4日目
またまた長いです。
⭐︎
翌日。王子殿下をご案内4日目。
よかった。アーサー様は残りの日程を予定通りに過ごされるそう。
「ね、ねぇ、ナンナ……。今日は殿下と城下町見学に行くのよ?いつもより地味だし、ヒラヒラは少なめだし。いいんだけど、このお尻のこれ、何?」
「はい。本日は街に繰り出されるとお聞きしましたので、『大手商家のお嬢様風』にしてみました。殿下の従者にも『大手商家お嬢様の幼なじみ風』にと伝えてあります」
「う、うん。それはいいの。聞きたいのはお尻のこれよ。これ何?」
「……」
えー、答える気なし!?お尻のやたらふわふわした淡いピンク色のこれ……何ーーー!?
「フローレンス様、そろそろお時間です」
「わかったわ、アンナ。じゃ、行ってくるわねナンナ」
今日はできるだけ御付きの人数を減らしたわ。商家風なら、護衛が2〜3人でしょうからね。アンナとナンナはお留守番よ。
「まぁ!!可愛らしぃ〜〜。さすがナンナねー」
と、私の後ろ姿を見たアンナの声が聞こえた。
「ふふふ、そうでしょ?着ている本人には見えないのが残念ですけど」
なになになに?ん〜〜何がお尻についているの〜〜〜!も〜〜!
すごく気になるけど、仕方ないわ。先を急ぎましょ。
「アーサー様、お待たせしました」
今日はアーサー様が先に来ていた。後ろから声をかける。
「いいえ、大丈夫ですよ。おはようございます。フローレンス、今日も可愛らしいですね」
「はい。おはようございます。アーサーも素敵です」
お互いニッコリと微笑み合うと自然と手を繋ぎ歩き出す。後ろの兵士も傭兵っぽい姿だわ。
さぁ、今日は城下町ね。いろんなお店を紹介したいわ。
「アーサーはどんなものに興味がありますか?」
「そうですね、武器や防具など、どのように作っているのか興味はあります」
「武器や防具ですか、作っている所は見ることができませんが、海から時々流れ着く『海竜の鱗』を使った剣や盾を置いている店があります。そこに行ってみましょう」
「『海竜の鱗』ですか?見てみたいです!」
馬車に乗り込み、城下町を目指す。今日の馬車もいつもより地味な感じのもの。
港町とはちょうど逆方向に城下町は広がっている。
城下町と言っても入ってすぐは貴族街なのでお店は無い。なので馬車にしばらく乗ることになる。
隣同士に座り、昨日の報告を聞いた。
「そうだったのですか、他にも被害者が」
「はい。私の手紙を受け取って、父がすぐに調査を指示したそうです。すぐに証言が集まったそうですよ」
「すぐに集まるなんて……よほどでは?」
「全くです。父も周りの意見に流されて妃にしたのを後悔していました。まぁ、籍は入れてなく、業務用の妃だったのですが」
「でも、妃という立場を笠に着てアーサーのベッドに潜り込むなんて、不愉快ですわ」
「……あの、僕を不潔だと思いますか?」
「!!まぁ、なんという事を!! 思うわけありませんわ!!」
思わず両手を包むように握ると目を見て言った。
「私、アーサーを素敵とか、かっこいいとか、思うことがあっても、不潔だなんて!絶対に思いませんわ!」
……………あれ? 言ってしまった?
みるみる顔を赤くするアーサー。髪の毛まで染まりそうな勢いだ。
「す、素敵とか、かっこいいって……思ってくれて……いるのですか?」
うつむき気味にこちらを見る。や、やめて……上目遣いの美少年って……死ねるわ。
「は、はい。毎日思っているわ……」
「ま、毎日」
あぁ、そうよ。白状します。物語の強制力なんて関係無い。
私って、イケメンに、弱いって事! 超強弱体質よ! しかも、弱ってる所なんか見せられたら……。秒殺に決まってるじゃないの!
