交渉されてみた
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王都に着くと既に宰相との面会予定が整っていた様で、出迎えてくれたシオンの眷属に案内されるまま登城する事になった。
アリサは訳も分からずにただ付いて行くのに精一杯で、通り過ぎていく王都の広さや人の多さに驚くばかりだった。
王城は山脈の麓で山を利用して建てられていて、高い山々がまるで城壁の様でもあった。
アリサ達は通用門からひっそりと城の中へと入り、面談室と言う名の接客室の様な部屋の設えががちょっと豪華な部屋へと通された。
アリサはまるで場違いなその雰囲気に緊張せずにはいられず、折角の座り心地の良いソファーに座っていてもくつろぐどころでは無かった。
「お待たせして申し訳ありません」
程なくして現れた白髭が似合う知的なナイスミドルがアリサ達の面談相手の宰相らしく、少し慌てた様子で部屋へと入って来た。
アリサ達はソファーから立ち上がり挨拶をする様に軽く頭を下げると、ナイスミドルはシオンの前に立ち握手を求める。
「シオン様でいらっしゃいますね。お初にお目に掛かります。この度は大変お世話になりました。お陰様でこの国はきっと救われる事でしょう」
「私はたいした事はしていない。勝手に滅びるのは構わないが国が乱れ民が苦しむのは私の本意ではない」
何だか偉そうなシオンの態度を脇目に促されるままにソファーに座る。
「早速ではありますが私共の相談内容を聞いて頂いても宜しいでしょうか」
放って置いたら宰相がシオンに対しいつまでも話し続ける勢いだったので、ルリが宰相の話を遮る様に言葉を挟んだ。
「これは失礼しました。そうでした、大事なお話があると言う事でしたね」
宰相は一瞬だけルリに視線をやった後、居住まいを正して「お伺いいたしましょう」と聞く態勢を整えた。
なのでアリサが学校給食の説明をしてルリが補足と交渉などをして、給食制度を国全土に普及させて欲しい事を話した。
「大変すばらしい制度ですね。新たな雇用や食材などの仕入れ先の選定等まだまだ話を詰めねばなりませんが、まずは各学校に調理室を作らねばなりませんな」
「資金調達に難がある様でしたらこちらから寄付をと考えています」
「寄付ですか?」
「ええ、ドラゴン素材の収益をそのまま寄付しても良いかと言う話になっています」
「いやいや、それは大変有難いお話ですが、そこまでお世話になる訳には参りませんでしょう。それに国を立て直す切っ掛けを頂いたお礼もありますが、この件を新王の采配でさせて頂けるなら私共はあなた様方に多大なる恩に報いる事ができる様考えさせて頂きます」
要するに宰相は、寄付はいらないからアリサの発案である学校給食を新たな王の発案として事業を進めさせて欲しいと言う事らしい。
ルリはアリサの方へと顔を向けどうするのと聞いている様だった。
「私は子供達が飢える事が無くなるのなら別に良いよ。ルリとシオンが手に入れたドラゴン素材でしょう。でもその使いきれない売上金をどう使おうかっていう相談をしに来たのに寄付がいらないとなると何の問題も解決しないよね」
アリサが投げやりに言うと今まで黙っていたシオンが口を開く。
「発案は新王の物でも良いが、賛同者として寄付を広く募れ、その一人にこやつの名を上げれば問題無かろう」
「それは御名案でございます。そうしましたら多大なる寄付を頂いたとして私共もお礼をする名目が立ちます」
「別にお礼はいらないよ。それよりさぁ今思ったんだけど、この国でのドラゴン素材の売上金全部預けるから孤児院なり病院の設立なりの福祉事業として運営に使ってくれないかな」
アリサはこの大陸にあるそれぞれの国で行われているドラゴン素材のオークションの収益を、この国だけで使うのはどうかとふと考えついた。
オークションの収益はそれぞれの国で同じように福祉事業に使って貰える様に還元すべきではないかと思ったのだ。
「考えてみたらシオンの眷属使って各国でオークションに参加しているんでしょう、だったらその売り上げはその国で使うべきだよね」
「そうですね、それは正しい判断です」
「私も賛成だ」
ルリもシオンも笑顔で賛同してくれたので、アリサは話はまとまったとばかりに安心した。
しかし宰相はシオンの眷属と言う言葉に何か引っかかりを感じたらしく、暫くブツブツと何か呟いていたがアリサ達は知らない振りをした。
そうしてこの国でのドラゴン素材の売上金を預け、これからも暫くオークションにドラゴン素材が出回る事を説明し、その売上金を使っての福祉事業推進を今回のお礼として丸投げする事にした。
「私が預けた者達から逐一連絡は入る。お主も何かあれば連絡するが良い」
アリサ達の話を聞きながら段々に顔を青くしていく宰相を尻目にシオンが話を纏めると、アリサ達は軽く挨拶をして早々に部屋を退出し王城を出たのだった。