クエストを受注してみた
・
HPとMPは時間経過や休憩などでも回復する様になっていたので、自分で計算していたより多くの魔法が使えた。
そして魔法には熟練度が設定されていて、一定の回数を使うと熟練度が上がり魔法の威力が大きくなる様だった。
なので私は単純にやり込み要素が増えたと喜んで魔法を使っていった。
「ねえ、ルリとシオンは攻撃に参加しないの?」
5m程離れた場所に居るスライムに向かってファイアを放ちながら、ふと抱いた疑問を聞いてみた。
「必要か」
「必要ですか」
二人は声を揃えて呆れた様な顔をしている。
「だってルリもシオンもレベル上げしなくて良いの?」
「私達にレベルと言う概念は無いわね」
「必要なら護衛程度には戦うから心配するな」
「じゃぁ経験値ってどうなるのよ」
「私達には必要ないわね」
「俺達が倒した経験値もおまえに行くようにした方が良いのか?」
「そんなことしたらパワーレベリングが可能って事になって、何か違う気がするから良いよ」
(寧ろ今からそんな設定変更が可能だって事を知って驚きだよ、どんだけだよ)
言葉には出さなかったが、驚いた事はきっと顔に出ていただろう。
しかし経験値はパーティー認識で頭割りって事じゃなく、ソロ活動と同じなのだけは理解した。
それにしても、頭の後ろで腕を組んで退屈そうに後ろを付いて来るシオンに、まるで執事か従者かと言った畏まった雰囲気でついて来るルリを見てアリサはため息をついた。
(これじゃ一番どうって事なさそうな私がリーダーみたいだよね。
もしくはどこぞのお嬢様が護衛を引き連れ身分を隠して旅しているみたいじゃないか?
なんか違う気がするよな・・・)
・・・・・・
まずはこの二人ともっと打ち解け合う必要があるのかとアリサはひっそりと思いながら街へと足を踏み入れた。
街と言っても塀で囲われたり門で出入りをチェックされたり税金を払ったりと言う事も無く、ただ建物が密集している場所と言った感じだった。
実際この密集した場所から離れた所にもポツポツと建物が見えるので、どこからどこまでと言うはっきりとした区切りは無いのだろう。
大きな通り沿いには商店などが色々と並んでいたが、冒険者ギルドとか商業ギルドの様な小説に良くあるギルドの類は見当たらなかった。
所持金は56G、これでダンジョン攻略のための準備ができるのか?
と言うか、宿屋に泊まれるのだろうか?
アリサはおもいきり溜息をつく。
すると『父ちゃんが森に入ったまま帰って来ないよぉ~』と泣きながら歩く少女の姿。
かと思えば『マンドレイクの素材を急遽募集中です』と店先で大声を上げる店員に『肉買い取ります』と店先に大きく張り出されていたりと、気が付けばあちこちにクエストの気配。
この中から自分で選んで受注し解決して行くのだろうとアリサは即座に納得した。
見上げればまだまだ陽も高い。MPは底を尽きたが手ごろな武器を購入しジョブを付け替えて森に入ってみるかと決め、他のクエストは受注しなくても現物さえ納入すれば良いのだろうと考えて少女に話しかけクエストの受注をした。
森で戦っているうちにレベルも上がるだろうと気軽に考えて武器屋に入ろうとしてシオンに止められた。
「武器が必要なのか?」
「うん、クエストを受注したから今から森に入ろうと思ってね」
「今からすぐですか?」
ルリが驚いた様に聞いて来る。
「だってまだ陽も高いしまだまだ戦えるよ」
「武器も必要だろうが他の準備はどうするんだ?」
「そうよ、まだ碌にレベルも上がってないじゃない」
「少し様子を見て日が暮れる前には帰るから、それにルリもシオンも居てくれるから大丈夫でしょう」
「そういう事は事前に相談して欲しいわ」
「そう言うのは事前に話してくれ」
またもや二人に声を揃えられた。
アリサはすっかりとソロ活動に慣れ過ぎて、誰かに相談するとか事前に了解を得るなんて考えもしなかった。
これじゃぁ二人と距離を縮める事も打ち解ける事もできないじゃないかと気が付いた。
アリサは深く反省し、二人にしっかりと謝罪してから改めて少女のクエストを受注した事、そしてついでにマンドレイク素材と肉を手に入れ少しでもお金を手に入れたいと予定を説明し協力を仰いだ。
「一人では無理だと思うのでお願いします」
アリサは深く頭を下げる。
「仕方ないわね」「分かった」
二人はまたまた声を揃えて答えて、アリサ達は森のダンジョンへと入る事を決めたのだった。