2-1 出会いに感謝して
夢を見た。
やわらかい、やわらかーい、マシュマロに囲まれる夢。なんだこの柔らかさ。もっとこの弾力を堪能したいなぁ。
俺は右手を伸ばしてマシュマロを掴む。そして揉む。あぁ、やわらけぇ。
素晴らしい。ぼんやりとこれが夢だと分かっていたが覚めたくないと思った。
にょきにょき。
ん? マシュマロとは別の何かが夢の中に現れる。
……これはキノコか。ふむ、なかなか硬いキノコだ。キノコといえばお腹が減ったなぁ。なんだかすごくお腹が減っている気がする。
俺は欲望のままに左手をキノコへと伸ばした。
「いやん」
「……あれ?」
渚の嬌声で夢から目覚める。
そうだ、昨日は三人で抱き合って寝たんだった。おかげさまで特に寒さを感じることもなく快適に眠ることが出来た。
まぁ、地面の上で寝たので体の節々が痛いのだが。
……いやいや、今はそんなことはどうでもよくてだな。左右の手が掴んでいるものの正体を確認したかった。
まず右手を動かす。……ふにゅふにゅ。
なるほど、これは秋津さんのおっぱいか。半端なく柔らかいぜ。
これはどれだけ揉んでも飽きないなぁ。もみもみ。もみもみ。
当の秋津さんはぐっすりと幸せそうに眠っている。これ以上、眠っている人のおっぱいを揉むのはよくないな(起きててもダメだけど)。
だからあと一揉み。いや、二揉み——————結果、三十揉みくらいしました。
さて、それでは一方の左手が何を掴んでいるのか確認してみよう。
左手を動かす。……かちこち。
硬いな。しかしこれは金属的な硬さではなく、適度な弾力がある感じ。
「いやん」
そして連動する渚の嬌声。……なんだか嫌な予感がする。
俺はおそるおそる左手が掴んでいるものを確認させてもらう。
「いやああああああああああああああ!!」
思わず叫んでしまう。咄嗟に握っていたものから手を離す。
俺が掴んでいたのはおちんちんでした。
「もー俊介、朝から騒がしいよ」
「わ、悪い!」
渚がムッとしていたので即座に謝ってしまう。
空が白み始めて薄明るくなっていたがまだ眠り足りない時間帯。いきなり大声を出すのはよくなかったな。……それでも朱利さんは気持ちよさそうに眠っているのだけれど。こんな環境でも眠りが深いというのは羨ましい限りである。
「それでさ、俊介……」
「な、渚?」
渚は「はぁはぁ」と息を荒くしている。
目にはハートマークが浮かび、じゅるりとヨダレを垂らしていた。
さながら捕食前の肉食獣のような様相。
「ぼ、ボク————もう我慢できない!!」
「おい! ちょ! 落ち着け、渚! どこ触ってるんだよ!」
動物の檻から獰猛な動物が逃げた、状況としてはまさしくそんな感じだ。
自身の貞操を守るために下半身を中心に守っていたが、おかげで上半身の防御はおざなりになってしまい熱烈なキスを浴びるように受けた。
らめぇ! これ以上は、俊介おかしくなっちゃううううううう!! ビクンビクン!!
