埋める事にした
漁船を改良した渡船で大陸へと渡るとそこには大草原の小さな家の様な壮大な景色が広がっていた。
南にある山脈と深い森を抜け荒野を行けば神殿へと繋がり、西にある地平線に広がる連峰を抜ければまだ見ぬ国があり、北へは暫く平野が続くがその先は雪と氷の世界が広がっている。
ここが街へと発展しないのは、まだ開拓が始まったばかりで他の街へと続く街道がまったく無いからだろう。
辺りに広がる麦畑を眺めながらマップを広げどっちへ行こうかと考える。
そして虫食いの様になっているマップを見てとても気持ちが落ち着かなくなる。
やはりマップを埋めたい。
まぁ、魔王城がある辺りは私では行けないだろうから表示するのは無理だとしても、欠けたり途切れたり虫食い状態のマップは見ていて我慢できない。
でもその前に弟勇者より先に済ませておきたいイベントもあるし少し悩む所だ。
暫く考えて初めから始める事にした。
今やレアドロップでさえも当然の様に落とす様になった魔物を全種倒し、町や村で手に入る装備やアイテムを全種入手する事でコンプは無理にしてもアイテム蒐集欲を満たす事ができる。
そうしながらマップを埋めて行けば、取り合えず当面は目標を見失う事無く冒険が出来るだろうと思う。
きっと弟勇者が妖精の道を大分開放してくれた事だろうから、私でも歩いての冒険に支障は無い筈。
そして出来れば弟勇者より先にイベントで手に入るアイテムを入手し、複製した物を弟勇者に残す事で魔王討伐の邪魔はしないでイベントアイテムも手に入れられる。
多少ストーリーに変更が生じるだろうが、弟勇者に求められているのはあくまでも魔王討伐だ。
私は魔王を討伐する気はまったく無いからその辺に変更が無い限りきっと大丈夫だろう。
「うん、きっと大丈夫」
そうと決まればと早速王都へと転移移動した。
そして王都へは入らずに『ここからまた始めるのだ』と意気揚々と一歩をふみだした。
多少街道を外れる事になっても有り余るMPで一日に決めた能力の実の複製ノルマに問題は無いし、食料もたんまりと収納してある。
野宿をする事になったとしてもこの辺の魔物が襲ってくる事は無いだろうし、襲ってきたら返り討ちにするだけの話だ。
問題と言えば風呂だけだが、それだって主要都市に着くまでの我慢と思えばどうにか耐えられるだろう。
見た事の無い魔物を含めこの辺に出没する魔物を一通り倒したら逃げていく魔物には目もくれず全速力で移動しながらマップを埋めて行く。
体力が大分上がった事で息切れする事も疲れる事も無く移動出来ていた。
しかしこれが令和のゲームの世界ならきっともっと便利なスキルや魔道具なんかが数々あって、こうして徒歩の移動とか外で毛布に包まっての野宿なんてしなくても良いんだろう。
でもそうしたら魔物との戦闘も当然複雑化していて『たたかう』連打の様なチートなんて無理だっただろうから、そう考えたらどちらが良いかなんて一概には言えない。
そうして食事休憩を挟み時には野宿を経験しながらこの国のマップをすべて表示させ辿り着いた妖精の道。
「ここまで来て私には使えないって事無いよね?」
一人そっと呟きながら、渦巻の様になっている妖精の道へと続くその入り口へと恐る恐る足を踏み入れたのだった。