昼食会の準備
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(残念。部屋に戻りますか〜。でも、磯焼きができてよかった!)
足についた砂浜の砂を払うと、靴を履き直し馬車に乗り込む。
(海水で味付けは要らなかったけど、ちょっとしょっぱかったな。でもやっぱり醤油は欲しいところね。)
「本日の予定ですが、隣国の第1王子と昼食会がございます。これからその準備をしていただきます。」
目の前に座った執事のジョセフが話す。
(シュナウザー国第1王子様か、物語が始まるのはまだ先のはずだけど……)
そう、物語のストーリーは今でも覚えているわ。
ヒロインとシュナウザー国の第1王子が愛を紡ぐ物語。
ヒロインが学校に入学する所から物語が始まるのよ。
そこへ、留学していた私が意地悪したりして妨害するのよね。
あの時はヒロインを応援したものだけど。
「立ち位置が変わると見方も変わるのよ」
つい、つぶやく。
簡単な事だわ。留学しなければいいだけよ。
今の私は元気に走り回っているけれど、わがままだって言ってないし、お勉強だってできるし、家族仲もいいわ。
「きっと大丈夫。12歳になったら、こっちの学校に入学するわ」
いろいろ不安はあるけれど、強制力とか今まで起きた事ないし、大丈夫。
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いっぱい洗われたわ!
この世界にも石鹸があってよかった。こっそり工場に頼んでラベンダーの香りを入れてもらっている。蒸留して、花からの精油の取り方を教えたの。生前の私は自分でアロマキャンドルを作りたくていろいろ調べたものよ。
クリーンていう魔法があるけれど、私はまだ魔法を使っちゃだめ。魔力暴走を起こした子供は、体内の回路が完成するまでは魔法は使っちゃダメなんですって。それが出来上がるのはそろそろのはずなんだけど……。
「ねぇ、アンナ、私もそろそろ魔法を使って良い頃だと思うんだけど」
すると、左手から温かい風を出しながら右手で髪を梳かしてくれているアンナは。
「そう言われてみれば、そろそろのはずですね。ナンナは聞いてる?」
今度は数着のドレスを運びながらナンナは答える。
「フローレンス様の魔法の事ですか? いいえ。旦那様も奥様も何もおっしゃってはおりません」
「そうなのね、ありがとう。今度私から聞いてみるわ」
「さぁ、髪の毛は出来上がりました。次はドレスですよ」
「ありがとう、アンナ。ドレスはどれがいいのかしら……ナンナ持ってきすぎよ」
「申し訳ございません、あれも似合う、これも似合うと、つい持ってきてしまいました」
「うふふ、ナンナったら。ん〜ええと、今日のラッキーカラーは」
目を瞑って手を伸ばし、適当に掴む!
「これよ!」
手にしたのは真っ赤なドレス。
「真っ赤だわ。……似合うかしら」
「えぇ、着てみましょう!きっとお似合いですよ!」
ナンナに言われるままに着替えさせられる。
「お綺麗です!さすが、フローレンス様!」
「ええ、お似合いですわ!ナンナの見立て通りね!」
2人に促されて鏡の前に立つ。
「わぁ。かわいい。これ、私?」
そこには赤い髪の毛をふわふわに両サイドにゆるくさげ、真っ赤なドレスの胸元には白のレースが上品に乗り、襟元まで伸びているデザイン。少女らしく、スカートの長さはふくらはぎが隠れる程度。そこから白いソックスと赤のパンプスが見える。
「ありがとう2人とも。とっても気に入ったわ!」
鏡越しに2人にお礼を言うと、2人ともイエイエと顔を横に振るが、とても嬉しそうに見えた。