歩き始めてみた
インベントリを開き、何を食べようかと収納してある料理を確認していて気がついた。
アリサが収納した覚えのない金銀財宝に武器防具の数々。それに何故か知らないが木材石材といった素材扱いになった物に鉄や銅などなど・・・。そして金額の表示も凄い事になっている。
「シオンが壊した物がドロップ品扱いになってるんだ。きっと。でもどれだけ壊したらこんな凄い事になるのよ・・・」
多分瓦礫となった建物が再利用可能な素材となってドロップ品扱いになったのだとなんとなく思いついたが、いったいどうしてという思いも強く理解はしきれずにいた。
「神様の采配?」
なんにしても復興資材に困る事はなくなり、復興が滞る心配も少なくなるのだろうと思っていた。
そして一斉清掃作戦も終わりが近いのだと感じていた。
「あ~~ぁぁ、お風呂に入りたい!!」
アリサの今一番の願いはそれだった。
この地下大迷宮を一人で探索し始めてから体を拭く事も着替える事もできずにいて、もうすでに限界だった。
髪はゴワゴワ、体はベトベト、気持ち悪さがアリサを苦しめていた。
前の世界でソロ活動を始めた頃はここまでではなかったのに、清潔な事に慣れてしまったアリサには全身にバイ菌が蠢くのが見えるようだった。
「一度地上に出てみようか?」
さすがに上級ジョブだけあってジョブをバトルマスターにしてみたが、思うようにレベルが上がらない事にもイライラしていた。
地上に誰もいなかったとしても宿屋の風呂を借りるくらいなら大丈夫じゃないだろうか?
風呂が無理だったとしても、どこか安全なところを探しお湯で体を拭くくらいはできるだろう。
アリサはそう思い立つと我慢ができず、ルリやシオンからの連絡を待つ事なく地上に出る事を決めた。
人でごった返していたダンジョン出入り口付近を苦労して抜け出し、久しぶりに日の光を浴びる。
「眩しい」
一瞬目が眩んだが、徐々に目が慣れ辺りの景色が目に入る。
「な、何よコレ!」
アリサはその光景が信じられず、思わず叫んでいた。
目の前に広がるのは比喩でも何でもなく本当に何もなくなった空き地が一面に広がっていた。
神殿だけでなく聖都があったはずの場所は丸々全部平地になっている。
いったいどうやってと考えたところでシオンがテンション高くドラゴン退治をしていた姿を思い出す。
「あのノリで壊しまくったんだね・・・」
黒龍姿で建物を崩壊させた姿を見ていないアリサはそれで納得し深く溜息をついた。
「これじゃぁお風呂は無理じゃん」
それにしても聖都の人口はあのダンジョンにいる人たちだけな筈がない。残りの人たちはいったいどうしたのだろうと考える。
(まさか・・・。建物の崩壊に巻き込まれ大勢が亡くなったなんて事ないよね?)
アリサは言い知れない不安に襲われた。
『罪もなく巻き込まれた人たちは私が癒やしたから大丈夫よ。近隣の街や村にみんな避難しているわ。』
突然頭に響くルリの声。
(良かった・・・)
「ここまでする必要があったの?」
アリサは安心すると同時にルリに問いかけていた。
『宗教色を残すのは嫌だったそうよ。シオンは神殿や大きな教会がある都市はすべて壊滅させて今はあちこちの教会を壊しに行っているわ』
「ルリは何をしているの?」
『私を信仰してくれる者たちの中から手助けを頼める者を選んでいる所よ』
いつかシオンが眷属みたいな者と言っていたのは信者の事だったのかと勝手に納得して聞いていた。
「じゃあ私はお風呂を借りられそうな所を探しに行くから」
アリサはルリにそう伝え聖都の人々が避難しているという街を目指す事にした。
するとアリサがダンジョンから出て戻らなかったからか、安心だと判断した人々がダンジョンから次々と出てきている。
アリサはアリサと同じように驚く人たちに、他の人は近隣の街や村に避難しているらしいとだけ伝え歩き始めるのだった。