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1-6 文明から切り離されて

 それから一時間くらいして材料を集めを終了した。


 渚と秋津さんはまだ食料集めをしているようでキャンプ地に戻っていない。

 てっぺんに見えていた太陽は明らかに傾いており日没が近づいていることを告げている。いよいよ時間がなくなってきた。

 さて、足元にはここまで集められたものが散らばっている。


 ・木の棒(凸凹している)

 ・木の板(木の皮を剥いだもの)

 ・枯葉(大量)

 ・枝(大量)


 枯葉や枝はいくらでもあるのに、棒や板状の木は全然見つからなかった。

 普段目にする木製の製品はすべて加工が施されているのだ、という当たり前のことをあらためて実感させられる。


「よし、とりあえずやってみますか!」


 完璧とは言い難いが必要なものは揃った。あとはテレビ番組で見たように板に棒を回転させながら擦り付ける。摩擦で火種を生み出すのだ。

 セッティングは完了。いざ火起こしを! 


「————痛い、痛すぎる!!」


 木の棒が凸凹しているせいで回転させるたびに手のひらに痛みが走る。痛みを恐れているせいか、明らかに回転が足りず火はおろか煙が出てくる気配もない。

 これじゃあ無理だ。まずは木の棒を平らに削らないと。

 近場にあった岩に木の棒を押し当てて出っ張りを削っていく。地味な作業なのに意外と体力を消耗する。そして、いたずらに時間ばかりが消費されていく。


「さて、再チャレンジだ」


 俺は平らになった木の棒ver2(愛着が湧いた)を使って再び火起こしに挑む。

 削れたところがささくれだっているため少しチクチクするが耐えられなくはない。

 俺は全身全霊を込めて木の棒を高速回転させる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ガタっ。勢い余って木の棒がずれる。慌ててなおす。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ガタっ。勢い余って木の棒がずれる。慌ててなおす。このあと繰り返し。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! ってもう無理や! 無理無理!」


