決めてみた
忍者になって何がしたかったかといえば『投げる』攻撃だ。
煙玉を使って敵から逃げるなどもっての外だし、分身を使って当てられる覚悟で行く気もない。
二刀流にはちょっとだけ憧れはあるが、やはりなんと言っても『投げる』攻撃だ。
かといって水遁の術とか火遁の術とか雷神の術なんて巻物を投げるのなら魔法を使った方が楽だし威力も高い。
アリサが投げたかったのはなんと言ってもこの手裏剣だ。
ゲームの中では手裏剣を購入するのは結構大変で、懐具合とかなり相談しなければいけなかった。
しかし今なら複製のスキルを最大限活用し、事前に複製しまくってあるので遠慮なく投げ放題。
ドスッ! ドスッ! ドスッ! という重低音を響かせ全方向全体攻撃ができるのも魅力的で、何よりその見た目からは想像できない高ダメージをたたき出せるのがいい。
多数の敵に囲まれ一掃できた時はまさに「快・感ッ!」だ。
手裏剣の他にも投げられる武器を多数複製してある。もうどんな敵でもどんと来いって感じ。
それに忍者になったお陰で先制攻撃が決まりまくり、さらに敵から攻撃を受ける事がなくなった。
「この分ならあの魔王城も楽勝だね」
フェンリルにキマイラやベヒモスにサイコルプスといった聞くからに強そうな敵が普通に出現するフィールドを隅々まで移動しアリサは魔王城を目の前にそう思っていた。
「何があるか分からないわ。あまり気を抜かないでね」
「そうなの?」
「我らにもあの城に何があるか分からない。少し慎重に行くとしよう」
ルリとシオンは少し険しい表情をしているので、アリサも少しだけ警戒心を強める。
「ルリやシオンにもわからない事ってあるんだね」
「それはあるわよ」
「特に未来の予測など絶対に無理だな」
(それもそうか)
二人に未来の予測ができていたら二人とも問題を抱える事もなかっただろうとアリサは普通に納得した。
そしていよいよこのダンジョンの最後のエリアとなるだろう魔王城へと足を踏み入れる。すると驚いた事にそこに出現している敵はおよそ魔物とは思えない全身鎧や武器だった。
鎧はなんとなく分かる。だが剣や槍といった武器が単独で徘徊しているのには本当に驚きだ。
見た目は確かにとてもお高そうで性能の良さそうな武器だが・・・。
さらに驚いた事に杖やスタッフに魔導書などは魔法まで使ってくる。
しかし城の外にいた魔物の方が明らかに強そうだった。
「アリサ!」
ルリに名を呼ばれ呆気にとられ立ち尽くしていたアリサは我に返る。
「ごめん、ありがとう」
アリサは気を引き締め、気合いを入れ直し攻略を開始する。
ウザいほどの多数の武器たちが広い城内を徘徊しているので、アリサは魔法の熟練度上げに活用させて貰う。
広い玄関ホールを抜け、一階にある部屋を次々と覗いていく。多分ボスは王の居る謁見の間だろうがアリサは魔王城全体をくまなく回りたかった。
やたらと広い庭だろうが馬小屋だろうが倉庫だろうが野外も例外ではない。今はまだこのダンジョンボスに挑むまでの時間も楽しみたかった。
そうしていよいよ謁見の魔を最後に扉の前に立つ。さすがに世界最難関と言われるだけの事があり、気づけばダンジョン攻略にかなりの時間がかかっていた。
「いよいよだね」
「そうね」
「気合いを入れろよ」
三人は頷きあうとその大きな扉を押し開く。
魔物の気配もない広い謁見の間にある王座に座る魔王(?)仙人(?)いや、普通にただの老人のような・・・。
「「・・・」」
「何も言うまい。三人纏めてかかって来るがよい」
(喋った!?)
その言葉を合図にルリは魔法を放ちシオンがその隙に接近し、アリサは手裏剣を投げる。
あっという間だった。ほとんど瞬殺。拍子抜けするほどあっさりと・・・。
アリサは第二形態に移行するのかと倒れた老人を見つめていると「見事であった」と頭に響く声。
そして突然目の前に現れるウィンドウ。
次の世界へ転移する
▷ はい
いいえ
突然の選択表示にアリサは呆気にとられる。
見ると下にはカウントダウンの数字が大きく表示されている。
「ちょっと待って! 三十秒でいったい何を考えろと!?」
アリサは焦り声を上げるがその叫びに答える者はいなかった。
(どうしたらいいの。どうすればいいの。私はいったいどうしたいの)
「だいたい次の世界ってどんな世界よ!!」
どうしたらいいのかはまったく決まらない。考えられない。思いつかない。気持ちは焦るばかり。
しかしアリサはカウントがゼロになり、誰だか知らない者に自分の人生を選択されたくはないという思いだけが強くなる。
この世界に残ってこの世界をこのままのんびり冒険して歩く。またはどんな世界かも分からない次の世界に転移し新しくまた一から始めるか・・・。
刻々と減っていくカウントダウンの数字。
アリサは大きく深呼吸をし気持ちを落ち着かせ自分の心の声に耳を澄ます。
「うん、決めた!」
そしてアリサはカウントがゼロになる寸前その選択をチェックするのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
予定ではこの先は乙女ゲームの世界でもと考えていたのですが、タイトルのRPG世界からかけ離れるので止める事にしました。
アリサがどんな選択をしたかは読んだ方にお任せしようと思います。
ちなみに作者的には転生や召喚という出だしの違いが若干ありますが冒険内容的にいうと『私は強くてニューゲーム』や『召喚されたら悪魔と天使がついてきた件』に続くと考えています。