6日目
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ー フローレンス視点に戻ります ー
翌日。王子殿下をご案内6日目。
本日は、アーサーに塩田を紹介したいと思います。明日はお別れ会だから、実質今日が最終日。なので、視察らしく、塩田にしました。塩を作る所をお見せしようと思ったのです。
「塩田ということは、海に行くのよ? ナンナ。なのに、なぜミニ丈のスカートなの?けっこう風も吹くのよ?」
「ふっふっふ。このナンナに死角はございません! 中に何層も重なるこのパニエが男性の憧れる『見えそうで見えない』を実現するのです! しかも、フローレンス様はこのミニ丈を着ても許されるご年齢です!存分に今のご自分を生かし、利用するのです!」
……ナンナ、変な宗教に入ったりしてない? 大丈夫? 言葉が神がかり的に感じるのは気のせい?
そして鏡を見る。 ……やっぱりね、すごいわ。ナンナ。 私、超かわいい。
「さて、行きましょうか」 待ち合わせのフロアーに向かう。
お約束の挨拶を済ませ、アーサーと2人で馬車に乗り込む。
もちろん隣同士で手を繋ぐ。
以前、港町に出かけた時と同じ、馬車に少しだけ揺られて到着する。
ルカを呼んだ桟橋が見える場所だ。
「アーサー、塩田は港町と逆方向に進みます」
「じゃぁ、こっちだね?フローレンス、ルカに会わなくていいの?」
「え、いいんですか?本当は、ちょっと会いたいなって思っていたんです」
桟橋に近づくと、浅瀬の海底にキラキラと濃いブルーの何かが光る。
「もしかして……。やっぱり、ルカはずっと集めていてくれていたんです」
「何を?」
「『海竜の鱗』です! ほら、見えるでしょ?青いキラキラして……」
砂浜からよく見える位置に移動してみる。と、その時。
「アーーサーーー!! 覚悟ぉ!!」
あ、アーサーの侍従だった人。
剣を抜き、走ってくる。
私は咄嗟にアーサーを突き飛ばす。
「ふ、フローレンス!!」「キャーーーフローレンス様!!」
ドン!
「……ぐ、は」
見ると……。
私の脇からヌッと飛び出している2mはある角。
それが侍従のお腹を貫いていた。
振り返ると、ルカが真っ赤な目をし、砂浜に前足を踏ん張っていた。
「ルカ、ルカ!!助けてくれたのね、ありがとう!」
護衛騎士がすぐに侍従を角から引き抜く。だか、もう息も絶え絶えだ。
「ルカ、でも、このままではルカが人殺しになっちゃうわ。だから……」
私は唱えた。
「ヒール」
父から許可は降りていたのだ。
魔力量が膨大なだけあり、傷口はあっという間に塞がる。
「フローレンス、なんて無茶をするんだ!」
アーサーに抱きしめられているわ……。
もう、塩田どころではなくなり、その日は城に帰ることになった。
でも、馬車の中ではアーサーが私を膝に乗せ、抱き抱えたまま、私の肩に顔を埋めてひと言も話さなかった。
……話しかけてみる。
「アーサー……ごめんなさい」
「……僕は、君を失うかと思った」
「ごめんね……?」
「……僕は、本気で怖かった」
「うん……ごめん」
「……許さない」
「……ごめ」
「僕より先に死なないと約束して、そしてずっと側にいるって約束して、そして、そして……結婚すると言うなら許してあげる」
「アーサー……」
「もう、君じゃないとダメだってわかった。いや、わかってたんだ」
「アーサーあのね」
「聞きたいけど……だめ……明日、聞かせてくれる?君の返事……」
「なぜ明日なの?」
「明日、パーティーがあるから、その時に聞きたいんだ。それに、今から侍従の取り調べをしなくちゃいけない。全て終わってスッキリしてから聞きたいから」
「わかったわ……」
アーサーのエスコートで馬車を降りた私はアーサーに見送られながら部屋に帰った。
その日はアーサーに会えなかった。きっと取り調べに時間がかかっているのだろう。
私はルカに助けてもらわなかったら……ブルっと身震いする。
今になって怖くなってきたわ。ルカ、今度お魚持って行くわね。