気づいてみた
「シオンはこの国を離れても大丈夫なの?」
「ああ、アリサのお陰で随分と風通しが良くなった。眷属たちもだいぶ介入している。ここから先の成長を見守るくらいにはこの大陸はもう大丈夫だろう」
別に何をしたつもりも無いのだけれどアリサのお陰でと言われると何かしたかと少しだけ考え込む。
そしてシオンがこの国ではなくこの大陸と発言した事を不思議に思い首を傾げる。
「この大陸は・・・?」
「私が行って欲しい聖教国は別大陸にあります」
「えっと・・・」
アリサはこの大陸にあるダンジョンを楽しみ尽しながら別の国も回るつもりでいたので少しだけ驚き言葉が出なかった。
でもそういえばシオンはこの大陸を守護していると言っていた。
と言う事は、当然ルリが守護する大陸もあると言う事で、当然ルリが行きたいのはその大陸って事になるのだろう。
「この世界にはいくつかの宗教が存在しますがそれはすべてとある宗教から枝分かれしたものです。私はその源流となる神の化身として長く崇められていましたが最近は宗教間の争いが増え私の影響力も薄れつつあります」
暗い顔で話すルリの重々しい口調でアリサにはまったく興味も無かった宗教にもいろいろと難しい問題があるのだと窺えた。
「そういえば教会のマークに違いがあったね」
王都に来てからも何度か教会が併設する孤児院へ寄付の為に訪ねたが、飾られる女神像は一緒なのに教会のマークが違っていたのを思い出す。
「そうなのです。そしてどちらが正当かを争うようになり戦争の準備さえ始めようとしています」
アリサにしたら随分とくだらない事で争うものだと思うが、争い合う人たちには重要な事なのだろう。
しかしどちらが正当かを争い人を殺せなんて言う神様がいるのだとしたら、アリサはそんな神様は絶対に信じないし信仰するに値しないと思った。
「それって争う理由が欲しいだけじゃ無いの?」
「そうです。主導者が長く停滞し腐敗が進んだと思われます」
「それをどうにかしたいって事なんだね?」
初めてルリが話してくれた詳しい事情を確かめるようにアリサはルリの瞳をじっと見つめ慎重に聞いた。
「その問題を解決しないと折角アリサが提案した孤児院と病院の話も停滞し続ける事になるな」
先に答えたのはシオンだった。
「何でよ?」
「アリサが提供した金にはそれだけの魅力がると言う事だ。教会としては名目上一部は確かに孤児院や病院に使うだろうがそのほとんどを好きに使おうと考えているのだろう」
アリサはシオンの説明になんだかとっても腹が立った。
そもそもアリサが稼いだお金では無いのだけれど、教会の好きにさせる為に預けたつもりはない。
少しでも多くの子供たちの笑顔が見たい、今まで苦労していただろう国民に少しでも還元したいと思っただけなのに・・・。
やはり誰かに丸投げするのって思い通りには行かないって事なのだろうか。
「孤児院も病院も教会から離して作る事はできないの?」
「この国の宰相はかなり手を尽くしてくれているがそもそも孤児院も病院も先に教会が始めていたからな。新しく作るのは簡単だがそうなると教会が持つ施設はどうするかなど別の問題が山積みになる。教会側はその痛いところを突き邪魔をし停滞させているのが現状だ」
「私も協会関係者を説得しているのですが一教会の判断だけではどうする事もできず・・・」
要するに今までどの国も福祉関係は教会に押しつけていた手前強く出られないという事なのか?
なんだか良く分からないけれど、すべて民営化ってのはそんなに難しいのだろうか?
今まで漠然といろんなゲームが混ざり合った世界だと簡単に思っていたけれど、ここは地球とはまったく違う次元の異世界なのだと今はっきり実感していた。
だとしたらルリとシオンが仲間として付けられた時点でのんびり冒険を楽しむだけでは終わらないのだともっと早くに気づくべきだったろう。
ステータスをカンストさせて念願の忍者になったとして、じゃあその後は?
アリサはゲームの世界をプレイしていた感覚から現実に引き戻されたような気がしていた。