転移してみた
気球の様な乗り物を手に入れ、世界の中心にある魔王城の立つ大陸へと降り立った。
その前に臍の様に抜けていたMAPの場所にも出向き、当然その先で手に入るアイテムも手に入れている。
魔王を倒したら次の世界へ転移するのは決まっていて、アイテムの持ち越しはできないので今さらではある。
しかしそれとこれとは話が別なのだ。手に入るアイテムは手に入れるのがコンプ癖を持つ冒険者の性なのだ。
魔王城の建つ大陸はそう広くは無いが、魔王城迄毒の沼があちこちに広がり歩くたびにダメージが入るのがなかなかに面倒くさい。
そして魔王城の中もかなり広くそして当然の様に魔王城はダンジョンになっていた。
そこがダンジョンなら私は隅々まで隈なく歩くし、宝箱だって当然そのすべてを開ける。
さすがに最終ダンジョンだけあって当然の様に出て来る魔物もかなりお強いが、それ程手古摺る事も無く進んで行ける。
考えてみたら勇者しか使えない魔法があるにはあったが、ぶっちゃけそれ程取り立てて凄いってものでも無かったよね?
その魔法でなくちゃ魔王を倒せないとかそう言う設定も無かったし、考えてみたら勇者って本当に必要か? って感じだよね。
設定とか色々ガバガバ過ぎると言うか、コンプライアンス的にも問題があったりとか、令和の時代では勇者が完全に悪役だったりもするし時代が変わると色々変わる。
それでも当時のゲームを楽しむ人々に多大なる夢を与えたのは確かで、ファンタジーの世界に憧れと冒険の世界を広げたのはやはりゲームの力だったと思う。
だからいまだにゲームが止められないでいるのだ。
そして私はこの魔王城ダンジョンで魔王を討伐したら、ゲームの世界と言うイマイチリアルを感じきれなかったこの世界から脱出し、新たな冒険を始められる。
そこではまるで攻略本を見ながらの様なゲーム知識チートな冒険ではなく、新作を手探りで始める様な冒険を楽しむ事ができるのだろう。
この世界に留まるしかないと思っていたから、思う所も色々あったし今まで散々グズグズ考えたりもしていたけれど、今はもうさっさと魔王討伐して攻略してしまいたい。
その後この世界がどうなるのかとか深い事は考えていない。
だってここはきっとそう言う世界で、なぜこの世界に転生したのかなど思い悩むのは無駄なのだ。
もしかしたら以前漫画で読んだ事のある私が脳だけになっていて色々と実験されている世界だとか、デジタルの世界を彷徨っているとかと言う可能性も無い訳じゃ無いだろうが、深く考えるのは止めておく。
知る必要があれば知る事になるのだろうし、今は楽しめるなら楽しんだもの勝ちって事だけ考えておこうと思う。
サスペンスやミステリーは好きだがホラーは好きじゃないし哲学は難しい。
私は考えるより感じろを実行していくよ。
この世界のお陰で懐かしい昭和の息苦しさや不便さだけでなく、前世の懐かしい思い出も色々と思い出せた。
だから迷わずにまた一歩を踏み出して新しく始められる。
悩んでも迷っても失敗しても挫けても、今度こそ心から楽しかったと言える冒険を始めるんだ。
私はそんな事を考えながら鼻息も荒く魔王城を進んでいた。
初期のRPGだから難しい事なんて何もなく本当にソロでここまで来れたと我ながら感心し、いよいよ王の間の扉の前へと辿り着く。
この魔王は確か第二形態迄の変化だから手古摺る事は無いだろうが、一応用心しながら扉を開けて中へと入る。
本来だったら討伐する予定なんて無かったんだけど、私の都合で気が変わっちゃって本当にごめんね。
そう思いながら戦闘開始。
何度か攻撃を受けたがそれ程ダメージも無く第一形態終了。
第二形態へと変形中に攻撃を仕掛けてみたがその攻撃が届く事も無く、仕方ないのでその間に回復し改めて戦闘開始。
図体がやたらとデカくなっただけで然程恐怖を感じる事も無くサクサクと攻撃が通るグリンガムのムチ。
やはり何度か攻撃も受けたが『たたかう』連打の戦闘でも難なく魔王を討伐できた。
さすが昭和のRPGクオリティー、ステータスカンストの恩恵、そして装備の性能。
懐かしいゲームの世界を十分楽しませて頂きました。
私がそんな事を考えていると、魔王が消えた後にとても大きな黒い渦が現れた。
きっとこの渦を潜れば新しい世界へと転移出来るのだろう。
少しだけ躊躇したが、今さら転移しないと言う選択肢は私には無い。
次の世界も隅々まで遊び尽くし心から楽しんでやる。
私は意を決してその渦へと足を踏み入れたのだった。