 何度やっても煙すら出てこない。おそらくやり方が間違っているのだろう。木の板には焦げて黒くなっている箇所もあるが、それだけだ。

 気がついたら手にマメができているし、とにかく状況は最悪だった。でも火起こし担当を引き受けた以上、ここで投げ出すわけにはいかない。

 二人が帰ってくるまでは諦めずにチャレンジしてみる。



「ただいまー、俊介! ……ってなんか泣いてるし!」

「ぐすんっ。ち、違うわ! 目から汗が出てきただけだ!」

「江古田くん、目から汗は出ないわ」

「マジレスやめてもらえます!?」


 目から汗、は泣いてないことを隠す強がりなんです。本当に汗は出ません。

 秋津さんにはあまり冗談が通じないのかもしれない。


「で、どうして俊介は泣いてるの?」

「泣いてない! 目から汗が出てきただけだ!」

「江古田くん、目から汗は出ないわ」

「無限ループに入っちゃうから、俊介が泣いたことを認めてくれないかな!?」

「……泣いてました」


 ループ回避のため強がりを断念。

 俺はどうやっても火を起こせなかったことを報告。我ながら情けない。


「仕方ないよ。ボクがやっても無理だっただろうし。そんな風に俊介だけが責任感を覚える必要はないって」

「うん。江古田くんは悪くない」

「二人とも……」


 まだ出会ってから二十四時間も経過していない二人だけど、確実に友情や一体感のようなものが芽生え始めていた。仲間っていいな。

 だから、俺はあえて言わないでおこうと思った。

 実は手のマメが潰れたのが痛すぎて泣いていたということは。


「落ち込んでても仕方ないし、ご飯にしようか!」

「二人の方は食料を見つけられたのか。すんません。助かります」

「今夜はごちそうよ」

「まじっすか!? こんな場所でも食べ物は案外あるんですね」


 ごちそうと言うからには肉? いやでも肉だとしても火がないし……魚か! 魚なら刺身にして食べられるしな。二人の食料調達力はすごいな。

 ————なんて甘ったれったことを考えていた数分前の自分。


「こんなに捕れた」


 秋津さんが得意げに”それ”を手のひらいっぱいに広げます。

 えーと、とりあえずモザイクお願いします。たぶん地上波むりなんで。だってさ、そこにいたのは手足をもがれた大量のバッタなんですもん。


「おえええええ!! こ、これがごちそうなんすか!?」

「美味しそうでしょ?」


 秋津さんがにっこりと笑う。ここにきて初めて見る満面の笑み。それがめちゃくちゃ可愛いなと堪能できたのも束の間、すぐに現実に引き戻される。


「どこで笑顔になってるんですか!? 一応あなた女子高生でしょ!? こんなのよく平然と触っていられますね!?」

「?」

「そんなキョトンとした顔されても!」


 しかし、そんな表情も可愛いと思ってしまう俺がいた。


「まーまー、俊介。こうなった以上は贅沢言ってられないよ」

「な、渚は大丈夫なのか?」


 秋津さんはたしかに色々とバグってるが、渚は常識人寄りだと思っていた。

 はたして、現代人がこんな光景を簡単に受け入れることができるのか。


「あはは、これだってポテトフライと思えば結構いけるよー」


 そう言って、渚はパクパクと”それ”を食べ始める。

 あ、ここアニメ化するときはうまいことやってください。実写化する場合は役者さんに謝ってください。無理して食べないでいいですからね

 まじかよ……というかポテトフライとか言わないでほしかった。逆に食えなくなる。


「バッタだけじゃなくてキノコもあるわ」


 そう言って秋津さんは明らかに毒々しいキノコを取り出す。

 色は青。なんて言うんだろう、怖くなるくらい透き通ったキレイな青色をしている。


「自然界の青はあかん! 絶対に毒キノコでしょ!」

「……きっと大丈夫よ」

「キノコだけは『きっと』で食べないでください! ここで病人や死人を出すわけにはいかないのでこれは却下でお願いします!」

「あっ……」


 俺はキノコを自然にリリースする。

 それを見て秋津さんはちょっとシュンとしていた。萌える。


「じゃあこっちはどう?」

「うげ……なんすかそれ」


 茶色い球体の周りにイソギンチャクみたいな黄色い毛(?)が生えている。

 見た目は最悪だ。たぶん、これも食べちゃダメなやつだろ。


「俊介、これは食べられると思うよ。鳥が食べてるの見たから」

「な、なるほど。鳥が食べていたならおそらく毒はないってことか」


 となれば背に腹は変えられないな。現代社会から隔絶された今、選り好みなど許されない。バッタの刺身と触手フルーツの盛り合わせ。これが今日の夕食。

 ————ダメだ、字面だけで吐きそうになった。


「ええい、ままよ!」


 ふむふむ……なるほど。

 空腹は最高のスパイスなんて言うけどあれ嘘ですね。

 まずいものはどんな時でもまずい。味を感じたくないから鼻で息するのを止めている。これを味わったら確実にリバースすると思う。


 以下、誰得な食レポ。

 バッタ、吐き気を抑えるので精一杯。食感は————(自主規制)

 とにかく飲み物と一緒に無理矢理にも胃に流し込んだ。

 触手フルーツ、見た目は最悪だが意外と美味しかった。種が多いのは難点だが緑色の果肉は甘酸っぱくてクセになる。レモンとキウイの中間みたいな感じ。


『ごちそうさまでした』


 夕食は五分程度で終わった。夕食しか食べていないので全然空腹だ。

 ……それにしても渚と秋津さんは本当にすごいな。顔色ひとつ変えず黙々と食べていた。

 この二人のサバイバル耐性は異常すぎる。


「明日はもうちょっと多めにバッタ捕まえましょうかー」

「そうね。さすがにこれだけじゃ足りないわ」

「明日は頑張ってバッタ以外の何かを見つけましょ!? 本当に! マジで!」


 この二人の基準に合わせていたら精神とか体が持たない。


「ねぇ、二人とも。夕焼けがきれいだよ」


 渚がそう呟く。

 食事をするのに必死で気がつかなかったが、いつの間にか世界はオレンジ色に満たされていた。燦々と照りつけていた太陽は今日も今日とて定時退社を決め込んでいる。


「わたし、世界がこんな綺麗だなんて知らなかった」


 秋津さんはしみじみと夕焼けを眺めている。たしかにいつもはスマホやテレビの画面に夢中で、周囲の景色なんて気にも留めていなかった。

 文明から切り離されて、自然の恐ろしさと美しさを同時に感じることができる。

 こういうツアーがあれば案外受けそうだ。これがエンターテイメントならどれだけよかったか。しかし、残念なことにこれはガチサバイバルなのだ。

 なんとしてもここから脱出したい。やはり現代人に文明から隔離された生活は厳しい。

 俺たちはいつの間にかひとりで生きる力を失っていたのだ。


「————暗くなる前に寝床を作ろう。明かりがないから夜中に動くのは危険だし。……すみません、火が用意できなかったせいで」


 自然を生きる、というのはとにかく時間がかかる。ゆっくりと景色を楽しんでいる暇もない。明日の命すら保障されない状況で時間はいくらあっても足りない。


「そうだね。夜になったら真っ暗だもんね。ちょっと急ごうか。……それと火のことを言うのは禁止だからね。ボクたちは一蓮托生。誰かを責めるのはなしだよ」

「わかった。ありがとう」


 不覚にもうるっときてしまった。

 いけない、夕焼けというのは人を感傷的にさせる。

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