お風呂に入ってみた
少しお金も貯まったので一度港街へと出向き渡航料金を調べながら旅に必要な物を揃える事にした。
もっともその前に着替えを揃えお風呂にもゆっくり入りたいとも考えていた。
毎日一応水拭きをして汚れは落としてはいたけれど、全然サッパリしないし何よりもう既に着ている物が汚れでゴワゴワ言い出して限界を感じていた。
元の世界では考えられない事だったけれど、この世界でネグレクトされていたのもあって衛生に関する許容範囲はかなり広くあまり拘らない自分がいた。
自分で洗濯をするとは言っても余程ボロボロにならない限り着替えなど買って貰った事も無く、服を傷めるからと洗濯も余程汚れない限り洗うのは許されなかった。
風呂も入れたとしても私が入る時にはもう既にお湯ではなく日向の温い水と言った感じで、ましてやみんながお湯の中で身体を擦った後なのでお湯もかなり汚れていて、水拭きの方が寧ろ気持ち良かった。
他の家は知らないが、私の家族は石鹸を勿体ながりお湯の中で身体を擦って汚れを落とすのが当たり前だった。
そんな扱いに何の疑問も持たなかった幼少期の私を抱きしめてあげたいと思う事もあるが、元の世界で誰かが言っていた『本当に不幸な人は自分の不幸を知らない』と言う言葉を思い出し本当にその通りなのだと感じていた。
そんな訳で、自分で稼げるようになった事だし少しは人間らしい生活を心がける事にすると決めた。
洋服や下着の替えを何着か購入した。
それからこの世界の石鹸は頭も身体も洗濯にも使える万能の固型石鹸だったけれど、匂いがあまり良いと言える物ではなかったのが残念だった。
歯ブラシは木の枝の先を砕いて解しブラシの様にした物が主流で、歯磨き粉などを使わずに磨く所謂大きな爪楊枝と言った感じの物だった。
それでも必需品として石鹸に歯ブラシにタオルの様な綿の布を幾つか買った。
旅先で野営をする事になっても困らない様に、桶や木を彫って作ったコップとスプーンなども揃えて購入する。
そしていよいよ公衆浴場へと向かったが、私のあまりにも汚れた様子に顔をしかめ断られてしまったので仕方なく風呂が付いた宿屋に泊まる事にした。
初めは胡散臭そうにされたが宿泊代の70Gを出すと何も言わず泊まらせてくれた。
ダンジョン内の宿屋が20Gだった事を考えるとそこそこお高い宿屋ではあったけれどお風呂に入れる事を思えば仕方ないだろう。
1階に大浴場とまでは言わないが少し大きめの浴室があり、受付カウンターですぐにでも入りたいと言うと夕方にお湯を沸かすまで待てと言われた。
そうしてお湯が沸くのを待ってからお風呂に入ろうと浴室に行くと、この宿屋は男湯と女湯とに分かれていない所謂家族風呂の様な作りだった。
私は長湯は諦め、内側から風呂の扉を開かない様に閉めて早々にスッキリさっぱり洗う事だけを目的にした。
誰かに急かされる事を心配しながら慌てていたけれど、この世界に転生してから初めてのお湯のお風呂に感動していた。
できる事ならゆっくりとお風呂に浸かってみたかったけれど、今日は取り敢えず諦めた。
そして次は公衆浴場か部屋にお風呂のある宿屋に泊まり、ゆっくりとお風呂に浸かるのを目標に頑張ってみようと思うのだった。
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