って、言えたら楽なのに……。やっぱり、物語が……ヒロインが気になる。
やがて馬車が止まる。目的地に到着したようだ。
護衛の騎士が扉を開ける。傭兵に扮している騎士だ。
「つきました、ぜ。お足元……足元、気をつけて降りてください」
ぎこちないセリフに笑いそうになる。
「はい、僕が先に降ります」先に降りて、私の手を引いてくれる。
「ありがとう、アーサー」
馬車置き場に馬車を預け、手を繋いで歩き出す。後ろに護衛もついてくる。
「こっちにあるお店よ。ここを曲がるの」
「へ〜、来たことあるの?」
ギクッ!
(そうだった。ナイショだったのよ)
「ええと、前に1回連れてきてもらった事があるの」
「いいなー、僕なんかまだ街を歩いたこと無いのに」
(そうよ。私も許可もらって無いのよ〜)
「1回だけよ?だからアーサーとほとんど同じよ?ほほほ」
店が見えたわ。誤魔化すように入る。
「いらっしゃい! 嬢ちゃん! 久しぶりだね! お? 彼氏かい?」
店主のおじ様は私だとわかると、カウンター越しに身を乗り出しアーサーをじっくり見る。
「わ〜〜!! い、1回しかきてないのによく覚えていてくれました!こちらは幼馴染です!」
「1回?んなわけ……もご」
慌てて顔にバッグを押し当てる。
「お、おじさま、このバッグおいくらなのかしら??」
「……1000ギルだ」
おじさんのジト目が痛いけど、本題に入る。
「ええと、この方に『海竜の鱗』で作った剣と防具を見せて欲しいの」
「あ〜あれか。いいけどよ、高いぜ? 待ってな」
すぐにカウンターに並べられる『海竜の鱗』の剣と防具。
全体がうっすら青く輝いている。
「綺麗だねー。手に持っていいですか?」
「あぁ、いいぜ。そっちの兄ちゃん達も見ていいぜ」
護衛の3人にも声をかけてくれる、気のいい人だ。
「『海竜の鱗』はな滅多に手に入らないんだ。それこそ海に潜るような人じゃないと見つけられない代物だな」
おじさん……わざと言ってない?
「うちは、あるツテがあって、結構作れるのよ。海竜製品」
ニヤニヤしながら言わないで!もう!
「普通の剣や防具とどう違うのですか?」
アーサー様、興味津々ね。
「剣の場合は切れ味が落ちない。よく見るとわかるんだが、剣の刃に細かな溝がついているだろ。それが鱗の模様なんだ。そいつが切れ味を落とさない秘密だな」
へ〜初めて知った。
「では防具はどうなの?」と私が聞いてみると。
「うん、防具は軽くてしなやかなのに刃を通さない。鎧の下に着たら100%切られないな」
「「「お〜」」」3人の騎士の声だ。
「剣は1本100万ギルだ」(日本円で1000万円ね)
「鎧下のシャツは30万ギルだ」(日本円で300万ね)
ガクッと肩を落とす3人。だけどアーサーは違った。
「シャツを今度買いにきます。いつでもありますか?」
「おお。高いからな、なかなか売れない。待ってるよ」
「はい!」
店を後にすると、小さな声で護衛3人に言った。
「シャツだけでも徐々にみんなに行き渡るように父に頼んでみるわ。命大事だもの」
「「「ありがとうございます」」」
「し〜、声が大きいわ」
「ふふふ、フローレンスはやっぱり優しいね」
アーサー様、聞こえていたのね。
「それに、『海竜の鱗』はフローレンスがここに持ってくるんでしょ?」
わ〜〜〜、バレて〜ら〜。
「う……。な、ナイショよ?」
「うん。うれしぃなー。毎日フローレンスの秘密を知れて。ふふふ」
「い、いじわるね? もう」
「ごめんね? ふふふ。でもすごいね。やっぱり海があると造られるものも違うんだね」
「えぇ、そうなの。次はアクセサリーを見せるわ」
「うん、楽しみだね」
手を繋ぐと、2人仲良く歩き出す。花屋をのぞいたり、屋台で飲み物を買ったりしながらしばらく行くと、シックな雰囲気の店があった。
