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9.招かれざる助っ人

お久しぶりです。

なかなか甘くなりません。どうすれば良いのやら、、、。

 言葉ではつれなく返したエリンだが、間違いなくアイザックに話を聞いてもらったお陰で気が楽になっていた。あの日、部屋に帰りぐっすり眠った以後は、シェラに対して構えることなく接することが出来るようになった。


 眼鏡をするようになって、失敗が減ったからだろう、シェラは態度におどおどしたところがなくなった。そそっかしいのは生来の気質のようだが、愛嬌の範囲内に収まっている。

 しかし、たまにエリンを物言いたげな目で見ている時があるのだ。人の気配に敏い割に、心の機微に疎いエリンは、敢えて無視していた。しかしあんまりにもずーっと見られるものだから、段々イライラとしてきた。オブラートに包むということを知らないものだから、エリンは単刀直入にシェラに尋ねる。


「言いたいことがあるならさっさと言え」


 エリンの言葉にびくりと肩を震わせたシェラは俯き、一度体の前で手を握ったあと、ゆっくりと顔を上げた。


「あの、私……エリン様には大変感謝しているのです!」

「前置きはいい。用件はなんだ」


 振り絞った勇気をピシャリと潰されたシェラは耳があったら確実に垂れているだろう様子で恐る恐る言葉を口にする。


「えっと…その、ピアスの件ですが、伯爵様が大層お怒りなんです……あの方は怖い方です。ですから、伯爵様にピアスをお返しした方が…」

「ピアス……これか?」


 シェラの言葉を受けて、エリンは自分の耳たぶを指した。シェラはコクコクと頷く。

 エリンは首をかしげて呟く。


「これはあたしのだけど……」


 徐に驚くシェラ。なんで、そんな、とあたふたする様子を横目に、エリンは思案する。そういえば、伯爵家で着替えた際にも聞かれたなと思い至った。


(……このピアス、何かあるのか?)


 貧民街に捨てられたエリンの唯一の持ち物。

 破落戸は、「お貴族様(おとうさま)の最後の情けで持たされた宝石だろう?せいぜい大事にしな」と馬鹿にするように嗤っていたけど。

 伯爵様がこの程度の宝石を欲しがる理由がわからない。

 大体、嫁入りに着せられた衣装や身に付けた装飾品の方がよっぽど高そうだった。


 エリンの考えを邪魔するように部屋に軽いノックの音が響く。

 返事をする前にがちゃりと開いた扉から、ほわほわの髪がひょこりとのぞいた。


「エリン、元気にしてる?そろそろ離乳食の時期かなーと思ってね。あと良い知らせがー…」


 扉から顔を出したソフィアは、朗らかな笑みを浮かべていた。そして、中にいたシェラにあら?という顔をする。


「新しいメイド雇ったの!?」

「あぁ、シェラだ」

「なんだぁ、一人で困ってるかと思って、私も一人、人を連れてきたのに」


 扉を大きく開けたソフィアは、一緒に来た人物を紹介するよう扉の中に誘う。


「この子、私の友達なの!ずっとこの辺境伯家で働きたいと思ってたんですって!奇特な人よね!お兄さんが騎士団に所属してらした縁で、私とも顔を会わせる機会があってね。それで仲良くなったのよ」

「クレアです。エリンさん、宜しくね」


 クレアはきれいにお辞儀をすると、流れた深紅のまっすぐな髪をゆっくりとかきあげた。吸い込まれそうに濃い濃紺の瞳に、抜けるように白い肌。髪に負けないくらいに鮮やかな真っ赤な唇を柔らかく笑みの形に歪める。

 エリンはクレアに対してぺこりと頭を下げた。シェラもそれに倣うように慌てて頭を下げる。

 全員が何となくあいさつし終わった雰囲気を感じ取ってソフィアが朗らかに言う。


「クレアの事、ずっと兄さんに雇ってもらうよう言ってたのに、忙しいって全然聞いてくれなくて…!」


 ソフィアの言葉にクレアはニコニコと微笑む。


「だからね、今回実力行使に出たの」


 ソフィアは胸を張って宣言する。

 物騒な言葉に、シェラが目を丸くして首を捻る。


「通いでね、しばらく仕事をして、程良いところでエリンから兄さんに取り成してもらえないかと思って」


 エリンは呆れた顔でソフィアを見る。


「そんな勝手をして怒られても知らないぞ」

「大丈夫よ!今日だってここに来るまで誰にも会わなかったものバレたりしないわ。それに、こんなに人不足なんだから、実際クレアが働くことで助かれば、エリンもずっといて欲しいと思うようになるわよ!」


 ソフィアは堂々と言い放つ。エリンはため息をついた後、気づかれないようにそっとクレアを見つめる。


(この人手不足の中、志願者を退けるなんて…側近(リアム)が警戒するような女を屋敷に入れて大丈夫なのか?)


 訳のわからぬ展開に、シェラは全員の顔を眺めてオロオロとする。そして、奥から聞こえてきた泣き声にはっとした。


「あ、アクセル様が起きられたようです……私お世話を」


 その言葉にソフィアがフフフと笑う。


「あら、ちょうど良かったわね。こちらに連れてきて頂戴な」

「え、あ……は、はい」


 有無を言わさぬソフィアの様子に、一度奥に引っ込んだシェラはアクセルを連れて戻ってくる。

 シェラの腕に抱かれた赤子を覗き込んで、クレアは一度大きく目を見開いた。


「……なんて、……なんて可愛いの!」

「あ、クレアさん、子供好きなんですね」

「えぇ!そうなの!」


 人懐っこいクレアの笑みにシェラは警戒を解いたように笑う。

 ソフィアもそれを見て嬉しそうに笑っていた。


 エリンだけが、一歩引いてその様子を見つめていた。


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