提案に乗ってみた
この異世界も地球と同じく丸かった。
ルリが守護するという大陸を目指すにあたり、どうせならマップを埋めたいというアリサの願望をシオンが汲んでくれたようだった。
昼夜問わずひたすら北北東に向かって飛び続けるシオンに乗って移動したのは、もうすでに黒龍の存在は知られているからという開き直りからだ。
そうして世界マップの三分の二が埋まろうとする辺りで目的の国へと到着する。
「それでこれからどうするの?」
「取り敢えず教皇の説得を試みます」
ルリの判断にアリサは少しばかり不安を感じていた。
(説得が通じないからここまで出向いたんじゃないの?)
「まあ、思うようにやらせてみるさ」
シオンがアリサの頭に手を置くので、アリサの考えはシオンにも通じているのだと思っていた。
「すみません。私にもう少し信仰心が集まっていれば容易かったのですが・・・」
「神の化身の聖獣なのに信仰されてないの?」
「私はあくまで神の化身でしかなく女神ほどに信仰はされていません」
「良く分からないけどみんな自分の信じたい事しか信じないしね」
アリサの言葉にルリは薄く笑うだけだった。
「どっちにしろ今のところ俺たちにできる事はないみたいだな。どうだアリサ、おまえの望み通りその間ダンジョンにでも籠もってみるか?」
「別に私はかまわないけど、ルリの手助けをするつもりでここまで来たのに・・・」
「手助けが必要になったときはお願いします」
アリサはこの国に来る事自体が目的だったのだと素直に理解しシオンの提案に乗る事にした。
このクレアエ聖教国はその名の通り宗教色が強く、国民はみんな変わった帽子をかぶっていた。
そしてその国民の中にも階級が存在するらしく、帽子の色やまたは服装でその階級を判断できるようだ。
その中で明らかに宗教関係なし感漂わせるアリサたちは異端扱いなのか、さっきから街の住民たちの視線が痛かった。
もしかしたら宿にも泊めて貰えないのじゃないかという不安すら感じるほどにだ。
こんな状況でのんびり街を観光なんてできるはずもなく、寧ろシオンの誘いはアリサには正直ありがたかった。
「それでこの近くにダンジョンはあるの?」
「勿論だ。聞いて驚け、地下大迷宮だぞ」
「地下大迷宮?」
「ここの神殿の地下にかなり広大なダンジョンがある。それもいまだ誰一人踏破していない難攻不落のダンジョンだ」
アリサは難攻不落のダンジョンと聞いて途端に心が躍り出すと同時に不安も感じる。
「そんなに踏破の難しいダンジョンなの?」
「いや、ただ広いだけだ。何しろこの街の数倍の広さはあるだろう」
「えっ、その程度で難攻不落?」
ただ広いだけなら今までに踏破した人の一人や二人はいただろうとアリサは首を傾げる。
「ダンジョンに挑む者が少ないだけだ」
この国には冒険者はあまり存在しないらしい。
「なぁんだ・・・」
アリサは途端にがっかりして肩を落とし溜息をつく。
「まあそんなにがっかりするな。おまえが初代の踏破者となればこの国も何かが変わるかもしれないぞ」
シオンの言葉にアリサは何かが閃いた気がした。
「それってルリの手助けにもなる?」
「断言はできんが、やってみる価値はあるだろう」
「そうだね!」
どのみちジョブレベル上げの為にもダンジョンに行きたいと願っていたのだ。
それがルリの助けにもなるのだとしたら一石二鳥ってやつだろう。
アリサは俄然やる気に満ち溢れた。
「ただ問題が一つあってだな」
「何よ?」
「ダンジョン管理は神殿がしている。許可が簡単に下りればいいのだが・・・」
シオンが何か言いたそうにルリの顔を見る。
「分かっています。そのくらいの事ができなくてどうします。私を無能扱いするのはやめてください」
「でも神殿相手に信者でもない私たちに許可が下りるの? 本当に大丈夫?」
「ですから、私を無能扱いしないでください。行きますよ」
ルリに案内され神殿へと入るとアリサに対する信者たちの視線がさらに痛くなった気がした。
しかしそんな事にかまわずにスタスタと先を歩くルリ。
そして誰に止められる事もなく地階へと降りると大きな扉の前に立つ番人へと進み出る。
「中に入ります。扉を開けなさい」
ルリの自信満々の態度に番人は素直に従い扉を開けるのでアリサは呆気にとられていた。
「入るぞ」
シオンの言葉に我に返りアリサはルリと別れ急ぎその後に続く。
「ねぇ、さっきのルリはいったいどうしたの? あんなに簡単に従わせる事ができるなら信者の説得も簡単にできそうなものなのに」
「あの程度の事なら俺にもできる。ルリがしなければ俺がやるつもりだった。一時的に思考を停止させ従わせればいいだけだからな。それにルリなら魅了する事も可能だと思うぞ。ただルリはそうしたくはないのだろう。きっとたとえ悪人だろうと悔い改めさせ全員を救いたいとでも考えているのだ」
シオンの説明にアリサはさもあらんと頷いた。
「でもそれって多分とても時間がかかりそうだね」
「やり方が生ぬるい。もうそんな段階ではないと素直に認めてしまえば楽だというのに」
苛立たしげに呟くシオンに詳しくは知らないアリサは何も言えなかった。