「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくり」
「ほら、これなんか貝殻を使って造られているのよ?」
指差しているのは巻貝っぽく削られた貝に魔石が動くように嵌め込まれていてキラキラ揺れるイヤリングだった。
「あ、そうだ。フローレンスはピアスはしないの?」
「穴開けていないの。痛そうじゃない?」
「僕もまだなんだ。今度1組買って、右と左につけない?」
「う、痛そうだけど、アーサーがやるなら私もやるわ!」ふんすと手を握って言う。
「そんなに痛くないはずだけど。その時は一緒にやろうね」
そんなおしゃべりをしながら見て回る。
「あ、こんな大きな魔石。初めて見たわ」
「ほんとだね、大きいな。龍のかな?」
高さ1m幅は50cmほどの赤い石が台座に乗って置かれていた。
「こちらは地龍のものです。寿命で亡くなったので魔石を取り出しました」
この世界では魔物がいて、体の中に魔石があるのだけれど、龍クラスになると誰も手出しはしない。お互い不干渉でいるのだが、亡骸は人間が葬っていいらしい。その際、魔石を取り出すのだ。
魔石には魔力を流し込み、電池のような使い方もできる。このクラスになると何に使うのだろう?
「そういえば、私、そろそろ魔法を使っていいはずなの」
「魔法か。僕はみんなに任せっきりで自分であまり使わないな」
「どんな魔法が得意なの?」
「僕は氷と風かな、他はそこそこできるぐらいだよ」
「いいなぁ、私も早く許可降りないかしら」
「許可って、魔力暴走でも起こしたの?」
「うん、3歳の時。えへっ」
「ええ!! 本当に? よく助かったね。……神に感謝します」
「そんな、大袈裟な……」
「大袈裟じゃないよ? 魔力暴走した子は助からないって言われているんだよ?」
「え、そうなの? 割と助かる子っているのかと思っていたわ」
「ううん。奇跡に近いよ。そっかぁ……ますます大事にしないと」
「何?なんか言った?」
「いや、そろそろお昼でも食べない? 屋台でもいいよねー」
「うん!いいわね! お肉の串焼きが食べたいわ!」
店を出ると、護衛と2人でアーサーが串焼きを買いに行ってくれた。
私は、近くのベンチに座って戻ってくるのを待っていた。
「お待たせ……フローレンス……すっごく可愛いんだけど」
「え? 何? 何もしてないわよ? 座っていただけなんだけど」
「僕も今気づいたんだけど。君の今日の後ろ姿。大きなピンクのハートが広がって、すごく可愛い」
「……そ、そうなのね。知らなかったわ」
もう、ナンナったら。教えてくれればいいのに〜。
「はい、どうぞ、串焼き」
「ありがとー。私はタレなのね?」
「うん、半分こして食べよう?」
「! う、うん」
恥ずかしー、でもうれしー。半分こだって! いいなーこういう時間って。
串焼きサイコー!!
帰りの馬車で、隣に座るアーサーが私に言いました。
「ドレスの後ろにハートマークを見た時、ドキッとしたんだ。まるで僕を大好きって言ってくれているようで……そうならいいなって思ったんだ」
「……はい」
「……思ってくれている?」
「……はい。でも、不安でもあるのです」
「何が不安なの?」
「あなたが、もしかすると……他に好きな人ができるかも知れないって……思って」
「ええ!? 絶対ないよ? わかった、あと3日でわからせてあげるね。僕がどれだけ君を好きなのか、君も僕をどれだけ好きになれるか競争しよう」
「うふふ。競争って、お互い好きになる競争?」
「うん、そういう競争もいいと思うんだ」
それから2人で指切りをして、そのままお城まで手を繋いでおりました。
でも、この競争ってどうやって勝敗をつけるんだろう?