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家に帰るまでが遠足です

「そろそろ行こうか?」


 僕はそれから何回かキスを済ませてから、渚沙なぎささんに話しかけた。周囲からはけっこう観覧車に向かってシャッターを切る音が聞こえてきて、落ち着かなくもなっていた。


「……うん。こずえちゃんたち、待ってるよね」


 僕はごく自然に手をつないで歩き出した。遥かに刺激的なことを済ませたせいで、このくらいなら心臓が爆発するような事態にはならずに済んでいる。


 会場に到着すると、すでにパレードの通路前には何重もの人垣ができていた。啓介けいすけたちもさっき着いたところらしく、かなり後ろの方から諦め顔で手を振っている。


「日曜の夜だから、みんな早く帰ると思ったんだけどな。結構混んでて困ったわ」

「てっぺんの方しか見えないかもね」


 啓介は普通にしゃべれるようになっていた。相変わらず雰囲気は恋人モードではないけれど、関田せきたさんに選んでもらったという黒いTシャツを嬉しそうに着ている。あの怪しげな緑の上着を着てないだけで、だいぶマシな奴に見えた。


 一歩前進、というところだろうか。


「あー、あそこの外国人くらい図体デカかったらなあ。後ろからでも見えるのに」


 啓介がため息をつく。確かに人垣の最前列に、大きなシートを広げて歓談している外国人グループがいた。みんなマッチョで、日本人より一回り体が大きい。ちゃんと座っているが、座高が高いため彼らの後ろだけ人が少なかった。


「あれ? あの人……」


 僕らと一緒にそれを見ていた渚沙さんがふと、前に向かって歩き出した。


「カイさんじゃないですか?」

「君は、ナギサかい!? まさか、こんなところで会うなんて思わなかったなあ!」

「どうしてここに?」

「会社の気の合うメンバーと慰安旅行なのさ」


 目の前で盛り上がる二人を見て、僕たちはぽかんとしてしまった。浅黒い肌をした外国人なのに、この人はぺらぺらと日本語を話していた。


「あ、紹介するね。こちら、カイ・ロケラさん。ハワイで仕事をしてて、お父さんが昔すっごくお世話になったの」

「君たちはナギサの友達かい? よろしくね」

「一人はボーイフレンドなの。ふふ」

「本当かい? ナギサも大きくなったなあ」


 カイさんはしみじみとうなずいた。渚沙さんを娘を見るような目で見ているから、本当に親しい関係なのだろう。


「どうだい、君たちもここで一緒にショーを見ないかい?」

「いいんですか!?」

「どうぞどうぞ。素敵な再会を祝して、写真をとってもいいかな?」


 僕たちはいそいそとシートにお邪魔して、一緒にカメラに向かって笑顔を作った。さすが渚沙さんパワー、最後の最後まで裏切らない。僕が感謝の気持ちをこめて彼女の背中に手を回すと、渚沙さんも心得た様子でくっついてきた。


「よし、完璧だ」

「もうすぐ始まるみたいですよ!」


 カイさんが微笑む中、楽しげな音楽が響き始めた。集まった人々から期待の声がもれる。その中で、カイさんはまだぽちぽちとスマホをいじっている。しばらくたって、僕の位置からメールの送信画面がちらっと見えた。


「これでよし」

「お仕事ですか? 忙しいんですね」


 僕が言うと、カイさんは笑った。


「いいや。これは、タツユキにメールを送っただけだよ。素敵な再会の写真が撮れたから、お裾分けをしないとね」

「タツユキ?」


 何故か猛烈に嫌な予感がしてきた。


「渚沙さん、まさか……」

「うん。うちのお父さん、遠海達之とおうみ たつゆきっていうの」


 僕はそれを聞くなりその場にくずおれた。調子に乗って抱き合っている写真を、あのシュワルツネッガーお父さんに。


 殺される。あの調子に乗ったナンパ男の前に、僕が殺される。


「どうしたんだい? 具合が悪いのかい?」

「ナンデモアリマセン……ノープロブレム……」


 カイさんが心配するから僕はなんとか座り直したが、正直それから見たパレードの内容は全然覚えていなかった。やっぱり運が良くなるのは、渚沙さんだけなのだ。それを忘れると、しっぺ返しを食らう。


 後に僕はこの教訓を忘れ、痛い目をみるのだが──それはまた、別の話であった。






※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?

「知ってた」

「やはり幸福と不幸は交互に来る」

「父さんの仕置き待ったなし」

など、思うところが少しでもあればブクマや評価、感想で応援いただけると幸いです。

作者はとてもそれを楽しみにしています!


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