5日目
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翌日。王子殿下をご案内5日目。
今日は少し馬車で移動した所に小高い丘があって、そこに夏のお花がたくさん咲き乱れている場所があるのでピクニックに行きます。美しい場所なのに、あまり知られていない穴場なの。
視察じゃないけど、いいわよね?
「ねぇ、ナンナ? 今日はピクニックだから、普通の格好がいいと思うの。こ、こんなにデコルテだす必要あるかしら? いや、ないと思うのよ」
「フローレンス様、前にも言いましたが、王子様と行動を共にするのに、普通の格好がいいわけございません。どうやら、昨日のお召し物が功を奏し、お2人の仲がぐーんと縮まったと聞きました。ええ! 聞きましたとも! なので、ここは強気で攻めさせていただきます! ですからフローレンス様のご意見は却下でございます」
うぅ、まだ7歳なのよ? 私。 と、鏡を見る。 悔しいわ! 似合ってるし!
もう、ナンナの圧にも慣れてきたわ。よし、厨房に行ってクッキーを焼いてもらいましょう。昨夜タネを仕込んでおいたのよね。今頃、私の発案した冷蔵庫でいい感じになっているはず。本当は自分で焼きたいけど怒られるし……。お弁当もお願いしないと。
「ねぇ、アンナ、ナンナ。私、厨房に行ってくるわ。今日のお弁当を確認したいの」
「わかりました、私も行きます。ナンナ、行ってくるわね」
厨房はお城の地下にある。階段を降りていくとすでにいい匂いが立ち込めていた。
「おはようー。クッキーを焼いてほしくてきたんだけど……」
「フローレンスお嬢様! おはようございます! クッキーは先ほど焼けました!」
料理長のオリバーはいつも元気だ。私が冷蔵庫を発案し、作った時は感動して涙を流していたわ。簡単な原理なのにね。箱を作って一番上に氷魔法で氷を置くだけの物。ただ、誰も冷蔵庫の発想を持たなかっただけ。でも、おかげでぐんと食生活が豊かになったのよね。
「ありがとう! うまく焼けた? どれどれ……サクッ。 美味しい!!」
よかったー、甘さも、硬さもちょうどいいわ!
「私は、アーサーと、今日一緒に行ってくれる人達の分だけもらっていくわ。まだ、タネ残っているでしょ? 焼いて食べちゃっていいわよ?」
「はい! ありがとうございます! 早速焼いて食べさせていただきます!」
「あと、ピクニック用のお弁当をお願いしてたんだけど」
「もちろん出来上がってございます! どうぞ、こちらです!」
わぁ、とっても美味しそうだわ。ちゃんと人数分ある。さすが料理長ね!
「どうもありがとう!もらっていくわね。じゃぁねー」
アンナが大きなバスケット2つ、私は小ぶりなバスケットを持つ。
「はい!いつでもお越しください!」
部屋へ戻る途中、くすくすと笑う声が聞こえる。
「アンナ、どうして笑っているの?」
「い、いいえ、我慢してたのですが、申し訳ありません。クフフ。」
「え〜何?何か面白いことあった?」
「いえ、ただ、料理長が緊張しているのがおかしくて」
「え?あれ、緊張してたの?元気なだけだと思っていたわ」
「料理長はフローレンス様を料理の女神様だと本気で思っているんです。なので、お見かけすると緊張してカチコチになるのです。ふふ」
「そんなふうに思われることしたかしら?」
「冷蔵庫、塩、干物、お米、海の生き物を食す事、昆布、極めつけは出汁でございます」
「あ〜、確かに……食べ物関係ばかりだわ。でも女神は大袈裟ね」
「フローレンス様はもっとご自分の価値を自覚するべきですわ」
「? 価値? ん〜。そうね、私の価値はみんなが決めてくれていいわ。私も自分の価値は自分で決める」
「周りに知らしめなくてもよろしいのですか?」
「だって、みんながいてくれるから今の私がいるのよ?みんながいなかったら私の価値なんか、高が知れてるわ」
アンナがうっすら涙ぐむ。
だが、話した場所が悪かった……。
ドアがバンッと開くと、ナンナが涙でぐしょぐしょの顔で出てきた。
「うぅ、フローレンスさま〜そんなふうに思ってくださっていたのですね〜嬉しゅうございます〜これからも誠心誠意努めますわ〜〜わ〜ん!」
跪き、私の手を握りながら大泣き。だが、決して着替えた服を汚すようなことはしない。プロね。
だけど、……私は最近のナンナの情緒の方が心配だわ。
さて、そろそろ時間だわ。いそいそとホールへ向かう。
「アーサー様、おはようございます。」
「フローレンス。おはよう。なんだか今日は大人っぽい感じだね、可愛いっていうより、綺麗だね」
顔が熱くなる。
「ふぁい。あ、ありがとう」
かんだ。
「ふふふ。それじゃぁ、行こうか」