主人公になってみた?
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「そうそう、この森はダンジョンになってますけど今のあなたの実力じゃ少し難しいと思われますのでお気を付けください」
いよいよ冒険を始めようとした私にルリがそう言った。
「この森って、目の前に広がるこれ全部?」
奥に見える険しい山までの距離もかなりありそうなその広大な森林全部ってどれだけ広いダンジョンなんだとアリサは目を見張った。
「深い場所になる程魔物が強くなるからレベル上げには丁度良いだろうが、野宿の準備は入念にした方が良いと思うぞ」
既にすっかりと入る気になっているのか、それともアリサが入ると分かっているのかシオンはそんな事を言っている。
「どこの領地にも最低一つはダンジョンがあり、そしてここバアラニックはこの森林ダンジョンだけですがその広大さを誇っているのです」
アリサは目の前に広がる広大な森林を眺めながら、そのすべてを攻略するにはいったい何日位掛かるのだろうと考えていた。
そしてシオンが言うように、少なくとも食料や水の確保など入念な準備は必要だと既にダンジョン攻略を心に決めていた。
それではまず準備に必要なお金を手に入れる為にも魔物討伐開始ですねと近くをウロウロしているスライムにファイアを放つ。
勿論ファイアの一撃で姿を消したスライムは何もドロップしなかったが、インベントリには2G入っていた。
魔物を倒すとお金が手に入る仕様はゲームのままのようで、わざわざ拾う事無くインベントリに入ってくれる事にアリサは感激していた。
だってね、ドロップ品を拾うのって意外に手間だし大変だし、連戦したい時にドロップ品を拾うためにリズムを崩されたりする時間のロスは地味にイライラするんだよ。
そもそもがドロップ品を拾わないと言う選択肢は無いからね。
たとえそれが些末な物だろうがたとえ1Gだろうがだ。
これはアリサにとっては間違いなくとても嬉しい改革だった。
あの神様(?)もやるじゃんとアリサは目の前で手を合わせ心の中で感謝していた。
「そのインベントリもドロップの仕様も、実はアリサ様だけの特典ですからこの世界の他の方々にはあまり自慢されませんように」
「ドロップの仕様って、このお金の事?」
「ええ、それと自動回収の事もです。加えて言うならステータスの閲覧機能もマップもです」
「そうなの? また何で?」
「フフフ、今は快適に冒険をなさってもらう為の対処とでもお考え下さい」
何となくはぐらかされたような気もするが、アリサだけの特別なものだと知ると何故か余計にゲームの主人公になって攻略を始めた気になるから不思議だ。
「それにしてもさぁ、急に様付だし敬語っぽいのも止めてくれない。なんだか窮屈だわ」
「そぉ? 一応代弁での説明だったので気を使ってみただけよ。それにまだ少し慣れていないですしね。これからはそんな事も無いと思うわ」
変わらずに妖艶な雰囲気を撒き散らしながら見詰められ、立場的な何かがあるのかそれともアリサに言えない何かがあるのか、どちらにしてもルリはこれ以上詳しく話す気は無い事ははっきりと分かった。
それならばこちらから無理に聞く事も無い。
ただ自分の好きに楽しむと決めたのだから自分の思うように突き進むだけだ。
そうと決めれば街に向かいながらMPが尽きるまで連戦あるのみと意気込み魔物を探して歩いた。
スライムはぽよんぽよんとした動きで移動するだけで向こうから攻撃して来ない所を見ると、きっとレベルアップの為の魔物のだと思われた。
冒険初心者でも簡単魔物討伐だねと思っていたら、村の子供達が棒のような物を片手に3人がかりで取り囲み殴り倒している。
その様子に興味を惹かれ何となく眺めていると、倒されたスライムはくたぁ~として身体を崩し消える事は無かった。
(あっ、あれぇ~? 何で? もしかして殴って倒すと消えないのか?)
アリサは呆気にとられ呆然とした。
「倒した魔物が消えるのもアリサだけの仕様よ。皆には内緒ね」
ルリは人差し指を唇に当てウインクしてみせる。
「ちょっと待って、それっていいの?」
「じゃあ、解体したりその後の処理をしたりなどおまえに出来るのか? 俺はやらんぞ」
「そうよ、快適な冒険の為の措置だって説明したでしょう。理解出来なかった?」
シオンに睨まれアリサは肩を竦めていた。
まぁ確かにゲームの世界で倒した魔物の処理なんてした事無いけれど、それってこの世界でアリサだけがゲーム仕様って事になるのだろうか。
と言うか、それだとアリサが主人公でゲームを攻略しているようなものって事だよね。
でもそれってとても便利なようだけど問題も多そうだけど本当に大丈夫なの?
それにあの神様(?)はいったい何をさせようとしているんだとアリサは思い悩む。
謎は深まるばかりで少しばかり混乱しながらも取り合えず受け入れ納得して、楽しむと決めたのだと気持ちを新たに冒険を楽しむ覚悟を決めたのだった。