ。昨日自己紹介はしましたが、改めて、本日から7日間よろしくお願いします。よかったら、僕のことはアーサーと呼んで頂けますか?」
「まぁ、嬉しいです。アーサー様、では私のこともフローレンスとお呼びください」
「あぁ、ありがとう。フローレンス様、今日は宮廷内を案内していただけるとか?」
「えぇ、まずは図書室に行きましょう。シュナウザー国の図書室も立派だと聞きました。でも、国が違えばきっと新しい発見があるかと思います。それがあったら教えていただきたいですわ。」
「ええ、なるほど。新しい発見ですか。ぜひ見つけたいです」
アーサー様目が輝き出したわ。元気が出たかしら? うふふ、よかった。
広い宮廷を2人で歩く。その間も他愛のない話をする。不思議と話が尽きない。
「たくさん歩いてしまいましたね。こちらですわ」
衛兵が高さ3mはありそうな扉を開けてくれる。
扉の先の光景は例えるなら日本の50坪の家1軒分を2階の天井までぶち抜いて壁一面を本で埋め尽くす。それが3軒分並んでいる広さ。
「わぁ〜たくさんありますね。確かに、我が国の図書室と同じぐらいです」
「この国は海が側なので海洋に関する書物が豊富なんですよ?」
「それは、どのあたりにありますか?」
「はい、その柱から右全部です」
「こ、こんなに? 見ていいですか?」
「もちろんです。こちらのテーブルに読みたい本を持ってきて一緒に読みましょう」
私たちはそれぞれ好みの本を持ち寄り、テーブルについた。
アーサー様は海洋関係の本が多い。私は最近ハマっているお菓子作りに関しての本。
本当は恋愛ものが好きだけど、アーサー様の目の前ではちょっと恥ずかしかった。
しばらく2人で本を読んでいると。
「お茶のご用意がございます。どうぞ、少し休憩を」
と、執事のジョセフが声をかけてくれた。
「もうそんな時間?わかったわ。ありがとう。アーサー様、一休みしませんか?」
「うん、夢中になってて時間を忘れてしまったよ。お茶をいただきましょう」
2人で立ち上がり、テーブルを移動する。テーブルの上には軽食もあった。
「まぁ、サンドイッチもあるわ。嬉しい。まだ本を読んでいいのね?」
「はい、本日は好きなだけ読んでいいそうですよ?」
と、ジョセフが告げる。
「嬉しいわ! ね、アーサー様、もし読み終わらなかったら何冊かお部屋に持って行ってもいいわよ?」
「ありがとう、そうしようかな。この『深海の魚』っていう本が面白くて、まだ、読み終わりそうに無かったんだ。部屋でも……読めたらいいのに」
「? 部屋で読めないのですか?」
すると、だんだん表情が暗くなるアーサー様。
「……あとで、聞いてほしいことがあるんだ。僕の気のせいかもしれないし」
様子が変だわ。只事でない気がする。