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1. いざ吸血鬼の城へ

見たことないような規模の大豪邸――いや城と言った方が適切であろう建物の前で、アリスは非常に感動していた。


「うわーこれが吸血鬼のお城……すごすぎ!」

「おお、さすがにでけえな。吸血鬼ってみんなこんなところに住んでんのか?陰湿でイメージ通りじゃねえか」


 外見の不気味さに文句を言いつつも対吸血鬼の戦闘員だけあって、ジンから怖じけずいた気配は全く感じられない。現在午後6時45分、アリスとジンはこの古びた不気味な城と対面していた。2週間前吸血鬼に面談の約束を取り付けたアリスは、約束日である今日班長のザックと共に吸血鬼の自宅を訪問する、はずだった。

 

 ――2時間前――

 

 「ジン、悪いが今日の面談私の代わりに行ってきてくれないか?」

「面談ってザック班長……まさか吸血鬼のやつじゃないですよね?」

「そのまさかだ。すまんな。国から緊急招集がかかって抜けるわけにはいかなくてな。吸血鬼に直談判するの楽しみにしてたんだが」

「嘘でしょ……」


 ――――――


班長としての器が大きいのか、はたまた破天荒なだけなのか判断が難しいが、ザックはどんな難解な問題も楽しそうに受け入れる節があった。そしてそれに伴い比較的常識人な副班長が振り回されるのは、特殊部隊ASTN対吸血鬼班の日常である。頻繁にある尻拭いと言う名の無茶振りにジンは悲しくも慣れていたのだ。


「大丈夫ですよ。不気味な城ですけど、住んでるのおどろおどろしい吸血鬼らしいですし」

「接続語の使い方どうなってんだ。住んでる吸血鬼もまんまじゃねーか」


 常日頃からご機嫌なアリスだが、今日はより一層機嫌が良さそうである。

 敵対していた時代とは違い、現代において吸血鬼と人間は共存の道を歩んでいる。とは言うものの実際には吸血鬼が正体を明かさず人間社会に溶け込んでいる状況だ。共存というよりもお互いが損得勘定で動いた結果なのかもしれない。それゆえに日常的に吸血鬼に出会う機会は滅多になく――少なくとも吸血鬼と認識する機会はなく――アリスは今回会える機会に恵まれて内心とてもワクワクしていた。


「で、会うやつはどんなやつなんだ?班長とは情報共有してただろうが、俺にはまだ情報何も入ってきてねえぞ」

「あ、そうだ忘れてた。失礼いたしました。今回会う吸血鬼の名前はノアと言います。この場合バートンさんの方がいいのかな」


 ノア•バートン、それがこの城に住む吸血鬼の名前だった。吸血鬼が正体を明かさない世の中で奇跡的に連絡先が手に入ったのも、ひとえにノアが人間に協力した過去があるからだった。

 1年前一般人が吸血鬼に襲われる事件が発生した。吸血鬼に襲われる事件や吸血鬼絡みの殺人事件などは、共存の世の中と言えどいまだに存在する。人間にも犯罪者がいるように、吸血鬼にもラインを踏み越えて罪を犯す者がいるのだ。その事件も一見なんの変哲もない吸血鬼における殺傷事件のように見えた。しかし実際は病院に運ばれた被害者が吸血鬼に変化を始め、病院は一時大混乱に陥ったのである。その時偶然にも院内にいたノアが内密に自分は吸血鬼だと病院側に名乗り出て、変化中の人間に処置を施し大事には至らなかったのだ。その現場を対応したパーカー医師がノアと繋がっていたために、今回幸運にも連絡先が手に入ったのだった。

 現在パーカー医師は特殊部隊の医療班に所属しており、戦闘が多い対吸血鬼班との関わり合いも深い。


「パーカー医師が外見は恐ろしいと仰ってましたが、人助けに一躍買った吸血鬼なので信頼にはおけると太鼓判押してましたよ」

「……どうだかな。まあ聞く限り害はなさそうだが真意がわからない以上、ちゃんと警戒しておけよ」

「はーい」


 本当にわかってるんだろうな、と目線で念押しされたアリスはてへっと肩を窄めると正面扉のドアノッカーに手を掛けた。


 カーンカーン


 甲高い金属音がアーチ状の天井に響き渡る。静寂が訪れてもしばらく大人しく待っていると、内側から押されて大きな玄関の扉がギギギギと音を立てて動き出した。ガコンと大きな音を立てて扉のストッパーが溝に収まる。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 完全に扉が開いたとき、そこにいたのは1匹の白い狼だった。

 

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