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突然のダブルデートへの誘い

「おはよ」

「おはよう。この前はありがとう」

「どういたしまして。彩人あやとくんが当てたお肉なんだから、もっと自慢していいんだよ」


 週明け、教室の中で僕と渚沙なぎささんはお弁当を食べていた。幸い、三井はじめギリギリしていた男子たちは、関田せきたさんが引きつけてくれている。


「お父さん……どんな感じ?」

「相変わらず泣いたり騒いだり忙しいけど、仕事にはちゃんと行ってるから大丈夫だよ。はい、唐揚げあげるね」

「ありがとう……」

「かわりに卵焼きちょうだい」


 渚沙さんはとてもあっさりしていた。お父さんが理性を取り戻したら、また遊びに行かせてもらえるだろうか。


「お兄さんの調子はどう?」

「ああ、兄貴か。夏帆かほさんのおかげで、だいぶ顔色が良くなったよ」


 あの翌日、兄貴は夕食を食べに降りてきた。ゆっくり眠ったらお腹がすいてきたと言って用意された食事を僕以上にもりもり食べ、両親を驚かせたものだ。


「ちゃんと寝てるからか、成績も上がってきてるんだって。この調子でいけば、公立の医学部が狙えるって先生に言われたらしいよ」


 私立の医学部は学費がとんでもないので、うちから行くとしたら競争率の高い公立を狙うしかない。そのことは兄貴も分かっていたので、成績が上がったことは素直に嬉しそうだった。


「そっか、お姉ちゃんに教えてあげよっと」

「きっと喜ぶよ、夏帆さん」

「……ってあれ。かかってきちゃった」


 渚沙さんは困った様子で、電話に出る。


美波みなみお姉ちゃん? 今、学校だよ。急にかけてくるなんて、なにかあったの? え? ニャーズがどうしたって」


 渚沙さんが困惑している。その顔のまま、僕に電話を押しつけてきた。


「お姉ちゃんが代わってって」

「はい、小林ですけど」

「小林、お前はすごい。偉い」

「……はあ、ありがとうございます?」


 いきなり電話口でほめたたえられて、僕の感情が軽くバグった。


「ニャーズって聞こえてきましたけど、この前株を買ってた会社ですよね?」

「そう。その株、値段が倍になった」

「本当ですか!?」


 なんでも、猫の腎臓病を改善すると人気だったキャットフードが、SNSで取り上げられてバズり、テレビでも紹介されることになって、今かなり盛り上がっているのだそうだ。


「そんなこと全然知らなかった……」


 僕から要約を聞いた渚沙さんも、呆然としている。


「でさ。結果、五十万くらい儲かったわけで。できた婿よのう、君は」


 美波さんの声が弾んでいる。あのマイペースそうな人がこんな状態になるなんて、滅多になさそうだ。


「というわけで、近いうちにスペシャルなプレゼントを贈ろうと思う。期待して待て」


 美波さんは妙にテンションが高いまま、電話を切ってしまった。最後の会話を伝えると、渚沙さんは目を丸くする。


「お姉ちゃん、何をするつもりだろう?」

「……僕には分からないよ」


 どんなことが起こるにせよ、震えて待つしかなさそうだった。




「ハローエブリワン」


 そう言って美波さんが僕に会いに来たのは、そろそろ暑くなり始めた五月の放課後だった。うちの学校の古びた校門に美女がよりかかっていると、啓介けいすけがうるさく騒いでいたのはこれが原因か。


「は、はろー……」

「婿にこの前の報酬を渡しにきた」


 そう言えばそんなこともあったな。確か、株で儲けたお裾分けだったか。


 美波さんが細い腕で差し出したのは、横に長い封筒だった。


「チケット、ですかこれは」

「ワンダーランドの入場券と優先パス。しめて四人分」

「なんで四人?」

「夏帆姉と賢人けんとも誘えばいいじゃない」


 あっさり言われて、僕はふと考えた。そういえば大きな遊園地のダブルデートって、今までしたことなかったな。どんな感じなんだろう。


 一度やってみたくはあるが、問題は兄貴と夏帆さんの都合だ。二人とも今は忙しいだろうし、予定が合う日があるかどうか。


「ま、使うかどうかは好きにして」


 美波さんはチケットを渡すと、用は済んだと言いたげにすたすた歩き出した。





※今回のお話は楽しんでいただけましたでしょうか?

「彩人と渚沙さん、そろそろ次の段階かな?」

「美波さんはちゃんと大学行ってるの?」

「ダブルデートってゲームではよくあるよね」

など、思うところが少しでもあればブクマや評価、感想で応援いただけると幸いです。

作者はとてもそれを楽しみにしています!


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