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転生したけれど


私はゲーマーとなってすでに長い月日を費やしていた。


大人たちが喫茶店や駄菓子屋の店先にあるシューティングゲームのテーブルに百円玉を積み上げて夢中で楽しむ姿を見ていた昭和後期。そんなに楽しいものなのかと興味を持った子供時代を過ごした。


やがて家庭用のゲーム機が発売され子供達も楽しめる様になったとは言え、我が家ではそう簡単に買って貰える筈も無い一般家庭で頭の固い両親だった。


髭の親父がお姫様を助けるゲームが流行った頃にはすでに働き始めていてゲーム機は自力で手に入れた。

そしれそのうちにRPGと言う主人公が世界を救うために冒険をするゲームが発売されると私はそれまで以上にゲームに夢中になった。


二頭身キャラのドットの荒い画像でストーリーも短かったが主人公の名前を自分で考える事ができるのは画期的で、魔物との戦闘でレベルを上げると言うのも画期的だったしアイテムを手に入れたり武器防具を整えたりするのも楽しかった。


その当時は攻略本なんて買える筈も無く、攻略サイトなんて物も無かったのでストーリーで行き詰まると、雑誌を立ち読みしたり友達と情報を交換するのが常だった。

誰よりも早くストーリーを進めたり裏技などを公表するとそれだけでもてはやされるので三日三晩徹夜でやり込む事もあった。


その内にお気に入りのゲームはシリーズ化されて行き、主人公の性別や性格など選べたり職業だとかジョブなんてものが搭載された時には興奮する程楽しみ寝る間も惜しんでのめり込んだのを覚えている。


そしてゲーム機の進化と共に画像が美しくなり、ストーリーだけでなくコントローラーの操作も複雑になり、難易度なんてものが搭載されると自分の能力も試されている様だったけれど、その頃の私は何と言ってもコンプリートに拘る冒険者だったので地道にコツコツとマイペースに楽しんでいた。


そして今何でこんな話をしているかと言えばどうやら私はそんなゲームの世界に転生していた様だ。



私には双子の弟がいるが、いつもの様に弟とのチャンバラごっこでいつもの様に適当に受け流した筈の彼の一撃を何かのはずみでおもいっきり頭に受け気絶した事で思い出した前世の記憶。


今とは違う別の世界での自分の記憶に初めは夢かと戸惑い意味も良く理解出来ずにいたが、色々と思い起こす内に何となくデジャヴを感じ、もしかしてこの世界はあのゲームの世界なのじゃないかと考える事も増えて行った。


まずは国の名前が一致していた。その上何よりも我が家は勇者を輩出した家らしく、父も勇者として魔王を倒す冒険に出たまま行方不明。

そして弟が十六歳になったらその父の後を継ぎ王様に許しを得て勇者として旅立つ事が決まっていると言う設定がもうそのゲームの内容のままだった。


しかし私としてはどうして転生先がこの世界だったのかと到底納得がいかなかった。


どうせ転生するならあのお気に入りの乙女ゲームの世界とか、女性主人公のゲームで錬金術師になるとか色々とあった筈なのに、寄りにもよって二頭身ドットキャラの頃のRPGだった事にガックリと肩を落とした。

なんというか今思い返すとやりこみ要素が少ないというか、当時は間違いなく感動したが今となっては自由度が少ないのが難点だろう。私は暫く思い悩み落ち込んだりもした。


そもそもこの世界は昭和のコンプライアンスも何もない時代の大人が考えた世界なので、ゲームのストーリーから外れた世界は当然男尊女卑。

女は男の所有物といった考えがまかり通り、貴族や商人の様な家でもない限り女には人権なんて言うものがなく、一平民の我が家の双子として生まれた私と弟との間には当然例えようも無い隔たりがあった。


弟は次の勇者として祖父と母からは期待され大事にされているが私はどうでも良い者の様な扱い。弟には部屋があるが私には無く。私は朝のご飯の支度に洗濯に掃除と母の手伝いをさせられるが、弟は祖父から冒険の為の心得を教えられ剣の稽古をしていた。


弟とチャンバラごっこで気絶してからは弟と遊ぶことを禁止されると、その後はあからさまに私は役立たず扱い。ご飯も家族の残り物をこっそりと食べるしか無くなった辺りもう私の居場所どころか存在すら無くなった様に思えた。


前世の記憶を思い出すまではそんな考えが当たり前だと何の疑問も持たずに受け入れていた事が今となっては本当に恐ろしい。

かと言って私にはその常識を変える事など出来る訳も無く、現実に抗う力も持ってはいなかった。


しかし私は前世の記憶をしっかりと思い出した。

それに不思議な事にあのゲームには無かった固有スキルと言うものを持っていると知り、初めは驚いたが今はそれがとても有難かった。


ステータスを開くとHPとMPそして力・素早さ・体力・賢さ・運と言うステータスの他に固有スキルとして『鑑定』と『複製』と言うのがあった。


鑑定はそのまま鑑定で人物だけでなく物も鑑定出来たが、複製がどうにも良く分からなかったので色々と検証してみたのだけれどやはりまだ良く分からない部分が多かった。


手当たり次第に『複製』と念じてみてはいるけれど複製にはMPを使うらしく、今の所複製できたのは掌の上に乗る程度の大きさの物だけで、その中でもっとも有効で嬉しく思ったのはパンだけだった。


しかしそのパンの複製にはMPの殆どが使い果たされてしまうので、複製できる回数も一日に一回だったから私は相変わらずいつもお腹を空かせていた。


MPが増えれば複製できる物も増えるだろうと考えてはいるのだけれど、MPを増やす為の手段としてレベルを上げようと思い付いてはいても今の所街の外に出て魔物退治など始める事には躊躇があった。


元々ソロプレイが当たり前のゲームだったけれどゲームの中では仲間を増やし四人で冒険をするのが定番で、今はここが現実なのだと思うと死を考え一人で魔物と戦うなんて実際にはかなり勇気がいる事だった。


取り合えずは毎日パンを複製しては飢えを凌ぎながら家事を手伝う毎日に慣れ過ぎて、まず一歩が踏み出せずにいるのはやはり私もこの世界の女は家に居る物と言う常識に囚われているからなのだろうとも思えた。


この世界で仕事をしている女性と言えば教会のシスターか宿屋の女将、そしてお城や貴族の屋敷で働く侍女や男の人を相手にする特定の仕事しかない。

後は家事や家業を手伝う女性ばかりで女性の冒険者なんてこの城下町でも殆ど見かけない。


そんな現実の中でお金も無く武器も持たず戦う術を知らない私はどうやったって一人旅立つ決意などそうそう出来るものでは無かった。


本来なら好きだったゲームの世界に転生できたのだから喜ぶべき所でもあったし、前世の記憶を生かし無双するなんて事を前の世界では考えた事もあった。

けれどいざこうして本当に転生してみると、この世界では女と言う性別が邪魔をして思う様にはいかない事が多いのだと言い訳ばかりを考えている自分だった。



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