アーサー視点 ②
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ー アーサー視点 ー
ホールでのんびりと待つ。この間までの憂鬱さは無い。空気も清々しく感じる。
昨日は勢いで競争しようって言ってしまったが、競争も何も、多分僕がベタ惚れなんだろう。女の子は苦手だったのに、自分でも驚くほど変わったと思う。フローレンス限定だけどね。
「アーサー、おはようございます。」
「フローレンス。おはよう。なんだか今日は大人っぽい感じだね、可愛いっていうより、綺麗だね」
「ふぁい。あ、ありがとう」
ふぁいって。噛んでも可愛いいや。
「ふふふ。それじゃぁ、行こうか」
もう手を繋ぐのも当たり前になっている。
本当に、毎日ドキドキさせてくれる。顔が赤くなってもじもじしているフローレンスもしっかり見て、目に焼き付けておこう。
帰ってしまったらなかなか会えなくなるかもしれないから。……あぁ、寂しい……。
いいや、今日は楽しもう!
いつものように馬車に乗り込む。
いつものように隣同士だ。
「今日は丘でピクニックよ? 視察にならない?」
「あはは、とっくに視察は関係無くなっているんだ。王妃の件で一旦僕は国に帰るところだったんだけど、僕が父に頼んだんだよ」
「頼んだの? 何を?」
「残りの日程を予定通りに過ごさせて欲しいって。フローレンスと一緒にいたいから」
「ま、まぁ。うれしぃ……」
「父上とフローレンスを口説く約束をした時、フローレンスの父君もいたんだよ?」
「え? 口説く約束って? 私の父もいたって?」
しまった、口説く話はしてなかった。ん〜でも、もう3日しかないからな。
「フローレンスを残った日数で全力で口説くって約束したんだ。君の父君も応援してくれているんだよ?」
「……全力で……お父様も知ってるなんて」
「だから、覚悟しててね!」
ぷしゅ〜と音が出そうな顔のフローレンス。真っ赤だ。
ごめんね、そんなに困らせるつもりはなかったんだ。
でも、競争もしてるし、僕の本気を見せてあげる。
そんな話をしていると、いい香りがしてくる。
ふと、窓の外を見ると一面花が咲いていた。
プルメリア国というだけあって、プルメリアがたくさん咲いている。
「アーサー、あれがマリーゴールド、あっちがハイビスカスね」
「うん、で、一番たくさん咲いているのがプルメリアだね」
「うふふ、そうなの」
丘の上には1本の木が立っている。その側まで行くと馬車から降りる2人。
「ここでお弁当を食べましょ? その後は本を読んだり、おしゃべりしたりしてゆっくり過ごすのよ?」
「いいね、お弁当も楽しみだし、本もゆっくり読みたいね」
侍女たちが草の上に敷物を敷く。護衛騎士たちもゆっくり休んでもらう。
時折走り抜ける風が心地いい。花たちを撫でて行く。
「料理長にいろいろお願いして作ってもらったの。騎士たちの分もあるから、遠慮しないでたくさん食べてね。」
たくさんの料理が並べられる。今日はお毒見役も遠慮してもらった。
見たことが無いものもあるけど、これなんだろう?
「それは唐揚げよ。私が大好きなの」
ふんふん、うん。美味しい! これはなんだ?
「それはパスタよ?トマト味とチーズ味とあるの」
うんうん!うまい〜。これは?
「それはグラタンなの。冷めても美味しいはずなんだけど」
美味しい!! さっきから僕が喋らないのはずっと食べ物が口に入っているから。
彼女は僕が食べ物をフォークで刺して彼女を見るだけで答えてくれているのだ。
以心伝心? なんちゃって。
彼女にもたくさん食べてほしい。
「はい、あ〜ん」
あ、つい。
「あ、アーサー……い、いただきます」
ぱくっ。
た、食べてくれた!
「……こんなに嬉しいと思わなかった。ふふ」
「アーサー。はい。あ〜ん」
わ、僕にも?
ぱくっ。
「おいしあわせだ〜」
「おいしあわせ? うふふ。食べさせてもらうと、『おいしあわせ』な気分になるのね?」
「うん。新しい感情の発見だね!」
「うふふ。大袈裟ねー。でも、私も『おいしあわせ』だわ。はい、あ〜ん」
そのうち騎士の誰かがリュートを弾き始める。
軽やかな音色が心地いい。誰ともなく鼻歌やハミングを入れたりしていた。
こうしてみんなとのピクニックが穏やかに過ぎていった。
『おいしあわせ』な1日だった。