取り交わしてみた
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「取り合えず主人とも相談させてください」
正気を取り戻したオッカムさんが慌てて部屋を出て行った。
私はレモン味のグミを取り出し幾つか複製し、その一つを口に運びながらオッカムさんが戻るのを待っていた。
(どのくらい売れると思ってるの?)
私は少し退屈になり話の内容を考え何となく念話で聞いてみる。
(どうでしょう、そもそも私達では値段も測りかねますしこの商会の資産次第でしょう)
(そんな事はどうでも良い、この国の盗賊の類を壊滅させる。できる事ならここの領主や国王諸共だ)
私はシオンの壮大な野望を聞き一瞬驚き、それじゃまるで私の妄想通り水〇黄門の世直し行脚じゃんと思っていた。
(私は装備を整えダンジョンに挑みに来ただけなんだけど・・・)
(おまえに迷惑を掛ける気は無い、その合間に少し立ち回るだけだ)
(まあでも私もグミでステータス上げしたいと思っているし、急いでもいないし別に良いんだけどね)
2つ目のグミを口に入れた時にノックの音が響き、オッカムさんと多分店主であろう人が一緒に姿を現した。
「私はモンゾールと申します、弟が命を助けて頂いたそうで大変感謝をしております」
私達の目の前に立ち挨拶をされたので、私達も改めて席を立ちそれぞれに名乗り挨拶をして席に座り直した。
「早速ですがこちらのドラゴン素材の買取の件ですが、取り合えず一通り預からせて頂き売上金から多少の手数料を頂くと言う形での売買を考えているのですがいかがでございましょう」
まるで揉み手でもするかのような明らかな商人態度のモンゾールさんに私は少し可笑しさを覚えた。
「ああ、それで構わない」
「それで手数料の件ですが」
シオンとモンゾールさんが話を詰め始め時間が掛かりそうな様子を見て、私は素材が痛まない様にとテーブルにあった素材をマジックバックに仕舞った。
「そ、それはもしかして、あの噂のマジックバックですか?」
「どの噂か知りませんがそうです」
さっきもオッカムさんの前でマジックバックから取り出して見せたのに今さら何だ、そう思いながら私は軽く答える。
「私共も是非手に入れたいと考えていたのです。もし宜しければそのマジックバックをお売りいただく訳には参りませんか? 勿論そちら様の言い値で結構です」
「3つは売ろうと思っていた物なので良いですよ」
「3つもですか・・・。是非それ全部買い取らせてください。いや、私共に払える額であったならの話ではございますが」
目を輝かせながら返事を待つモンゾールさん。
(言い値って言われてもそんなの私に判断できる訳ないじゃない)
「ドラゴン素材で一流の武器と防具を揃えて行こうと考えています。素材は提供しますのでこの子に良い装備を整えて頂くと言う条件では如何でしょう」
「勿論です。しかしその条件はオッカムから聞いたお礼のうちに含まれるかと」
「先程は鍛冶師の紹介をお願いしただけです、その手間や手数料などを考えればこちらとしてはそれで充分かと思いますよ」
ルリがニッコリと妖艶な笑みを浮かべると、店主もオッカムさんも何も言えず仄かに顔を赤らめている。
(ルリって今は男なんだよね? そう言うのはちょっとヤバいんじゃないの?)
(じゃぁあなたはお金を頂く方が良いというの?)
私が言ったのはそう言う意味じゃないんだけどまぁいいかと納得する。
(そうだね装備の方が大事だよね)
行儀が悪いだろうと思いながらもそう返事をし3つ目のグミを口に入れる。
「分かりました、私共が責任を持って一級品を揃えさせて頂きます」
店主の返事にルリが頷き返すので私は売る為のマジックバックを取り出し、その中に売る予定だったさっきまでテーブルの上にあったドラゴン素材を移し入れて渡した。
「できれば鞭とローブとブーツが欲しいのですが」
私は前の世界で着用していたドラゴンのローブやドラゴンのブーツにグリンガムのムチを期待して要望を伝えた。
前の世界で手に入ったんだからきっとこの世界でも可能な筈だよね?
お願いだよ神様、その位の要望は叶えてくれるよね。
私あの装備気に入っていたんだよお願いします。
そう心から願った。
「そうだ、装備を作って貰う為の素材は何が必要ですか?」
私はそう聞きながら、装備に使えそうな素材を一通り取り出し念のためにと少し多めに預けた。
ルリはそれを見て預かり証を書かせていたので、シオン程にはこの人達を信用していないのだと思っていた。