終わりなき快楽地獄が始まった。
「ふぅー、今回はこれぐらいで勘弁しておくよ」
「なぎさきゅんのきっすしゅごいよぉ……」
時間にしてどれくらいだろうか。五分か、一〇分か。
定かではないが、俺にとっては無限に等しかった。
骨抜きにされて体に全く力が入らない。おかげで呂律も回りません。
「なんか目が覚めちゃったしそろそろ活動始めようかー。朱利さーん、陽も昇ってきたので起きてくださーい」
ヨダレを垂らして体をビクビクさせている俺を放置して、渚はぐっすりと眠る秋津さんを起こしにかかる。
あまりこの状態で放置されたくないところだ。
「……もうちょっと寝かせて」
不機嫌そうな声で秋津さんが応じた。
知り合ってまだ二十四時間も経過していないが、なんとなく秋津さんのキャラクターは掴みかけていた。
あまり感情を表に出さない、飄々として、掴みどころのない感じ。
まぁ、昨日の夜は三人で号泣してたけど。……やめよう、昨日のことを思い出すと小っ恥ずかしくなる。あれは星空に照らされた各々の本音だ。
すでに夜は明けた。太陽の光は強すぎるから眩しすぎて逆に見えなくなる。
結局、何が言いたいのか。
秋津さんが苛立ちを表に出すのは意外だな、と思ったということだ。
「だめですよー。ほら朱利さん起きてくださーい!」
しかし、渚はそんなことは意に介さず我を通して行く。
「……うるさい、これ以上騒ぐと江古田くんの男性器を切り落とす」
やばいです、やばいです。渚の再度の呼びかけに秋津さんは怒りを示します。
秋津さんは朝が弱い人なようだ。ここはあまり刺激しない方が……、なんか俺のちんちんを切り落とすとか物騒なこと言ってますし。
「切れるものなら切ってください! とにかく、もう朝ですよ!」
「おい、渚! 賭けているのが人のモノだからって、気安く挑発しないでくれ!」
本当に切られたらどうするんだ。永久に童貞のままとか最悪だぞ。
「大丈夫、俊介。朱利さんはちょっと寝ぼけてるだけだって」
「そうは言うけどさ……」
「ハサミ……はない。じゃあ何で切る? いえ、別に切らなくてもいいわね。要は使えなくなればいいのだから。うん、じゃあ岩で叩き潰すことにする」
「ねぇ、渚!? 秋津さんはわりと計画的みたいだけど!?」
何としてでもリトル・俊介を破壊しようという強い意志を感じた。あまりの恐怖に股間が縮み上がる。僕のムスコをイジメないで!
「それはダメですよ! 俊介の股間はボクのものなので!」
「いや、渚のものじゃないからな!?」
これは俺の大事な相棒です。嬉しい時も悲しい時も一緒に過ごしてきた。
言うなれば男性器以上家族未満の関係だ(意味わからん)。
「二人が江古田くんの男性器を選ぶのであれば、わたしは寝るわ、おやすみ」
そう言って秋津さんはすぐに寝息を立て始めた。とても気持ちよさそうに眠っている。さっきまで物騒なことを言っていた人の寝顔とは到底思えない。
「もう秋津さんを無理やり起こすのは諦めようぜ……」
「そうだね……」
これ以上、俺の股間に危機が訪れるのも本意ではない。
新たな収穫。秋津さんはめちゃくちゃ朝に弱く、寝起きが悪い。
「とりあえず二人で今日の活動を始めるか。まずは……食料か?」
「じゃあ、バッタを捕まえにいこう!」
「頼む! バッタだけはやめてくれ! 他の食料にしよ!?」
昨日の夕食を思い出す。緊急時といってもあれは積極的に食べたくない。
「えーバッタ以外かぁ。となると魚とか? でも釣り具とかは手元にないよー」
「魚か。ちょっとまってくれ、前にサバイバル番組で見たんだが……」
俺はテレビで見たサバイバル番組を思い出そうとする。その時に、魚を取った方法で————そうだ、ペットボトルだ!
飲み終えて空になったスポドリのボトルを……。
ナイフ代わりに……手頃な石があれば……。
「ひとまずこれでいいか」
側面が薄くなっている石を発見したので、これをナイフ代わりにペットボトルを切断する。
比率はだいたい七対三くらい。飲み口側を短く切り取り、逆さにしてもう片方の断面にはめ込む。こうすることで簡易的な罠が完成する。
入口は魚が入ってきやすくなっているが、一度入ってしまうと飲み口の部分が小さいため中からは外に出にくくなっている。シンプルながら効果的な仕組みだ。あとはこの罠の中に魚の餌になるものを入れて海の岩場に沈める。はい、これで準備完了。
「すごいね、俊介! こんな方法で魚が取れるんだね!」
「いや、あくまで付け焼き刃だから魚が獲れるか保証はできないよ。だから他にもなにか食材がないか探索しに行こう」
「了解!」
罠に魚がかかるのを待つ間、俺と渚は森の中に入って食料を探すことにした。