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プレゼントは相手を見てから

「どうなさいました?」


 優しく話しかけてくれる執事さんに、僕は力ないため息を返した。美波みなみさんの予算をゼロにしてしまっていたとしたら、渚沙なぎささんにも申し訳ない。


 帰りの船でカジノをちらっと覗いたが、当然未成年はダメと言われた。それはそうですよね。


「どうしたの? 元気ないよ?」


 渚沙さんに言われて、今度はことの次第を正直に話した。


「なんだ、そんなこと。お姉ちゃんだって、気にしてないと思うよ」

「でもなあ……」

「そんなに気になるなら、帰りに二人で宝くじでも買ってみる? 少しは当たるかもよ」


 渚沙さんに言われて、僕は頭をかくしかなかった。


「そうしようか……損失を補填できるくらい、当たればいいけど」


 気分を切り替えるために、僕たちは船内をそぞろ歩いた。途中で何やらそわそわしている中西くんとすれ違う。


「中西くん、どうしたの?」


 渚沙さんが声をかけると、彼は胸の前で握り拳をもじもじとさせた。


「……すまないが、君の意見を聞いてもいいかな? プレゼントがしたくて」

「わあ、誰にあげるの? 女の子?」


 僕は早乙女さおとめさんのことだな、とぴんときた。案の定、中西くんは顔を真っ赤にしてうなずく。


「じゃあ、かわいいものがいいね! 最初は小さいグッズとかお菓子とか、軽い物の方がいいと思うけど……」

「そ、それなら大丈夫だよ。ちゃんとこの掌に入るくらいだし」


 そう言って中西くんが差し出したのは……なんていうか、よくある修学旅行のお土産でよくあるやつ。謎の黒い剣に牙をむいた赤いドラゴンが絡みついている、存在が混沌としたキーホルダー。


「……こんなのどこから……」

勝一郎しょういちろうじいさんのお土産一覧にあった」


 なんだろう、この造形は全ての年代の男共の心をくすぐるのだろうか。少なくとも、女子受けは全くしないことは想像がつく。


「えーと……あのね……」


 渚沙さんが目を丸くして、ものすごく言葉に困っている。絶対いらないけど、それをどう伝えていいのか困っている感じだ。


「迷ってるっていうことは、もう一つ候補があるんだよね? そっちも見てもらったらどう?」


 僕は助け船を出してみた。片方はもう少し、見られるものかもしれないし。


「そうだな。こっちと悩んでいるんだが」


 中西くんが出してきたのは、さっきと色違いのキーホルダーだ。剣が白で、ドラゴンが青というだけ。……これは違う物とは言わないんじゃないかな?


「中西くん、最初から考え直した方がいいと思う」

「なんでだよ!?」


 押し問答をしていると、そこに獅子王ししおう&早乙女コンビが通りかかる。彼女たちはジム帰りなのか、スポーツウェアを着て首にタオルをかけていた。健康的な色気が爆発していて、周囲の男共がちらちらとそちらを見ている。


「明日は下船だが、体調はどうだ?」

「おかげさまで」

「元気そうで安心した。私はゲストの歓待があるので下船には立ち会えんが、また学

校でな」

「もちろん私もお手伝いします!」

「……プライベートで来ているお前がなぜ?」

「いいんです!」


 早乙女さんが手を腰に当てたところで、ユカがやってきた。遠慮無くスマホのカメラを獅子王さんに向けて、ばしばし撮りまくっている。


「……ユカさん、断りもなくいいんですか?」

「もう許可はとってあるもーん」


 僕は獅子王さんを見た。


「別に撮りたいなら好きにしろと言ったが」


 獅子王さんらしい態度だ。ユカはそれからもしばらくシャッターを切り続ける。


「いやあ、美少女と豪華客船は絵になりますなあ。むふふ」

「私も写真に入れてよ!」


 食い下がる早乙女さんを見ながら、僕はこっそりと中西くんにささやいた。


「獅子王さんとユカに許可をとって、写真を使わせてもらったら?」

「な、なんでだよ」

「早乙女さんは獅子王グッズフリークだよ。写真でグッズを作ってあげたら、きっとなによりも喜ぶと思うけどな」

「その発想はなかった!」


 中西くんはそれを聞くやいなや、何やらぶつぶつとつぶやき始めた。彼をよそに、ようやく解放された渚沙さんがユカに近付いていく。


「ねえ、ユカさん。その前に、ちょっと話を聞いて。彩人あやとくんも」


 僕たちが顔を近づけると、渚沙さんはおもむろに話を切り出した。


「……私たちのツーショット、ユカさんのSNSにあげてもらわない?」

「な、なんで?」

「だって、結局ごたごたしたあげく、『本物』の私たちは姿を現さないままでしょ? これだと、なんか喧嘩別れになったみたいに見えない?」


 確かに、言われてみればそうだ。


「ユカさん、今回大変だったじゃない。それに、彩人くんの命の恩人でもあるし。一回だけ、協力したらどうかなって」

「……うーん……」

「せっかく指輪ももらったしね」


 渚沙さんはとてもいい顔で笑う。困ったことに、僕はこの顔にとても弱い。


「じゃ、ユカさん一枚だけ……」

「やった! いいの!?」


 ユカは文字通り飛び上がって喜んだ。いそいそと場所を選び、僕たちを人気の無いホールの隅へ連れて行く。





 ※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?

「中二病全開のお土産、なぜか生き残ってるよね……」

「相手の喜ぶものをあげるのは大事」

「さて、損失額はどのくらいか……」

 など、思うところが少しでもあればブクマや評価、感想で応援いただけると幸いです。

 作者はとてもそれを楽しみにしています!


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