探ってみた
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「今後相手が何者だろうと敵を前にして気を抜く事は無い様にお願いしますよ」
宿へ帰ってからもルリにお説教をされていた。
それ程にルリにとってもショックな出来事だったのだろうと伺い知れて、私は素直に叱られ様と思いながらもつい言い訳をしてしまうのだった。
「反省しているってば、アレに似たサボテンを思いだしたら関連した思い出に浸ってしまったというか、思いもしていなかった敵だったから」
説教をするのにも流石に疲れ始めたのかルリは飽きれた表情を浮かべ溜息をつく。
「何があったか知らないがその辺にしておいてやれ、本当に恐ろしいのは人間だったりするからな」
話が聞こえていたのか帰って来るなりシオンは私を庇う様な事を言いながら部屋に入って来た。
「今日は何してたの?」
私は渡りに船と話題を変えるべくシオンに話しかける。
「取り合えず俺がマジックバック持ちだと言うのは知れ渡っただろう。そこで明日はドラゴンの肉を餌にしたいのだが幾つか俺に預けてくれるか?」
「ドラゴンの肉を売るの?」
「ああ、明日は領主と繋がっている奴らをあぶり出したい。少し派手に動く事になるかも知れないが早々に終わらせる。まあ任せておけ」
不敵な笑いを浮かべるシオンの様子に、神獣と言うだけあってただの脳筋じゃ無かったのかと何となく背筋に冷たい物が流れた気がした。
「そう急ぐ事も無いのでは?」
ルリはシオンに何かを確認するかのように慎重な口ぶりで訊ねる。
「モンゾールが王都に着くまでに決着させ、抗えぬという噂を流そうと思ってな」
「派手になさるのは構いませんが、私達の旅に影響が無い様にお願いしますよ」
ルリが少し呆れた様な様子を見せながらまたもや溜息をついている。
「いずれおまえの時も協力するのだ。まあ好きな様にやらせてくれ」
私には二人がいったい何を話しているのかまるで理解出来なかったが、少なくとも私と旅をする理由があるのだと言う事を感じていた。
「二人が何を話しているのか私にはまったく分からないんだけど、それで私はどうすれば良いの?」
「おまえは変わらずにおまえのしたい事をすれば良い、我らはそれに付き添うだけだ」
付き添って無いじゃんと言う言葉は飲み込んで、ドラゴンの肉をシオンに幾つか渡し私は既にルーティンとなった回復魔法の熟練度上げとグミの複製を始めていた。
「明日は初級ダンジョンの攻略の続きをするのですよね」
ルリにそう確認され、今さら何で? と思っていた。
「この街の名物でも探しに行きませんか? まだ新たな美味しいものに出会っていない気がします」
言われてみるとこの宿にはレストランが併設されていたので食事はそこで済ませていた。
モンゾールさんの払いだからと値段も見ずに高級そうな料理を堪能していた。
確かにカレーとオムレツには感動したが言うほど目新しい料理も無くルリの言う事にも納得する所がある。
「そうだね。折角これ程大きな街なんだから探せば珍しい料理もあるかも知れないね。でもどうせならシオンが用事を済ませて合流してからの方が楽しめるでしょう?」
私はルリが突然どうしてこんな話題を出したのかその意図がイマイチ理解出来なかったが、どうせ聞いてもはぐらかされるのだろうと分かっていたので思った事を言ってみた。
その上でなおまだ食い下がるなら予定変更をするのは吝かではない気持ちもあったし、詳しい理由を話してくれるかもしれないと言う期待もあった。
「やはりそうですよね」
しかし私の思いに反してルリは今夜三度目の溜息をついた。
「何かあるの?」
私はルリのその態度に反応してつい聞いてしまう。
「いえ、考えてみたらダンジョンに居た方が安全かも知れません」
ルリは呟く様に言い、思ったように詳しい理由も聞けずはぐらかされてしまったのだった。