再開させてみた
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思っていた以上に広い都内を人間化した姿で歩きながらシオンは自分一人で動くのは思いの外時間が掛かりそうだと感じていた。
何しろここルーリキュは、冒険者が人口の半分を占めていたピスリッツとは雰囲気も違い人口も驚くほど多かった。
これはルリに助言された様に、少し時間を掛けて新たな手段も考慮しなければならないと考えながら今夜の宿を探していた。
「シオン様ではありませんか」
後ろから不意に声を掛けられ振り向くとそこにモンゾールの姿があった。
まさか王都で自分を知る者に会うとは思っていなかったシオンは内心驚き、自分の警戒の甘さを感じていた。
「ここでお会いできるとは思ってもいませんでした。例の話も進展致しましたので少しお話させて頂いても宜しいでしょうか」
モンゾールは辺りに人の多い事を憚り多くを語らずに、近くにあったレストランへとシオンを誘い商談などでも良く使われる個室に入った。
そこでモンゾールは先程迄宰相と話をしていた内容を詳しくシオンに話し、ドラゴンの素材の販売に少し時間が掛かる事を報告した。
その報告を受けシオンは、自分が頼んだ料理が目の前に運ばれてきてもなおまだ思案していた。
「そのオークションに参加させる人員は私が用意しよう。それとお主とその宰相とやらに密に連絡を取りたいので護衛と諜報に長けた人員も貸し出そう。明日の朝には紹介する」
シオンはそう話すとモンゾールの返事も待たずに目の前の霜降りステーキに取り掛かり、その美味しさに目を丸くして食べ終わる前におかわりを注文していた。
モンゾールはシオンの話をもっと詳しく聞きたいところだったが、目の前のシオンの様子を見てそれを諦め自分も料理を食べ始めるのだった。
そして十分に満足した二人は明朝の再会を約束しレストランの前で別れると、シオンはそのまま足早に姿を消した。
※
「頑張ってるようだな」
アリサがエリアボスと戦闘しているとシオンが現れ呑気な声を掛けて来た。
「もう用事は済んだの?」
「ああ、事を急ぐのも自分で動くのも諦めた。それよりマジックバックを5つ程手に入れてくれないか」
「売る前に言ってくれれば良かったのに」
アリサはシオンの願いを聞いて呟く様に了承し、ジョブレベルカンストの為にもエリアボスマラソンを続行した。
シオンはこの地に居る眷属を8人招集し人間化させ、オークション要因として5人を待機させ残りの3人をモンゾールと宰相に預けて来た。
これからのドラゴン素材の扱いと共に、この国に蔓延る腐敗を排除するための話し合いは既に済んでいた。
場合によっては暗殺も視野に入れている。
そしてドラゴン素材をオークションにかける下準備は宰相とモンゾールでしてくれる事になっているので、後はマジックバックが手に入り次第各国へと眷属を送り出すだけに話はついていた。
シオンは眷属と念話が通じるので、これからはモンゾールとも連絡が密にできる様になったのはシオン達にとっても有難い事だと思っていた。
「肝心の自分の役割を忘れたのかと思っていました」
ルリがシオンを責める様に言うのをシオンは少しだけ顔を顰め「すまん」と軽く謝っていた。
「それよりさぁ、私に覚えのないお宝やアイテムがインベントリにあるんだけど、コレってもしかしてシオン何かした?」
アリサはシオンが黒龍の姿で街で暴れた事をまだ知らなかったので当然なのだが、シオンにより絶命した者達の個人所有の物がドロップ品と認定されインベントリに収まったのだった。
「ああ、多分そういう事だ」
説明らしい説明をされなかったが、きっとそういう事なのだろうとそれ以上詳しく聞く事は止めた。
「インベントリの整理の為にも色々売りたいんだけど、それもシオンに預ければ一緒に売り払ってくれるのかな」
アリサはインベントリにごちゃごちゃと入っているドラゴン素材だけでなく、自分にとって覚えのない物や売り払いたいアイテムも預けてしまおうと考えていた。
「どうせなら王都の方が売り易いでしょう。それに高値も付くと思いますよ」
ルリもアリサの考えに賛同しているのでシオンは「分かった」とだけ返していた。
こうしてアリサ達はまた3人体制へと戻り、ダンジョン攻略を再開させたのだった。